表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

こんにちは世界。

 気がついたら異世界だった。

 いや、なぜわかったという疑問はあると思う。俺もそうだ。自問自答しつつも周囲を見渡す。

 どこまでも広がる青い空、深く緑とも黒とも判別のつかない森、座り込んでいる地面は柔らかな草に覆われている。だが、

「太陽ってあんなでかかったっけ……」

 明らかに太陽がでかい。それも尋常ではないサイズだ。なにしろ両手の平を使ってようやく覆えるレベルである。そのわりに暑くも眩しくもないのが不思議だが。

 まず疑うべきは夢だ。明晰夢というものは聞いたことがある。なんでも夢を夢とわかりながら自由に行動出来るらしい。しかしどうして明晰夢が夢とわかっているのかわからない。もちろん明晰夢を見た経験もないのでこれがそうとは判断できない。だから一般的な方法をとってみる。

 痛かった。

 頬の痛みは手加減したので大したことはない。むしろイタいのは自分の行動だ。恥ずかしい。冷静になればこんな恥ずかしい行動はないと思ってしまう。プチDTFD(童貞フラッシュバック)だ。そういう単語を恥ずかし紛れに使うのも恥ずかしい。羞恥の連鎖は10分ばかり続いた。

「とりあえず現状を分析しよう」

 よく考えれば、異世界などむしろ現実世界よりも馴染みのある世界だ。なにしろ倒した敵は数知れず、落とした女は数知れず、救った世界は数知れない英雄なのだ。もちろん異世界に来たときの妄想などいくらしたか数えきれない。シミュレーションは完璧だ。

 そしてふと思い出す。自分が直前までゲームをしていたことに。となるとこれは例のファンタジーMMOらしい。そういうことならしっかりとOPを見ておくべきだった。だがそうとわかれば話は早い。早速コマンドを出してみる。

 出してみる。

 出そうと試みてみる。

「あれ?このゲームクソじゃね……?」

 もちろんおかしいのは自分の頭なんだがあえて気づかないふりをした。

 当然コマンドなど出ない。インストもヘルプもない。レベル表記もない。

 冷や汗が流れるが必死に無視する。

「そういえばオープニングが途中だったな。じゃあ早速続きを……」

 もちろんそんなものは流れない。尻に嫌な汗が流れる。

 周囲を見回す。

 ひとっこ一人いない。

 顔から血の気が引いていくのがわかる。


 これはまずい。想定外だ。当然異世界に行けば説明なりなんなりがあると思っていた。最悪言葉が通じなくても最初のイベントで翻訳アイテムが貰えるはずだった。だがここには見知らぬ言葉を話す相手すらいない。孤独だった。

 見知らぬ世界に一人きりの状態。

 とたんに寒気がした。空っぽの胃からなにかがせり上がってきた。思わず嘔吐する。目の前が真っ赤になる。何も考えられずひたすら吐く。胃の中身なんてほとんどないのにそれでも体を痛めつけるように嘔吐する。



 どれほどの時間が経ったかわからない。涙と鼻水と、諸々の体液は乾きかけている。

 よろよろとしつつも立ち上がる。汚れた顔を袖でぬぐう。手鼻をかんで裾でふく。

 ともすれば心は折れかかっている。それでも何とか動かなければ話にならない。決心らしい決心もできていない。それでも

「絶対、なんとかなるよ」

 昔好きだったアニメの台詞を口にする。それが今できる精一杯の強がり。

 だが、それでも一歩を踏み出す勇気になった。この先に何が待ち受けているかわからない。それでも俺は一歩を踏み出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ