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晴れ渡る青空から、純白の大きな一枚の羽根が私の目の前に舞い降りてくる。
その羽根は軽やかに、青空をバックにゆっくり、ゆっくりと舞い降りてくる。
俺はその天から舞い降りてくる羽根を見つめ、掌を差し出し、両手でそっと受けとめる。
手の中に納まった羽根は確かに目の前に存在する。しかし重さも感じず儚いほど淡いその触感はまるで幻のようで、意識していなければそこに羽根がある事すら忘れてしまいそうになるほどだ。
しかし、確実に俺のこの両掌の中にはその羽根は存在し、その眩いほどの白さを俺の両方の瞳に映し出していた。
そう、その羽根は忘れていた大切な何かを思い出させてくれるようで、俺の心を掻き乱す。
病的なほど白く透き通った肌、黒く長い髪を後ろで一つに束ねる。
同じクラスの彼女、海山沙紀は身体が弱いのか学校も休みがちだった。
最初はたまにしか学校に登校する事の無い彼女の事を、俺はそれほど意識していたわけでは無かった。
彼女はかなりの美形で目鼻立ちの整った顔は、学校の中でもかなり美人と言われるほどであったが、悪い噂も少なからず耳に入った。
その殆どは、女子たちの嫉妬の様なものだろうと思っていたが、彼女をたまたま街で見かけたという友達は、彼女が明らかに学生とは思えないような年上の男と歩いているのを何度か見ているようだ。
その男の方もかなりの男前だったようだが、どうもいろんな友達の話を総合すると男と言うのはどうやら一人では無い様だった。
俺はぼんやりとその話を聞きながら窓の外を見ていた。
晴れ渡る空に一羽の白い鳥が飛んでいく。
それをただぼんやりと眺めながら午後からの授業を受け、いつの間にか学校の終業時間を迎える。
辺りは鞄を持って教室を出ていくものばかりだが、俺はいつもしばらくの間は窓から見える景色を眺めている。
別に何が有る訳でもないのだが、いつも少しの間そうして過ごすことが癖になっていた。
暫くすると運動部の準備体操をする声などが校庭に響き渡る。
その声を聴きながら更に空をぼんやりと見ていると、誰もいないと思っていた俺は突然後ろから声を掛けられる。
「安山君」
突然声を掛けられた事に驚き体をびくりとさせ声のする方に振り向く。
するとそこには海山が俺の方を見下ろす形で立っていた。
「な、なんかあった?」
少し詰まりながら俺は返事を返す。
「私もうそろそろ行くけど、教室の戸締りやっておいてね」
「あ、ああ。わかったよ」
俺はやっとのことでそれだけの言葉を口にしたが、よく考えると俺が海山と言葉を交わすのはこれが初めてかもしれないと思いだし、少しもったいないと思うと俺の口から突然言葉が出てきた。
「海山さん」
海山は教室の出入り口に手を掛け今出ていこうとしている所だった。
声を掛けられた海山は俺の方を振り返る。
「何?」
自分でもどうして言葉が出て来たかも分からないまま俺は言葉を繋ぐ。
「明日は学校に来る?」
俺のその質問に海山は少し考えるような表情を浮かべ徐に言葉を紡ぐ。
「そうね……たぶん……」
海山はそう言うと教室の引き戸をガラガラと開け、教室を出ていった。
暫くの間俺は海山が今までそこにいた場所を見つめ、海山が遠ざかって行く足音を聞きながらただ茫然としていた。
開け放たれた窓と出入り口の間を、金木犀の香りを乗せた風が通り過ぎる。
その心地よい香りで俺は意識を取り戻し、自分も帰り支度を始め教室を出ていく。
校舎の外に出ると、空は高く小さな雲の塊が群れを作り、青い空を彩っていた。
無意識に俺はその空を見上げた。




