未完
私立秋空高校から徒歩十数分。
まるで林のように立ち並ぶビル群、三神通りを抜けた先にある、少し大きな商店街、巳葦町通り。
パリのギャルリー・ヴィヴィエンヌをモデルに作られた、どこか和洋折衷でいて、自然に整えられたその商店街の中腹に、それはある。
階段を少し降りたところにある、森の中の小屋を想起させるような、木製の喫茶店「アルドラ喫茶店」の扉には、現在「CLOSE」の札が立て掛けられていたが、その奥では四人の少女と二人の男性が、秘密の会話を繰り広げていた。
鹿島九十九は、千尋と緋空を歓迎するように言うと、後ろに控えるようにして立たせていた御影に、静かに目配せをした。
「話は全部、そこの日代さんから聞きましたね?」
前置きとして彼はそう確認するように尋ねると、二人は各々肯定を示した。
「今日から千羽さんには、新たに任務を更新してもらいます。
内容は今まで通り、アミューから迷い込んできた住人を、ここに連れてくるというと言うものですね。
そして新メンバーとして、赤城さんを迎えます。
赤城さんには、千羽さんと同じ任務についてもらうことになります。
報酬は千羽さんと同じく十万円から」
九十九は一度そこで話を区切ると、奥の部屋に続くカーテンに視線を向けた。
二人が釣られて同じ方向を見ると、いつの間にかいなくなっていた御影が、そのカーテンから銀のお盆を手に現れる。
「(いつの間に……)」
緋空が驚愕のために「え?え?」と何回も連呼する傍らで、千尋は呆れたように肩をすくめていた。
九十九は、そんな緋空の反応に、僅かに口角を上げた。
その幼い容姿も相まって、まるで悪戯に成功した子供のようである。
「そして、もう一つ。
赤城さんには入隊祝として、こちらを贈呈して差し上げましょう」
御影は銀のお盆を持って、緋空の前に立つと、その上に被せられていたドームカバーを退けた。
すると、そこには一枚のカードが、御影石の台座に鎮座していた。
「クラス・アシスタンス・ユニット。
略称はCAUと言います。
既に日向さんから話を聞いているとは思いますが、簡単に言えば『着る武器』ですね。
変身する際は、【書界誘導】と唱えていただければ」
九十九の説明を受けて、緋空はそのカードをマジマジと見つめる。
そのカードの表面には、千尋のヴァルキリーの絵柄とは違い、そこに描かれているのは、巨大な大砲を持つ、些か扇情過ぎる格好をした女性であった。
「どうぞ、手に取ってみてください」
アルドラの城主に促されるままにそのカードを手に取ると、緋空はなぜかその瞳に涙を浮かべ始めた。
「これで、私も千羽さんと同じになれるんですね……!」
そう言うと彼女は、袖で涙を拭い、意を決したように口を開いた。
「【書界誘導】!」
「ちょっ、赤城さんっ!?」
慌てて止めようてするが、しかしもう遅い。
赤い円陣が彼女を上下に挟むように展開され、さらに下から登るようにしてもう一つの円陣が彼女の体を通過する。
「ふぇっ?」
赤い光が舞い、緋空の着ていた制服が分解され、一糸纏わぬ姿が喫茶店内に暴露する。
「う、うわぁあっ!?」
慌てて秘部を両手で隠すが、しかし九十九の目にはしっかりと彼女のその巨乳を脳裏に記憶していた。
ケダモノ様々である。
次に、体が小さくなっていき、小学生くらいにまで肉体が若返り始めた。
しかし、胸はそのままのサイズをキープしているため、前よりもちょっと大きくなったように見えた。
「……」
ジトリ、とウエイトレス姿の金髪幼女と日代が、そんな九十九を睨みつける。
そんな間にも、彼女の変身は続行する。
まず、髪の色が赤く変色し、結われた髪が解け、伸びる。
幾何学模様が浮き出たスーツが着せられ、肌に染み込み、赤を基調とした白いフリルの付いたドレスが生まれる。
因みに、胸は強調されるかのように、胸元に空いた穴から、キレイな形を保持して迫り出すようなデザインが為されていた。
最後に近未来的な、エネルギー砲が撃ち出されそうなデザインの砲門が四門、両肩の上と両腰の隣側に現れて、返信は完了した。
「千羽さぁ〜ん……!」
変身が終わると、彼女はよほど恥ずかしかったのか、千尋に凭れかかって泣き始めた。
「裸になるなんて聞いてないですぅ〜!」