表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面  作者: 悠里
3/3

第三話


母が入院している病院は、家からバスで20分程の場所にある総合病院だ。僕は毎日母の御見舞いに来ている。いや、正確には母の顔を見てはいない。どんな顔をして会えば良いのか分からない。

今日も僕は母の病室の前でドアを開けようとして、結局出来ずに帰るのだ。


両手を見る。外した仮面は何処かへ消えて無くなる。どうして無くなってしまうのだろう。どうして僕にはこんな力があるのだろう。どうして僕は仮面が見えるのだろう。どうして。


「あら?ーーさんじゃないですか」


聞こえた声に顔を上げると、笑った仮面を付けた看護士がいた。確か、母の担当看護士だった気がする。


「今日も会わずに帰るんですね」


看護士の言葉にどう返して良いのか分からず、僕は無言だった。


「いつか、気持ちの整理がついたら顔を見せてあげて下さいね。きっとお母さん喜びますよ」


この看護士は僕の能力のことは勿論知らない。母がいきなり廃人になってショックを受けているのだと思っている。……間違ってはいないが。

僕は頷いて、その場を後にした。




「葉蔵」


受付まで戻ると、何故かコノミがいた。病気にでもなったのか。と問うと違う違うと右手を振る。


「依頼じゃ依頼。ほれ」


差し出された書類を見る。そこに書かれた名前と顔……いや、仮面に、心臓が止まりそうになった。




時刻は深夜2時をさしている。僕とコノミは母の病室に隠れていた。やがて、懐中電灯の光が室内に入ってくる。その人物は母に繋がれた点滴に何か細工をしているようだ。


「そこまでじゃ!」


コノミが電気を付ける。

そこにいたのはーー、あの、看護士だった。

伊東美幸(いとうみゆき)27歳。彼女の担当している重症患者が亡くなることが多いので調べて欲しい。という内容だった。


「細工をしてわざと死なせておったのじゃな。何故そんなことをする」


コノミが言うと、伊東はふっと笑って。


「私はただ、苦しむ人達を助けてあげただけよ」


と言い放った。


「苦しむくらいなら、楽に死なせてあげた方が良いじゃない」

「貴様……!葉蔵、やるのじゃ!」


僕は一瞬躊躇った。

彼女と僕に、何の違いがあるというのか。殺しはしていないとはいえ、僕は人間を廃人にしているのだ。それは人殺しと変わらないのではないか。


「葉蔵!」


コノミの言葉に現実に戻る。伊東は僕に襲いかかり、首を絞めにかかった。女性の力とは思えないその力。

僕は、震える手で、無意識のうちに、仮面をーー。




倒れている伊東。コノミは僕を見て。


「何故躊躇った?コイツはお前の母を殺そうとしたんじゃぞ?」


と言った。その口調には怒りが含まれているように感じた。

君には分からない。とだけ言うと、僕は母の顔を見た。




仮面ではない母の顔は、とても穏やかだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ