第二話
僕が朝起きて一番最初にすることは、洗面所の鏡で自分の顔を確認することである。
今日も僕の顔には、仮面がある。それを両手で掴み引き剥がそうとするが、取れない。
そう、僕の能力は何故か自分には使えないのだ。僕は溜息をついて、いつものように顔を洗った。
リビングに行っても、誰もいない。
父は朝早くから夜遅くまで仕事をして、浮気相手と愛し合っているので滅多に顔を合わせることがない。
冷蔵庫を開け、卵とウインナーを取り出して朝食を作る。
自分の作ったご飯を口に押し込んでいると、母の作ったご飯が恋しい。もう二度と味わうことの出来ない。僕がそうした。
そんな罪悪感にいつも押し潰されそうになりながら、僕は鞄を手にし学校へと向かう。
学校が終わると、僕はコノミの事務所へと向かった。表向きは探偵事務所だが、裏では山本のように法で裁かれない悪人を裁いている。と、コノミは言う。
元々事務所はコノミの両親がやっていたらしく、その頃はまともな探偵業だったらしい。
両親を強盗に殺され、その強盗がたった13歳の少年で罪に問われなかったことが原因で、コノミは両親の事務所を継ぎ、裁きを始めたそうだ。
それが嘘か本当かは、分からない。
「おお、葉蔵。漸く来たか」
事務所の扉を開けると、社長椅子に座ってパソコンのキーボードを叩いているコノミがいた。
「ほれ、新しい依頼じゃ。目を通せ」
差し出された数枚の紙を手に取り、言われた通りに目を通す。
渋井拓郎。32歳。
詐欺師。今まで何人もの人間から数千万もの金を騙し取っている。実行しているのは部下の為なかなか尻尾を掴めなかったが、今回告発により正体を知ることが出来た。
告発……きっとまともな方法ではないのだろうな。と思った。
警察に任せれば良いのでは?と考えた僕を見透かしたようにコノミは言う。
「警察に任せたところでこういう輩はまた同じようなことをするのじゃ。これ以上被害者を増やす訳にはいかぬ」
……でも、廃人にする程の悪人なのだろうか。僕は悩んだが、結局は頷いた。
悩む必要なんてない。どうせ僕の手は汚れているのだ。一人二人増えたって、同じことだ。
渋井がマンションに帰る途中、僕は渋井にわざとぶつかった。
「痛っ!危ねぇな、気をつけーー」
その隙に両手を伸ばし、仮面を外した。
渋井はその場に崩れ落ちる。
僕はその場から立ち去り、車に乗り込んだ。
「良くやったぞ葉蔵。これで依頼成立じゃ」
隣に座るコノミが嬉しそうに言っている。僕は窓の外を見る。そこには闇が広がっていた。