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「コボ……コボボ」
吐血をしながらフーリクスさんはギャリさんに何かを伝える。
ギャリさんはフーリクスさんの手を握っている。
急速に奪われる体温。
回復呪文がまるで役に立ってない。
フーリクスさんはギャリさんの顔を見て血を吐いた。
そのままフーリクスさんは動かなくなった。
「フーリクスさん……」
弱々しく言葉を吐き出すことしかできなかった。
「てめぇよくも!」
レモンの剣撃が戦士に打ち込まれる。
鞘をつけたまま打ち込まれる剣撃は気絶目的だからだ。
「てめぇ夕方のヤツらか。依頼の邪魔をするな!」
「依頼だと?」
「そうよ。コボルトが村を襲って困ってるってな。コボルトの集落つぶしたが生き残りがいたから退治してるんだ。邪魔をするな」
「おまえたちは勘違いしている。フーリクスたちはスマルの住人だ! 村を襲ったりはしない!」
レモンも吠える。
「なんだと、そんなはったり通用するとでも思ってるのか!」
「はったりなんかじゃない! 今迄悪さなんかしていない!」
てめえらこそ、コボルトけしかけて村を襲わせたんじゃねぇか?」
「ひどい……ひどいよ。フーリクスさんが何をしたって言うのよ」
気がついたら言葉が出ていた。
「やっぱりこいつらが真犯人でやすよ。兄貴」
「おう、間違いなさそうだな。ひっとらえるぞ!
特に女は丁重に扱え!」
「わかってやすぜ、兄貴げへへ」
何なのよ、この人たち!
「この~」
背中の両手剣を抜きはなって切りかかる。
あの下品な笑いをした方に。
「あんたたちにフーリクスさんの何がわかるのよ!」
力任せに振り回す。
「おぉおぉ、いっちょまえに剣なんか持ってやがるぜ兄貴」
「お~怖。ちょっとお仕置きが必要だな」
「させるかよ!」
「レモン」
レモンが私の前に躍り出る。
「ナイトさんのお出ましかい」
兄貴と呼ばれた方の男が剣を構える。
「ウィンドギアス!」
坑道の中に突風が吹いたと思ったら、薄い緑のベールで兄貴とその弟が包まれた。
あれは……風の魔法。
「ホイヤーさん」
「やあミーちゃん、待たせたね。真打ち登場だよ。もう心配はいらないよ」
ホイヤーさん……。
「遅い! ……今頃来たって……」
「これでも早く済ませたんだリーンが放してくれなくて」
はっはっはっと笑うホイヤーさん。
「フーリクスさんが……フーリクスさんが……」
私は泣き出してしまった。
「コボボコボ」
そっと私の肩に置かれたのはギャリさんの手。
顔を見ればうっすらと涙を浮かべてはいるもののその奥には強い意志がはっきりと見て取れた。
「いずれはこ、こうなること覚悟していた」
ドリアンさん。
「コボボコボ」
「それが今だっただけのこと。フーリクスも家族を守れて本望」
ドリアンさんの通訳は片言だけど、ギャリさんの言いたいことはわかった。
「でも……」
言葉が詰まってしまった。
「く、」
捕らえていた二人がウィンドギアスをやぶった。
「ち、援軍かよ。いったん退くぜ」
「へい、兄貴」
二人は坑道を出ていった「ち、おぼえてやがれ」と捨てゼリフを残して。
「待ちやがれ」
「待ちなさいレモン君。深追いは危険だ」
「ホイヤーさん、だってフーリクスさんが……フーリクスさんが……」
「気持ちはわかるよミーちゃん。でも深追いすればレモン君が危険にさらされる。これ以上の犠牲は望まないだろ?」
「う……うわ~ん」
もうこれ以上我慢ができなかった。
ホイヤーさんにすがるように泣いた。
次から次へと涙が溢れ出て、もう何がなんだかわからない。
ただ泣くしかできなかった。
もっと早く気づいていれば、フーリクスさんは助かったかもしれない。いや、フーリクスさんが戦っていたことを考えれば襲撃を防げたかもしれない。
ごめんなさいフーリクスさん。
もっと気遣っていれば……。




