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朝起きると隣に寝ていたはずの海山の姿は無く、俺は夢でも見ていたのかと思ったが、いつも朝起きて見ている天井とは違う天井に、俺は昨日の事は夢ではなかったのだと改めて実感した。
しかし海山の姿が見えない、俺は少し不安を覚えたが、やがて完全に眼が覚めると浴室から水の流れる音が聞こえる。
どうやら海山はシャワーを浴びているようだった。
俺は安心し、ベッドの下に落ちていたタオルを腰に纏い、立ち上がるとテーブルまで行き、テーブルの上に置いてあるタバコを取り、その一本に火をつける。
タバコを吸いながら、部屋の中をいろいろ物色しているとインスタントコーヒが眼に入った。
その隣には電気ケトルも置いてあり、それに水を入れてお湯を沸かしコーヒを淹れる。
タバコを吸いながらコーヒーを一口すする。
すると水の流れる音が止まり、浴室の扉が開く音が聞こえたので俺は海山に声を掛けた。
「海山」
海山は俺がまだ寝ていると思ったらしく、少し驚いていたように返事を返す。
「おこしちゃった?ごめんね。」
「海山もコーヒー飲む?」
「うん、飲む」
海山の言葉に俺は「了解」と短く返事をしてコーヒーをもう一杯入れる為にソファーを立ち、電気ケトルのある方に行き、残っていたお湯で海山の分のコーヒーを淹れる。
またタオル一枚の姿で出てくる海山、しかし昨日の夜ほど俺はその姿に緊張する事も無く、俺は海山の為に淹れたコーヒーを手渡す。
それを受け取り海山もソファーに腰掛けカップに口をつけ一口飲むと海山はびっくりしたように「苦!」と言ってカップの中をみる。
海山のその顔を見て、「ああ、ごめん海山はブラック飲めないんだ?」
俺はそう言って、コーヒーと一緒に置いてあった砂糖とミルクを海山に手渡す。
それを両方ともたっぷりと入れると、ようやくコーヒーをすすりだす。
「やっぱりコーヒーは甘くないとね」
海山はそう言うとまたコーヒーに口をつける。
その姿は全く昨日の海山とは別人で、本当に同一人物なのだろうかと疑うほどの変わりようだった。
いや、改めて考え直すと学校でも友達と話をしている所をあまり見た事が無い。
そう思うと、俺は殆ど海山の事を知らなかった事に今更ながら気付かされた。
もちろん、海山も俺の事をあまり知らないだろう、学校にもほとんど登校しておらず、まともに話をしたのも昨日が初めて……
とても海山が俺に対して恋愛感情があったとは到底思えない、じゃあなんで俺と海山はこんな所でお互いタオル一枚の姿でソファーに座ってコーヒーなんか飲んでいるんだろう?
俺がそんな事を考えているのが解ったのか彼女はその疑問に答えるように話し出した。
「なんで俺は今こんな所でこんな事をしているんだろうって、そう思ってるでしょ?」
俺はだまって頷き海山の話の続きを聞く。
「これが私の仕事なの」
昨日から混乱しっぱなしの俺の頭の中にまた混乱の種を海山は植えつけ、更に話を続ける。
「大丈夫、安山君からお金なんか取らないから。小学生になった頃かな……私の両親事故で死んじゃったの。それからは親戚の家に引き取られて暮らしてた。もともと親戚付き合いなんか殆どなかった私の両親だったから、その親戚の人も迷惑だったんでしょうね、ここから先は昔のドラマで有ったようなパターン。いろいろ辛い事もあった。けど……」
そこで海山は言葉を切ると、今にも泣きだしそうな表情で黙り込んでしまう。
俺は海山に何と言えば良いか解らずに、ただ黙っているしかできないでいる。
海山はそれ以上言葉を繋ぐことが出来なくなってしまったようで、部屋を静寂が包む。
俺はその静寂に耐えかねてソファーから立ち上がり、少し大きな声で話す。
「よし、今日は日曜日だし何処か遊びに行こう!どこでも海山の行きたい所に」
俺がそう言うと今まで辛そうな表情をしていた海山の顔は一瞬で輝く様な笑顔になり「ほんとに?」と、今にも飛び上がりそうなほど喜び、急いで準備を始めた。
その姿を見つつ俺も準備を始める。
今の海山の姿と、昨日の海山の姿。どちらが本当の海山なのか、俺には解らないがとにかく今、海山は楽しそうにしている。
それで今は良い、俺はそう思い海山の準備が整うのをソファーに座り待っていた。




