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邪神の拘束 2

 巻物を広げる。

「あった! 『闇の漁師よりで来る』の章!」

 カルブは日の出の書に記された祝詞を読み上げた。


「祝えり祈れり! なんじら罠をかけるモノよ、なんじら網をもちいるモノよ、なんじら漁師たるモノよ!」

 赤い小さな光の点がカルブの前に現れて、怪物の周りをユラユラとただよい始めた。

 それが何なのかわからないまま、カルブは祝詞を読み進める。

「祝えり祈れり! なんじらの父のそのまた父よ!」

 カルブの足もと、つま先の一歩前の地面に、両足を開いた幅よりも広い、緑色の光の筋が現れる。


「ワレはなんじらのもちいる網よりも大きく強き網の名を知ることをなんじらは知るや! “アンケト”はその名なり!」

 緑色の光の筋が輝きを増す。

「ワレはなんじらのもちいる網具の名を知ることをなんじらは知るや! “ルト”はその名なり!」

 赤い光の点が、網具に狙いを定める。

 怪物の左の頭がうなり、中央の頭はからかうように舌を出し、右の頭はクーンと鳴いた。



「名を呼ばれしもの、応え、出でよ! ワレはその名の秘めしまことをもちいてそれを従えり!」

 緑の光の筋(魔力ゲージ)が短くなり、入れ替わりに空中に、白く輝く何かが現れた。


「ワレはその、もたげるものの名を知ることをなんじらは知るや! “神の鉤”はその名なり!」

 白い光が形を成す。

 それは家畜を誘導するための、先の曲がった杖だった。

 それが、宙に浮いている。


「ワレはその刃の名を知ることをなんじらは知るや! “女神の屠り刀(ほふりがたな)”はその名なり!」

 これまた白い光を放ちながら、今度は家畜を肉にするための大きな刀が現れる。


 怪物がケンカを始めた。

 右の頭は網を捨てて逃げようと言い、中央の頭は網を捨ててカルブと戦おうと言い、左の頭はセト神の命令通りに網を押さえ続けるべきだと叫んでいる。


「名を暴かれしもの、消えよ、去れ! ワレはその名の秘めし真をもちいてそれを打ち倒せり!」

 赤い光の点(焦点光)の輝きが強まる。


「ワレは漁師らのもろもろの分銅の名を知ることをなんじらは知るや! “天の鉄”は彼らの名なり!」

 網の端についたウキのように働くオモリを“ブタの鉤”が引っかけて網から引きちぎろうとする。

「ワレはそのイグサの名を知ることをなんじらは知るや! “タカの羽”はその名なり!」

 網の目を結わう紐を“女神の屠り刀”が切り裂こうとする。


 が……

 鉤棒と刀は何度も攻撃をくり返したが、網はビクともせず、そのままカルブの足もとの緑の光だけがみるみると減っていく。


「セト神様の命ぜられるままに!」

 左の頭が吠え、怪物は左手で網を押さえたまま、右手で刀の柄を掴み取り、その刀で、ちょうど体勢を立て直すために高度を下げていた鉤棒を弾き落とした。

「ギャハハ! 一緒に遊ぼーぜ!」

 中央の頭の声に合わせて、刀の先がカルブに向けられる。

「うっ、うっ、あんまり意地悪しちゃダメだよォ!」

 右の頭が、本気とも嫌味ともつかない泣き声を上げる。


「カルブ!! 逃げろ!!」

 頭上の捕らわれ人が叫んだ。

「ツタンカーメン様も一緒に唱えてください! ワレは漁師らの名を知ることをなん……!!」


 怪物の首達が一斉に吠え出した。

「ワンワンワンワンワンワン!!」

「あおーーーーーーーん!! おーいえーーーーーー!!」

「ねえ、二人ともやめて!! やめてあげてよォ!!」


 三匹目もじゅうぶんにうるさく、怪物達の声に邪魔されて、カルブの声がツタンカーメンに届かない。

 そうこうするうちに緑の光が完全に尽きた。

 怪物に握られていた刀も、地面に落ちた鉤棒も消える。


 怪物は両手で網を握り直して……

 それをカルブ目がけて思い切りブン回した!


「「うわああああっ!?」」

 ツタンカーメンとカルブの悲鳴が重なる。

 網に捕らえられたままのツタンカーメンが、カルブに向けて投げつけられる。


 カルブはとっさに身をかわし……

 すれ違いざま、網に飛びついた。


参考資料

『世界聖典全集.  前輯 第11巻』

 大正九年、出版。


 研究番号 一五三 乙


 カルブが唱えている呪文の元ネタです。


 著作権切れでネット上で無料公開されていたのを拝借。

 古い書籍のページを写真に撮って掲載したものだったのでパソコンでのコピペはできず、読み方がわからない文字や、画数が多くてつぶれている文字も多数あり……

 画面上の文字を紙と鉛筆で書き写して、どこへ行くにもそのメモを持ち歩いて暇さえあれば解釈を考えて、今の形に仕上げるまでに一ヶ月近くかかりましたっ。


 何せ昔の本なので、古代エジプト語の研究がどこまで進んでいたのかも、その日本語訳がどこまで正確かも不明。

 さらに昔の日本語を私ヤミヲミルメが現代語に訳した際にも少なからぬミスが生じている可能性が高いです。


「死者の書」に記されていたのは呪文のみで、エフェクトは全てヤミヲミルメの独自解釈です。

 古代エジプトに魔力ゲージや焦点光はたぶんなかったと思います。

 もとの呪文は非常に長い上に意味の不明な部分も多いので、作中では大幅にカットしています。


 作中で「ワレはその、もたげるものの名を知ることをなんじらは知るや! “ブタの鉤”はその名なり!」としている部分は、実際は「我は其のたいの名を知ることを汝らは知る乎、“ブタの鉤”は其の名なり」でした。

 この「臺」というのは旧漢字の「台」なのですが、このままだとわけがわからず、調べたらこの字を「もたげる」の意味でも使うとわかったのでそれを採用したのですが……

 古代エジプト語の翻訳ではなく、大正時代の日本語の翻訳作業になっちゃってます、ハイ。

 それ以前に“豚の鉤”を、カギヅメの生えたブタのバケモノだと思い込んでずいぶん悩みました。

 こういったことが他の呪文でも行われています。




 ↑というあとがきを書いてしばらく経って、続編のための勉強をしていたら、ブタではなくプタ、濁音ではなく半濁音で、神様の名前だったと発覚しました。あああああ。


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