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てんくーじょーのあるじ  作者: 記角麒麟
12/13

忍者、そして拠点。あの、赤城さんの性癖っていくつあるんでしょうね?

「それでなんだけどさ、赤城さん。

 私と、その仕事引き受けてくれないかな?」


 一コマ目の業間休憩時間。

 人目の無い校舎裏で、千羽千尋は、他人を巻き込むべく、そんな誘い文句を詠った。


「それって、つまり――」


 ――がさり。


 彼女のお誘いに、今まさに答えようとした瞬間。

 葉を揺らすような物音が、二人の鼓膜に響いた。


「(しまった!

 誰かに見られた!?)」


 もしこんなところを見られたのだとすれば、大変なことになる。

 具体的にどう大変かといえば、私の人生があらゆる意味で終わる!!


 咄嗟にそう判断した千尋は、どの様に誤魔化すか、または口封じをするかを瞬時に計算していく。


「(殴って記憶飛ばすか?

 いや、それはだめだ。

 もしミスなんてしたらそれだけでは済むはずがない)」


 しかし、その計算には碌なものが無かったのは、否定できなかった。


 千尋は音のした方向を探る。

 そこには、人がひとり隠れられそうな茂みはなく、あるのは灰色の煉瓦塀と、いくつかの広葉樹だ。


 だとすれば、音の類から推測するに、その木の中のどれかということになるが……。


 ――がさがさ、スタッ。


 しかし、次の瞬間。

 千尋にはそのどれに盗み聞きの犯人が居るかを確かめる必要がなくなった。


 それはつまり、相手の方から千尋の所へと飛び降りてきた(・・・・・・・)からである。


「千羽様。

 その話、ちょっと待った!……ナノです」


 少し鼻詰まりしたような、潜ったような声と、幼女特有の甘く、キンと高い声音を重ねたような、そんな声音で話すのは、軽めのゴシック&ロリィタファッションに身を包んだ、黒髪の幼女であった。


「……誰?」

「か、かわいい……!」


 そんな少女の登場に、一瞬呆けたような反応を見せる二人だったが、次に緋空が紡いだ言葉は、その場の反応としては若干ズレた感のある反応であった。


 幼女は、黒を基調とした、白いフリルを不断ふんだんあしらった、少し軽装なゴスロリ衣装を身に纏っていた。

 幼女は、そんな緋空の反応に、虚を突かれたように一瞬硬直すると、数瞬その言葉を噛み締めてから、威張るように胸を張った。


「そんなの、当然ナノです!

 何せアルドラ製のホムンクルスの中でも、この『日代号』は最も愛玩に優れた可愛さを併せ持つ筐体ナノですから!」


 漫画であれば、バックに「えっへん!」という文字が浮かんでいそうな程に、そう主張するホムンクルス。


 ホムンクルスとは、例えば日向さんや御影さんがそうである。

 本物の人間に似せて作られた、疑似生命体。

 たしか、水無月さんがそう言っていたことを、幼女の話を聞きながら、そういえばと思い出す。


「……それで、何の用なの?」


 閑話休題、このままでは休み時間が終わってしまうと感じた千尋は、すぐさま本題に戻した。


 ゴスロリ幼女ホムンクルス『日代号』は、若干起こっているような雰囲気を迸らせる千尋に唇を尖らせながら、少し肩をすくめてその質問に応じる。


「えっとナノですねぇ……。

 実はその話、既に日向ちゃんがしてくれているナノですよ」

「……は?」


 予想だにしない回答を返した日代は、怪訝に眉を顰める千尋に、事の次第を語った。


 ――回想――


 未だ立ち籠めて、もうもうと土煙を上げる瓦礫の山から、魔法少女のような装束の少女が飛び立った後。

 緋空は、彼女の残した千尋の心配していたというメッセージに、何か本人の与り知らぬところで、思考の及ばない方向へと暴走していた。

 結果、まだ校舎に残っているのであろう千尋へ、この思いの丈を知らせるべく、彼女は半壊した校舎へと駆けていくこととなる。


 緋空が目をハートに輝かせて、件の廊下へと辿り着くと、そこには見知らぬ麗人が立っていた。


 銀色の髪に、まるで人形の様な美貌を持つ、メイド服を身に着けた少女。

 その顔には何の表情も浮かんでおらず、こんな状況でさえなければ、精巧にできたラブドールと見間違えてしまう程であった。


「……あの、大丈夫ですか?」


 一瞬、あまりの綺麗さに呆然としてしまった緋空だったが、そのおかげで幾分か冷静さを取り戻した緋空は、かつての平生通り、彼女を心配した風に話しかける。


 校舎の崩落から今まで、然程時間は経っていないように思える。

 ならばきっと、あの落ちてきた怪物のような存在を目撃していた筈だろうし、それならば怖い思いもしたのだろう。

 そういった心配事を含んだ問いかけだったのだが、しかしその女の人は、予想だにしない返答をしたのだった。


「ボクと契約して、魔法少女になってよ(棒」

「……はい?」


 困惑した様に子首を傾げる緋空。

 大して女性は、その反応が芳しくなかったのか、顎に指を当てて何事か考えたあと、コホンと仕切り直すように咳払いをした。


「失礼、噛みました」

「はぁ……?」


 またもや困惑する緋空。

 彼女は思う、「(この人、何がしたいんだろう……?)」と。


「それはさておき、赤城緋空様」


 再び咳を挟むと、銀髪のメイドは仕切り直すように話しかけた。


「ご主人――もとい、ケダモノからの命令により、貴女様にご協力を願いたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「け、ケダモノ……?」

「ただの渾名です、お気になさらず」


 それから彼女は、日向と名乗るその女性から、現在の千尋の状況を教えられた上で、彼女がケダモノと呼ぶ存在から、緋空が加わるとなんだか面白そうだと言っていたからという理由で、魔法少女になるよう勧められ、現在に至るのであった。


 ――回想終了――


 そんな話を日向ではなく日代と名乗るホムンクルスから、簡潔に聴取すると、千尋は頭を抱えるのだった。


「(あの棒笑いはそういう意味かぁぁああ!)」


 聞き終えた千尋は、内心悶えながら、疑問を疑問のまま放置していた過去の自分に悪態をついた。


 そして、それとほぼ同時に、間の抜けたようなチャイムの音が、三人の鼓膜を打つのであった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 時は過ぎて、放課後。

 千羽千尋と赤城緋空は、上機嫌な足取りで前を行く、小さなゴスロリ幼女の後ろを歩いていた。

 向かっていたのは、家路とは逆方向に伸びる商店街へと赴く路地。

 高いビル群の隙間を抜けて、その先に見える、少し大きめな商店街の中程に、それはあった。


「アルドラ喫茶……?」


 ポツリ、と呟くのは、小首をかしげて看板を見上げる巨乳、もとい赤城緋空である。


 彼女たちが見つめる先にあったのは、西洋風の、どこか郷愁を誘うような趣のある外観をしている喫茶店であった。

 入り口は、少し階段を降りた先にあり、重いダークブラウンの木の両開きの扉が構えられている。

 その周囲には、小さな花が上品に花壇に植えられており、どこから森の中の小さな小屋のような哀愁を催している。

 更に見上げてみれば、二階、三階と建物は続いており、屋上からは花壇の花がチラチラと顔を覗かせている。


 緋空がそんな様子の喫茶店に呆然とする一方で、千尋はここがどういう場所なのか、ほぼ直感で理解した。


「(拠点の隠れ蓑ってところかな……?)」


 アルドラというのは十中八九、天空城アルドラの事だろう。

 喫茶店ということは、ここで資金調達を兼ねた隠れ蓑としてでも使うのだろうか。

 ……もしかしたら、平日はウエイトレスとして働かされたりもするのだろうか?


 千尋は、自分の現在の全財産を想起させると、それはそれで都合がいいかもしれないと考えた上で、更にはここの制服が可愛すぎたならば、私に似合うだろうかと、取らぬ狸の皮算用を始めていた。


 そんな彼女の想像は、喫茶店の中に足を踏み入れることによって肯定されることとなった。


「今日から、ここが私たちの拠点ナノです!」


 CLOSEとご丁寧に書かれた札を無視してその中に入ると、幼女はくるりと180度回転して、元気よくそう告げた。


「拠点?」


 対して、どうやら緋空はこの展開について来れていないらしく、疑問符を頭に浮かべる。


「ナノです!

 魔法少女というからには、やはり拠点も必要ナノですよ!」


 やはり、という言葉にあまりピンとこないようだった緋空に、千尋は補足説明を入れる。


「外出するときとか、色々理由があったほうが都合いいでしょ?

 それに、この仕事はお金貰ってするんだから、その発生源をちゃんとカモフラージュしておかないと怪しまれる。

 あとは、遠出する際に拠点になる場所があったら、色々都合がいいんだよ」


 看板を見た瞬間に理解したことを、千尋は緋空に告げた。


「さすがナノです、千羽様!

 言わなくてもわかってくれるだなんて……!

 ……ハ!?

 もしかして、私達相思相愛の仲ナノです?」


 千尋の補足に、何を勘違いしたのか、唐突な暴走を始める日代。

 しかし、そんな彼女の言動に、黙っていられない人物が、約一名千尋の隣にいた。


「そんなはずありません!

 千羽さんは、わたしの(・・・・)モノです!

 貴女になんて差し上げません!」

「いや、赤城さんのモノでもないからね?」

「そんな……!?」


 漫画ならば、ガビーン!とでもつきそうな、まるで雷にでも打たれたように打ちひしがれる緋空。


 と、そんな時だった。

 カウンターの奥から叱責するような、日代とはまた違った方向性の甘い声が聞こえてきた。


「うるっさいノヨ!

 玄関でギャーギャー騒がないノヨ!」


 三人が声の聞こえる方に視線を向けると、そこには金髪の幼女が、上品にフリルのあしらわれた、黒を基調とするウエイトレスの格好をして、腕を組んで仁王立ちをしていた。

 そしてその後ろには、苦笑いを湛えるアルドラの城主、鹿島九十九と、控えるようにして立つ、無表情な執事、御影さんが立っていた。


「漸く帰ってきましたね、千羽さん、そして赤城さん。

 ようこそ、アルドラへ。

 お待ちしていましたよ、二人共」

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