10
それから暫くは俺も海山も学校には行かず、ほとんどの時間を海山の家で過ごした。
たまに家に帰っても海山は「寝れないの」と、言っては俺に電話をして朝までベッドで過ごす。
自分の家と海山の家を何度も往復するようになり、気が付くと季節は秋から冬に向かい、もうすぐ今年も終わろうとしていた。
そんな事を繰り返すある日、俺と海山は些細な事で喧嘩をした。
今となっては理由を思い出せない位些細な事だった。すぐに仲直りはしたものの、その後から海山の様子が少しずつ変わりだしたように俺には思えてきた。
何がどう変わったと言うのは難しいが、どこか海山の様子は前とは微妙に変わってきていた。
どこか俺の事を監視しているような、そんな気が俺はしてきたのだ。
俺がそう思いだした時から海山は必要以上に俺を求めるような行動を行うようになってきた。
海山のその行為は、秘密を共有している二人にしかわからない物なのかもしれない。
ベッドで眠っている時、ふと眼が覚めると隣にいる海山の眼は見開かれており、俺が寝ている時でも俺の事を監視するかのように俺の顔を見続けていた。
海山のその行動に俺は少しずつ海山から距離を置き、会わない時間を増やそうと試みたが海山はそれを許さず、執拗に連絡を繰り返して俺の行動の自由を奪って行った。
そして俺の行動で疑心暗鬼に囚われた海山が壊れてしまう前に俺は先に手を打つことにした。
「なあ、今度海にでも行かないか?」
あくまでさりげなく、今までの雑談の流れで海山にそう話しかけた。
俺の言葉に海山は何も疑う様子もなく返事をする。
「いいよ、じゃあ前に行った海に行こうよ」
俺は海山がそう言うであろうと思いこの話に持ち込んだ。
「そうだな、じゃあ今から行こう」
俺の突然の提案にも海山は何の疑いもなかった。
「じゃあ、車で行こう」
海山と俺は支度を済ませ、車に乗り込んで海山と初めて電車で行った海へと今度は車で走り出した。
平日の真冬の午後の海に人は殆どいなかった。
前に行った海はもう少し先に行くと砂浜から少しずつその姿を変え、砂浜は無くなり、やがて崖が続く道へとなっていく。
崖沿いの道を走り、もうそろそろ夕暮れもせまり、車も殆ど通らなくなった頃合いを見計らって海山に車を止めるように言う。
車を止めて、俺は崖の方に歩いて行く。
途中海山に怪しまれないように自然に、海山の手を取り岩で足場の悪い道を歩き道が途切れる所まで歩いて行く。
その場所に着いたちょうどその頃には夕日が海に沈みかけており、夜の暗闇が辺りを支配しようとしていた。
そこで俺は近くの岩に腰を下ろし、海山にも隣に座るように促す。
もう後一歩踏み出せば崖から海に向かって落ちてしまいそうな場所に俺と海山は腰掛ける。
沈みかけた夕日を二人で見続け、夕日が沈みきった後も少しの間何の意味もない会話を二人で話し続けた。
その間も俺はこれから起こそうとしている行動の手順をずっと考え、殆ど海山の話などは聞いてもなかった。
二人の会話が途切れた頃、ついに俺は計画を実行に移す事にした。
「海山、日も暮れたしそろそろ帰ろうか」
そう言って俺は海山よりも先に立ち上がり、海山の手を取り海山を引き起こす。
手を引かれ立ち上がった海山は俺に背中を向けるように立ち、夕日の消えていった海の方を見ながら話し出した。
「ねぇ安山君、私ね、あかちゃ……」
そう言って振り返ろうとした海山の背中を俺は力いっぱい押した。
海山は最後の言葉を言い終わる前に足を踏み外し、崖の下の岩に叩き付けられ、そのまま波にさらわれていった。
海山が落ちて行く時、崖を巣にしていたのか、白い鳥が一斉に羽ばたき暗い空に飛び立っていく。
そして、鳥が飛び立っていった後には白い羽が辺りに舞い、海風に乗り俺の周りゆらゆらとふりそそぐ。
俺は海山の最後の言葉など殆ど聞こえていなかった。
自分の命を守る為に俺は仕方なく海山をこの手にかけた。
そして俺は自己弁護をするかのように海山の消えた海に向かって叫ぶ。
「海山が俺の事を殺そうとしなければ俺はこんな事はしなかった、全部海山が招いた事だ!恨むなら俺を殺そうと考えた自分を恨め!」
しばらくの間俺は気が狂ったように笑い続けた、いや実際俺は気が狂っていたのだろう。
そう海山と二人であの男をばらばらにして山の奥に埋めた時にはもう……
最後に俺は辺りに散らばる白い大きな羽を一つ拾い上げ、海山の消えた海へ投げ入れる。
「最後に鳥になれてよかったな海山」
俺はその言葉を最後にその場所を離れた。




