婚約破棄を申し渡した王子殿下のその末路
評価してくれる方がいて、本当に嬉しかったです。ついニヤニヤしてしまいました。ありがとうございます。
俺は王家に生まれ、剣の才があり、顔もよく、これ以上なく持っている人間だった。
15の時だった。そんな俺に婚約者が与えられたのは。公爵家の令嬢だという。
その女とは会った事もなかったが、父の言いつけで婚約したのだ。
俺はあの女が苦手だった。つぶさに俺を見極めるような瞳。あの女の瞳は、俺に対して何の感情も写していなかった。
あんなのが婚約者?たまったもんではない。あの視線にこれからずっと晒されないといけないと想像するだけでぞくりとする。
それだけではない。あの女は優秀に過ぎた。地で俺の上を行くのだ。勉学も、魔法も。容姿も。勝っているのは剣だけだが、いざ戦闘になれば、あの魔法に焼き尽くされるだろう。
俺にとって婚約者は、重荷であり、畏怖だった。
ストレスの溜まる日々を救ってくれる存在がいた。それがマリアだ。
彼女は、あの女と違い、明るく、優しかった。彼女といると、ぬるま湯に浸かっているような安らぎを得られた。
あの女とは違って。
あの女は、俺がマリアに惹かれている事を感づいていたと思う。しかし何も言わなかった。俺とマリアが共に歩いているのを見ても、眉一つ動かさなかった。
ただ、あの、審査するような瞳で見ていただけ。
次第に、俺は、あの女は要らないと考えるようになった。マリアの方が俺を思ってくれるから。
「キース様、あの…。」
本気であの女と婚約を解消したいと思い始めた頃、マリアから、婚約破棄のための決定打を手に入れた。
「…私、キース様から離れてって言われて、階段から、その、突き落とされて、それで、この指輪が、落ちてたんです…っ!誰の指輪か、わかりません、か…っ?怖い、けど、知りたいんです…!」
マリアの声はか細く、目には涙が浮かんでいた。大怪我になりかねない事をされて、それでも犯人を探そうとするマリアに、感動を覚えた。ああやはり、マリアこそが俺の妻に相応しい、と。
そして、幸いな事に、指輪には見覚えがあった。宝石は若干くすんでいるが、そのフォルムは、あの女…フォルティシアが日頃身につけていたもの。最近あの指輪を見ていなかった。あの女も、こんな事をするとは。世紀の大発見をしたようだった。
案外大したことないな。所詮あの女は、嫉妬に狂い、マリアをケガさせようとさせる、下らない、卑劣な女だったのだ。
そう考えると、俄然自信が湧いた。
あの女の鼻を明かしてやるのが、楽しみで楽しみで仕方ない。
父に何度打診しても、あの女との婚約は解消してくれそうになかったので、父のいない時期に催されるパーティーで、声高に婚約破棄を宣言した。
その時さえも、あの女は、いつも通りのあの瞳。気にくわない。何故悔しそうな顔をしないのだ?お前は本当は、俺を好いているのだろ?そんな目で俺を見ながら、本当は好いているんだろ?
しかしあの女は、最後まで、顔を少しも動かさず、凛と背を伸ばし去っていった。
まあいい。父上も、あの女がマリアをいじめていたと知れば、婚約は白紙に戻してくれるだろう。それどころか、優しくて勇ましいマリアを、王妃として認めてくれるかもしれない。
マリア、もうすぐ一緒になれる。
かくして、俺は余裕綽々だった。どうせあの女は、父に言い訳をするのだろう。どうか王妃の座を降ろさないでくれと。みっともなくあの女が懇願するのを想像して、暗い愉悦が湧き上がった。これでお前も終わりだ。
しかし、父と俺と、あの女と、書記官のいる場で話し合われた事は、俺の想像とは正反対だった。
俺の欠点をあげつらい、父に報告し、面と向かって王に相応しくないと言うあの女。父もあの女に言われるままに、俺の王位継承権を剥奪し、王都を追放すると言う。
かつてない怒りが湧いた。
お前に何の権限がある?俺が王都追放?ふざけるな。なんでお前なんかが。つくづく邪魔な女だ。お前なんかがいなければ!
父に説明を求めると、あの女が一歩前に出て話し始めた。
憤怒で頭が燃え尽きそうな俺と打って変わって、冷たい声音だった。
あの女は、選帝侯の養女で、俺が王に相応しいか調べるために婚約者でいたのだと。
そんな事聞いていない。何故だ。俺は悪くない。そうだ、その女が。選帝はやり直しだ。
訴えても、父もあの女も、無機物を見るような目を向けるだけ。
違う。俺は違う。俺は次の王なんだ。そんな目を向けられるはずがない。
息が荒くなって、何を言っているのか、何を考えているのか、もうわからない。
叫ぶ。俺は違うんだと。
次に意識を取り戻したのは地下牢だった。固いベッド、不味い食事。不当な扱い。
誰も彼も、俺を哀れみの目で見る。
1週間経った頃に、王都から追い出された。王都からかなり離れた田舎のボロ小屋だけ与えられた。
苦しい。何にもない。時間だけ過ぎてゆく。俺は、何故ここにいるんだ?そう、あの女が俺を陥れて、それで。
俺は何もしてないだろ?悪い事は何にもしてないのだ。だのに、何故。
じっと考えていると、あの女のあの視線が纏わり付くような気がして、暴れて。
目がさめると、体はバキバキで、ボロ小屋のものが壊れている。
苦しい。辛い。助けて。
王都に入ろうとすると衛兵に取り押さえられ、あのボロ小屋に戻っている。
もうわからない。何かをする気力も出ず、何も口にしない日々が続く。ゆったりと海に沈むように意識が薄れていく。
眠るように落ちた意識が戻る事はなかった。




