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序章 時の名を持つ少女

「ハァ・・・・ハァ・・・・!」


数メートル先の様子も分からないバケツをひっくり返した大雨の中


人通りのない殺風景な石造りの街並みを、二つの人影走っていた


少年が少女の手を乱暴に握り、引っ張りながら走っていた


「もういいの…もう…わたしは」


「いいから! 早く走って!」


少年は少女の台詞を遮り、叫ぶ


懸命に走り、街の出口にほど近い大通りに差し掛かった時、後ろから数人の男たちの声が聞こえてきた


「いたぞ! 逃がすな!」


大人と子供では足の速さもスタミナも違うが、この豪雨に加え、声からしてまだ追手からは相当の距離を保っている


・・・・いける!


だがそう思った瞬間、爆音のように響く雨音に混じり、囁くような、それでいて力強い声を少年の耳は捉えた


『我が契約により 汝の力を解放せよ』


(精霊魔法か・・・!)


咄嗟に少女を引っ張り、横の細い通路へと飛び込む


瞬間、先ほどまで自分たちがいた大通りを、すさまじい勢いで熱の塊が通過した


爆音が響き、周囲の雨が瞬時に蒸発し、水蒸気がもうもうと立ち込める


明らかに殺意を持った攻撃だ


(逃げられるくらいなら抹殺しろということか・・・)


相手に高位の精霊使いがいる。直線距離に出れば的になるだけだ


このままでは逃げ切れない。このままでは・・・


数瞬、考えを巡らしただろうか。足を止め、振り返る


疲労と緊張からか、青ざめている少女がそこにいた


「――?」


突然足を止めた自分を不思議そうに見やり、ぎゅっと繋いだ手に力を込める


愛おしいと、そう思った


―――ソラが、みたいの


そうだ。その願いを叶えるために、僕はここにいる。


こんな暗黒の空ではなく、頭上にどこまでも広がる蒼い空を見せてあげるために


例え彼女に、化け物と罵られ様とも・・・・


不安げに自分を見上げる彼女に微笑みかけ、耳元に口を近づけてそっと囁いた


「・・・眼と耳をふさいで」


優しいが有無を言わせぬ口調から、只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、少女は何も言わずに頷くと、眼を瞑り、耳を塞いだ


その素直な反応に感謝して少女を抱きかかえると、眼をそっと閉じ、数瞬の後、開く


そこには血の様に紅く、野生の獣のような光を帯びた眼があった。


五感全てが研ぎ澄まされ、全身に満ちていく力を自覚する


研究者達はこの能力を「獣化」と呼んだ。



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