8
海山が連れ去られた後、何処をどうやって歩いたのか解らないが、眼が覚めた時には家のベッドで眼が覚めた。
いつもの見慣れた天井に何処かほっとした気持ちになり、もしかすると昨日起こった事は全部夢だったのではないだろうか?
俺はそう思ったが海山の手を取って店から連れ出したこと、ホテルで一夜を過ごしたこと、そのすべてがいまだに身体の中にはっきりとした感覚として残っている。
あれは夢ではない、あの連れ去られる時の海山の悲痛に満ちたあの表情も、最後に聞き取れなかった海山の言葉も……
それらすべて現実のものだ。
俺はとにかく学校に急いだ、もしかすると海山が今日は学校に来ているかもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられず、半ば走るように俺は学校に急いだ。
いつもより早い電車に乗り学校への道を急ぐ、いつもならもっとゆっくり走ればいいのにと思う電車も今日はもどかしいほど遅く感じ、早く学校に行って海山が学校に来ているかどうかを確かめたくて仕方なかった。
駅に着き、俺は急ぎ足で改札を出て学校へ急ぐ。
いつもよりもかなり早い時間に教室に入る。
もちろんまだ海山どころか他のクラスメートも来ていなかった。
自分の席に座り、海山が来るのを待つ。
教室のドアがガラガラと音を立てて開く、その音を聞いてそちらの方を向くが、海山ではない事を確認してがっかりする。
始業ベルが鳴るまで何度も俺はそれを繰り返し、海山が学校に来ない事を俺は知る。
その日一日俺はいつも以上に授業に身が入らずに、海山の事ばかりを考えていた。
授業が終わると俺は教室を一番に出て職員室に行く。
めったに職員室に行くことが無い俺が職員室に現れたことに担任は驚いた。
「どうした安山?珍しいなお前が職員室に来るなんて」
担任にどう説明したものか迷ったが、とにかく俺は海山の住所を担任から聞き出したかった。
「先生、最近海山さん学校に来てませんよね?」
「おお、ちょっと身体の調子が悪いみたいでな、親御さんからしばらく休むって前に電話があった。それがどうかしたか?」
担任は不思議そうに俺の顔を見る。
「いや、前に学校に来た時に本を貸したんですけど、それが急に必要になったんで返してもらいたくて……先生住所教えてくれませんか?」
口から出まかせを俺は担任に言が、お前が本をねー。担任はそう言いながらも怪しむ様子もなく住所をメモ用紙に書き俺に手渡す。
それを受け取ると俺は急いで職員室を出ようとするが、扉の前に立ってドアに手を掛けようとした時担任が俺に向かって声を掛ける。
「海山の様子、明日教えてくれ。それとみんな心配してるって伝えておいてくれ」
わかりました、俺は担任にそう言うと俺は急いで職員室を出て、メモに書かれている住所に急いだ。
メモに書かれた住所は学校のすぐ近くで、俺が前に海山を見失った交差点の近くだった。
その住所の場所に着き、俺はインターフォンのボタンを押す、しかし何の反応もない。
何度か俺はインターフォンを押すが、何の反応もない、俺は門を開けて中の様子を伺う為に庭の方に行き、窓からそっと中の様子を伺う。
すると前に海山の家族と言っていた男が裸で海山の上に覆いかぶさり、ぐったりとしていた。
俺は見てはいけない物を見てしまったと思いその場から離れようとしたが、何か違和感を感じもう一度じっくりとその様子を伺う。
男はじっとしたまま動かず、男の背中に回された海山の手は何か白い物を握ったまま動かないでいる。
よく見るとその海山の手には白い柄のナイフが握られており、その柄から延びる金属は男の背中に突き刺さってそこから赤い液体が流れ、その赤は床に溜まり辺りは真っ赤に染まっていた。
俺はようやくその状況を理解し、今まで中の様子を伺っていた窓を開け中に押し入る。
「海山、大丈夫か?」
海山も男の血を浴びた海山の透けるような白い肌が所々赤く染まり、その手に握ったナイフを離さず放心状態でどこか遠くを見ているような眼をしていた。
「海山、海山!」
俺は海山の身体を何度もゆさぶりようやく海山が意識を取り戻す。
「安山君……どうしてここに?」
まだ完全に放心状態が抜け出せていないのか、海山は不思議そうにこちらの方を見ている。
そしてようやく自分の置かれた状況を理解し、手に持ったナイフを手放し、男から身体を離す。
男は背中に刺さったナイフが刺さったまま、どさりと床に音を立てて落ちる。
今までナイフを握っていた海山の手は口元を覆うように顔を隠す。
「な、なにこれ?どうして?何があったの?」
その状況を改めて見て、状況を理解すると共に混乱していく海山、俺は混乱する彼女を引き寄せ、頭を撫でて落ち着かせる。
「落ち着け!とにかく警察に電話しよう」
そう言って海山をいったん座らせて俺は警察に電話しようと携帯を取り出す。
「待って安山君、お願い警察には電話しないで!」
「でも」
「お願い」そう言って海山はこちらの方を見つめる。
「解った、でもどうするんだ?」
俺は携帯を鞄の中に押し込め、海山を見つめ返す。
しばらく海山は考えていたが何も思いつかないのかそのまま黙り込む。
「解った、とにかく海山はシャワーでも浴びて身体を流してこいよ」
俺は海山にそう言うと海山は解ったと言って浴室のある方に歩いて行く。
どうしたものかと頭を悩ませ、俺は鞄の中に入れてあるタバコを取り出しそれに火をつける。
海山がシャワーを浴びている間、俺は目の前の状況をもう一度再確認するようにその動かなくなった男を見つめる。
男は何度も背中を刺されたようで、いくつもの刺し傷が背中中にあったが、一番酷い傷は心臓の近くにあり、それが致命傷になったのだろう。
男のその姿を観察していると、いつの間にかタバコは根元まで灰になり、その白くなった灰は床に音もなく落ちる。
フィルターまで来たタバコを口に咥えながら、これからの事を考えていると、ようやく海山がシャワーを終わり浴室から出てくる。
「海山、やっぱり警察に電話しよう」
「ダメよ!絶対にダメ!こんなやつの為に私は警察に捕まるのは絶対にいや!」
感情むき出しの海山の眼は、その男だった塊を死しても尚恨むように憎悪の籠った瞳で見つめる。
その瞳を見て俺は海山が今までどれほどの目にあっていたかの一端を知った。
「お願い安山君、こいつをどこかに隠したいの。手伝って」
懇願するような瞳で俺は海山の気持ちを理解し、「解った」と俺は短く返事をする。
それから俺と海山は男の死体を埋めるための作業に入った。
まず死体を浴室に運び、床にはビニールシートを張りシャワーを浴びせ続ける。
死体にシャワーを浴びせ続け、海山が倉庫から持ってきた鉈や鋸といった道具を使い、ほんの数時間前まで生きていた男の姿を、ばらばらに切り刻んでいく。
最初の頃は肉に鋸や鉈を食い込ませていく度に俺は目の前の光景に吐き気を起こし、胃の中の物を吐き出していたが、胃の中にもう吐き出すものが無くなりだした頃にはもう、その行為自体に何の感情も抱かなくなり、作業のペースも上がってくる。
作業を繰り返し、男は元あった人の姿からかけは離れた物になっていった。
浴室は血にまみれたが、シャワーがすぐに血を洗い流す。
しかし切断された男の身体からはこの世に留まりたいと思い続ける執念のように血が流れ出す。
滴り落ちる血をシャワーで流す。
それを一時間ほど繰り返し、ようやく男の身体からは血が抜けきったのか、ようやく血は止まった。
その切り刻まれた男の部品を一つずつビニール袋に二人で詰めていく。
男の身体の中に収まっていたものは、黒いビニール袋五つ分に分けられた。
「今更だけど……海山。本当にいいんだな?」
俺は海山にそう声を掛ける。
その言葉に海山は黙って頷く。
俺は海山の気持ちを再確認して、また声を掛ける。
「解った、今はまだ時間が早い、夜遅くなったらこれを二人で山に埋めに行こう」
俺の言葉に海山はまた黙って頷く。




