下校、そして奇行。あの、種族偽るのやめてもらっていいッスか?
「はぁ……。
散々な目にあったなぁ……」
私は帰り道を歩きながら、誰にともなくそう呟いた。
高校初日からあんなに目立っちゃって……。次に会ったら、絶対文句言ってやろう!
せめて、人目のないところに転送してほしかった。
でもまぁ、遅刻しそうだったことは確かだし、私が言えた義理でもないんだけれど……何か、釈然としない。
そんなことをブツブツと考えていると、ふとアパートの向かいにある空き地が目に留まった。
(ん?何か今、変なものが見えた気が……)
するとそこには、巨大な魚の体に人間の生脚が生えたみたいな怪物が、ピクピクと痙攣しながら倒れている、という、なんともシュールな画があった。
「あ……あの……!
そこのお方!み、水を……ぉ!水をくれッス……!」
(喋った!?)
え、今あの魚絶対喋ったよね?
たしか、あれサハギンって言うんだっけ。
……なんでここに居るの?
「み、水ぅ〜……!
はや、早く……!」
ビチビチと空き地の地面で痙攣しながら水を求めるサハギン。
ちなみに、魚の部分は鮎だった。
「えっと、お茶でもいいですか?」
「そ、それでいいッス!」
喉をくぐもらせたような男声を発するサハギン。
正直言って気持ち悪いけど、このまま見殺し(?)にするには罪悪感がある。
私は急いで空き地のサハギンの下へと駆け寄ると、鞄の中から水筒を取り出して、迷う。
「えっと……飲むんですか?
それとも、掛けるんですか?」
「で、できるなら浸してほしいッスが、掛けてくれるだけでも大丈夫ッス……!」
必死にそうまくし立てるサハギン。
私は水筒の口を開けると、そのまま中身を満遍なくそれに掛けてやった。
「ふぐ〜〜〜んっ!?」
「きゃあ!?」
サハギンは突如奇声を上げると、素早い動きで地面に足を踏ん張った。
どうやら峠は超えたようである。
「ありがとうッス、お嬢さん!」
「あ、いえ。それほどでも……。
そ、それより大丈夫ですか?さっきの飲みさしだったんで、ちょっと汚いかもしれないですけど。
ニオイとか……?」
今更だけど魚にお茶掛けていいんだっけ?
見る限り大丈夫そうだけど。
「なぬっ!?」
サハギンはそんな私の告白に、バッとこちらを振り向きながらそう叫ぶ。
「だ、だめでしt」
「寧ろオッケーッス!!」
どうやら、お茶をかけたのは失敗だったらしい。
(せめて、近くに水飲み場とかあればよかったんだけど……)
って、それはもう後の祭りか。
私はそんなサハギンに苦笑いを浮かべて、ちょっとだけ泣きたくなった。
ちなみに声はバリトンボイスだった。
「そうだ、お嬢さん。
あっしは恩返しがしたいッス」
「そんな!別に気にすることないですよ!」
(正直気持ち悪いからこの場から今すぐ立ち去ってほしいのが本音だけど)
「いえ、そういうわけにもいきません!
あっし、ケンタ・ウロスって言うッス。ケンタが名前で、ウロスが家名ッスね」
「いや、割合がおかしい。
というより、お前思いっきり魚でしょ?」
相手の名乗りに、私は思わず口を滑らせる。
それにしても、名乗られたなら名乗り返さなければならないよね……。
偽名にしようかな?
付きまとわれるのも面倒だし。
……。
いや、待てよ?
別に名乗らなくてもいいのでは?
さっさと要件だけ聞き出して、その間にサーッと逃げちゃおう。
うん、そうしよう。
「それで、ウロス……さん?は、恩返しって、何をするつもりなんです?」
「……龍宮城へ連れt」
「桐○健○か!」
「ナイス、ノリツッコミ!!
でも、言ってることは半分もわからないッスね!」
そう言うと、彼はヒレを器用にグッドの形にしながら、そう宣った。
……要件が短すぎて逃げる暇もない上に、さらにボケを入れてくるとは予想外でした。