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ホテルを出て、俺と海山は駅に向かう。
海沿いの国道は少し交通量が多いが、海水浴シーズンからずれているからだろう、ほとんどの車は通過するだけで海に行くために止まる車はなかった。
「所で、どこか行きたい所は決まった?」
先ほどからずっと考え込んでいる海山は、まだ考えているようでなかなか目的地が決まらなかった。
「うーん……ほとんど遊びに行ったこととか無いからこんな時どうするか考えた事も無かった」
海山は嬉しそうにしながらも少し困ったような表情をしていた。
「じゃあ、遊園地にでも行く?」
我ながら子供っぽいかとも思ったが、俺自身もこういう時にどうしていいか解らなかったのもあり、なんとなく海山にそう言ってみると、思いのほか海山は遊園地と言う言葉に食いついた。
「遊園地?一回も言った事が無い!行こう行こう!」
そう言ってまたはしゃぐと、嬉しくて仕方ないといった表情で海山は駅に向かって駆け出していく。
「早く行こうよ、遊園地!」
駅の少し手前まで走り、こちらの方を振り返り海山はそう言って立ち止まる。
それほど遊園地が嬉しかったのだろう、俺は海山の所まで走り、切符を買って海山と並んでホームで電車を待つ。
その間中海山はかなりご機嫌で、鼻歌を歌いながら電車を待っていた。
そのメロディーに聞き覚えがあり何だったかなと考えている時ホームにアナウンスが響く。
到着した電車に乗り込み、空いている席に座る。
日曜日の朝早い電車はまだそれほど人も乗っておらず、各車両に一人か二人ぐらいだ。
海山かなりご機嫌のようで、さっきからずっと鼻歌を歌っている。
ようやく海山の鼻歌のタイトルを思い出した俺はそのタイトルを言葉にする。
「『翼をください』だっけ?」
俺のその言葉に微笑みを返す海山。
「うん。私なんかこの歌凄く好きなんだよね」
「俺も小学校の頃よく歌ってた気がする。俺もその歌好きだよ」
俺のその言葉に海山は頷き、言葉を続ける。
「ちっさな頃、この歌を良く口ずさんで、いつか鳥みたいに空を飛べたらって、いつも考えてた。真っ白な鳥になって空から地上を見下ろすの、そしたら嫌な事なんか全部忘れられるんじゃないかって、いつも思ってた。今でも時々考えるけどね」
海山はそう話すとまた鼻歌を続け、窓の外に視線を移す。
俺はそんな海山の横顔をただ見つめていた。
電車は海沿いを離れ、住宅街の中を走るようになりやがては高層ビルの立ち並ぶ街中を走るようになる。
昨日電車に乗った駅を通りすぎ、街から少し離れた所の駅で電車を乗り換える。
その間も海山はウキウキした感じで、乗り換えの為に階段を昇る時もまるで背中に翼が生えて来たかのように軽やかに階段を昇っていく。
「本当に遊園地楽しみなんだね」
俺は海山にそう声を掛けると、海山は嬉しそうに返事をする。
「うん!だって初めて行くんだもん遊園地」
乗り換えのホームに立つ俺と海山、海山は独り言のように「早く電車来ないかな」と呟き嬉しそうにしていた。
幾つかあるホームにもだんだんと電車を待つ人も増え出し、俺たちのいるホームにも少しずつ人が増え出した。
ようやく俺たちのいるホームにアナウンスが響き、電車が到着する。
到着した電車の中の人が駅で降りようとドアの前に立っている。
そのドアの前に立っている人を見て海山が小さく声を出す。
「あっ!」
俺は海山の方に顔を向ける。
「どうかした?」
海山の視線の先の人物はどこかで見覚えのある人物で、俺はどこかで会ったことのある男の記憶を手繰り寄せる。
そして俺も小さく声を上げる。
電車に乗っていた人物は昨日喫茶店で海山と一緒にいた男だった。
ドアが開き、中の人がホームに降りてくる、男はドアを潜ると俺と海山の前に立ち、海山に声を掛ける。
「何だ沙紀、今日はこいつが客なのか?」
そう言うと男は俺の方をじろじろ見てくる。
男は昨日会った俺のことなどはすっかり忘れているようだ。
「そんなわけないよな?どう見てもこいつ金なさそうだもんな。まあいいや、帰るぞ」
男はそう言うと無理やり海山の手を取って連れて行こうとする。
俺はその手を抑えてその男に怒鳴りつける。
「おい、あんたなんだよ?これから俺は海山と遊園地に行く所なんだ!邪魔しないでくれ」
俺の言葉にその男は意味が解らないというような表情で言う。
「遊園地だぁ~?沙紀本当か?お前そんなとこ行くのか?」
男はその一言ずつに怒りの感情をこめて海山に向かって怒鳴りつける。
「まぁいい、悪いな兄ちゃん、こいつはそんな所に行ってる暇なんてないんだ。誰か他の奴と行ってくれ」
そう言うと海山を無理やり連れ去ろうとする。
いつもの俺ならここで引いていただろうが、海山のあんなに楽しみにしていた遊園地をこんなどこの誰とも解らない奴に邪魔されたくない。
俺はそう思い目の前の男に怒鳴りつける。
「勝手に海山を連れて行くな、嫌がってるじゃないか!どこの誰か知らないけどその手を海山から離せよ!」
するとその男は俺に向かって吐き捨てるように言う。
「お前みたいなガキに家の事を口出しされるいわれはねーな」
その言葉の意味を少し考えて俺は驚き海山の顔を見る。
俯いた海山は黙って頷く。
「解ったかガキ」
そう言って男に連れ去られていく海山を、俺は黙って見ている事しかできなかった。
男に手を引かれて行く海山は最後にこちらの方を見て何か呟いたように見えたが、周りの雑音にかき消され、何と言っていたのか聞こえないまま海山の姿を見送った。




