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邪神の拘束 1

 首都テーベの町中、日干しレンガで作られた家々や商店が連なる道を、カルブは大きな麻袋を背負って走っていた。

 セト神の狙いが王座なら、きっと王宮に現れる。

 袋の中にはオシリス神話の巻物がぎっしりと詰まっている。


 息が切れ、ふと冷静になって足を止める。

 つい先ほどカルブはターイルの店で「ツタンカーメン様が危ない!」とわめき散らした。

 それを聞いたターイルは「巻物の聖なる力を使え」と、カルブに店の商品を売りつけたのだが……

 ターイルの性格からして、カルブの話を本気にしたとは思えない。


 ツタンカーメンを助けたい一心で、ターイルに言われるままに買い込んだものの、同じものばかり本当にこんなにたくさん必要なのだろうか?

 そもそもターイルのような俗物がただ書き写しただけの巻物に、聖なる力なんて宿っているのか?



 突然、通りで何かが爆ぜるような音が響いた。

 悲鳴が上がる。

 それはあちこちで次々と起こる。


 カルブの目の前で、カルブと同じようにキョロキョロしていた男性の胸飾りの護符が弾け飛んだ。

(護符が持ち主を守ろうとして耐え切れなくなった……? いったい何が起きてるんだ!?)

 破裂音と悲鳴の連なりは、王宮の方角へ続いていった。


(どんな力かわからないけど、きっとセト神の仕業だ!)

 カルブはオシリス神話の巻物を開いた。

 ターイルいわく、これを読み上げれば邪神は退く。


 しかし……

「!!」

 まだ一文字も読む前に、見えない力に吹き飛ばされて、カルブは気を失った。







「う……」

 目が覚めたはずなのに夢の中に居る気がする。

(また冥界の夢……? まさか本当に死んだわけじゃないよな……?)

 辺りは薄暗く、やけに静かだ。

 川が流れる音と……他には……


「でやあああああああ!!」

 遠くない距離から響いた叫びに、ハッとして顔を上げる。

 テーベの町並みはカルブの周囲から消えていた。

 ここはだだっ広い川原だった。


 背の丈の何倍もの高さの空中に、ツタンカーメンが網に捕らわれた状態で、もがきながら浮いている。

 頭蓋骨から足の指まで、絡まっているというよりも、編み込まれているように見える。

 ツタンカーメンがいくら暴れても、網にはわずかなほころびも現れない。


 網の上の端は、釣で言えばウキで吊られたように空中に止まっている。

 網の下の端は、名も知れぬ怪物の手によって引っ張られていた。


 怪物は、体は小さく、毛深くて、尾の長いサルのようだった。

 しかしその首から上には、犬の頭が三つも生えていた。

「セト神様に逆らうな!」

 首のうちの一つが叫んだ。


(大変だ! ツタンカーメン様を助けないと!)

 カルブは麻袋を武器の代わりに振り上げようとしたのだが……

「!」

 その途端にヒモが切れて、中のオシリス神話の巻物が散らばってしまった。


 音に気づき、怪物の三つの頭が一斉にカルブの方を向く。

 構わず駆け寄ろうとして、落ちた巻物を踏んづけてスッ転ぶ。

 怪物の頭の、カルブと向き合って左は見下したような冷たい視線をカルブに送り、中央はゲラゲラと笑い、右は痛ましげに目を閉じて顔を背けた。


「くそっ! あ……れ……?」

 カルブが踏んでしまった巻物は、表紙のタイトルが他と異なっていた。

 冥界の旅で死者を守る『日の出の書』が、一冊だけ紛れ込んでいたのだ。


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