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邪神の罠 1

 冥界の一角に設えられた巨大な書庫。

 入り口をうろうろしていたツタンカーメンは、書を読みながら出てきたトート神とぶつかりそうになってしまった。


「何か用か?」

「ほ、本を借りにっ!」

「様子がおかしいぞ? ポルノでも探しにきたか?」

「えっとっ! そのっ!」

「勝手に持っていけ」


 ツタンカーメンはほっと胸をなで下ろした。

 これで少なくとも泥棒にはならないし、詳しく訊かれなかったおかげでセト神のお使いだとも明かさずに済んだ。


 トート神は忙しそうに去っていった。

 来客の予定があるのだろうか、手にしていたのは異国のマナーの本だった。



 ただ一本の巻物を求め、果てしなく連なる書棚をグルリと巡る。

 目当ての巻物の表紙は赤い。

 だから目立つはずなのだが、棚から棚へと飛び回ってもなかなか見つからない。


 誰かが入ってきた。

 書棚越しに、頭飾りのダチョウの羽が揺れるのが見えた。

(やばい! 女神マアトだ!)

 よりにもよって正義と真実の女神様である。

 このお方に目的を知られるわけにはいかない。


 こそこそと隠れようとしたツタンカーメンは、書棚に思い切りぶつかってしまった。

 書棚は倒れこそしなかったが、積まれていた巻物が転がり落ちる。


「見つけた」

 女神マアトが巻物の一つを拾い上げた。

 とても遠い場所に住む、三羽のダチョウ神の教典だった。


 女神にも手伝ってもらって、残りの巻物を書棚に戻す。

 その最中にツタンカーメンのつま先が床の敷物に引っかかった。

 めくれた敷物の下に扉が隠されていた。

「あ!」

 ツタンカーメンが思わず声を漏らすと、女神マアトが無言で敷物を直した。


 女神が書庫を出ていった後で、ツタンカーメンは再び敷物をめくって床の扉を確かめた。

 戸板に文字が書かれていた。


『神に害なす意志のある者、この扉を開くこと叶わず』


 ツタンカーメンは躊躇なく取っ手に手をかけた。

 床の戸板は抵抗なく持ち上がった。

(そうさ。別に悪いことじゃないんだ。トート神だって許可してくれたんだ)


 扉の向こうに明かりはないが、幽霊には不自由はない。

 ツタンカーメンはその先の通路に身を躍らせた。






 もしもツタンカーメンがセト神の真意に気づいていれば、扉の封印は解かれはしなかったのだが……


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