番外編
TS転生して勇者の母親シリーズ裏設定小話集
『禿げたデブ親父の設定』編
その1
貴族令嬢フレアの憂鬱
11才の誕生日を迎える数日前の出来事……
私の誕生会を開くための準備で忙しない屋敷の中で、私は、
(たかが誕生日でここまでするなんて……)
と少し呆れながらも、どことなくワクワクした気持ちでした。
前世の記憶を持っていて、普通の10歳児よりは間違いなく大人っぽい私ですが、いくつになっても誕生日って嬉しくなるものです。
まあ、前世の私は魔法使い目前でしたから、30才の誕生日は嫌がってた可能性が高いですけどね。
私は前世の自分を想ってクスッと小さく笑い、誕生会で使われる会場の準備に忙しい使用人達の間を、うくくく、と笑ったままするする歩き抜け、母がいるだろう大広間に向かった。
せっかくお母さまの所に行くのだ。お土産の一つも持たないとと、手には趣味でしている刺繍の入ったハンカチーフ。
貴族らしく俗っぽい……もとい高貴な感性の持ち主である母に合わせ、刺繍は結構ド派手である。
私的にはあまり派手なのは好まないのだけれど、以前、練習がてらに大輪の薔薇を刺繍してたらお母さまが物欲しそうにしたので、今回は金糸と銀糸まで使って所狭しと刺繍してみた。
正直やり過ぎだった気がしないでもないけれど、チラッと覗き見てたお姉さまが、「いいなぁ~、今度私のにもしてよ~」って言ってたから、いいんだろう。
実際……
「まあフレア! 母はとても嬉しいですよ!」
と言って、きゃらきゃら笑ってるのだから、やっぱりいいのだ。
私は、実に嬉しそうにしている母に褒められながら、使用人が用意してくれた椅子に腰を落とした。
「ところでフレア?」
突如鋭く目を細めた母に、私は嫌な予感に襲われる。
この目、計算高い貴族の目だ。
貴族と言えば、バカでアホで強突張りな無能を想像するかもしれない。
でも、実際の貴族の多くは違う。
その時代における最高の教育を受けているのだ。そうそう無能になったりはしない。
むしろ計算高く、内に隠った謀略に秀でている者のなんと多いことか……
馬鹿だと思わせ相手が油断したところを後ろからギザギザの入ったナイフを突き刺しグリグリいたぶる。
それが貴族の有り様なんだと、私は貴族の令嬢として嫌と言うほど見てきたものです。
まあ、贅沢漬けではあるので、堕落し始めたら止まらないだろうけど。
でも、少なくても今の私がいるこの世界、この時代の貴族の多くは、本当にやばいです。
笑顔の裏で、何を考えているのか……少なくても、ろくなモンじゃないことは確かです。
私は、笑顔で警戒を押し隠しながら、
「なんですか、お母さま?」
と問いかける。
するとお母さまは、
「あなた、初潮を迎えたそうですね」
「え? ええ、まあ……」
思いもかけない爆弾を落としてきやがりました。
そう、そうなのだ。
私は一月程前に、初潮をむかえてしまったのだ。
女として生まれてきたのだ。いつかは……とは思っていたけれど、平均よりも僅かに早く訪れたそれは、私の心に劇的な変化をもたらした。
私は、もう、完全に『女』であるのだと……
どこかしら、前世の男であった記憶を捨てきれなかった私は、そのことに衝撃を受け……って、もう結構時間もたったし、これで完全に男であった自分を捨てられたのだから、まあ良かったのだろう。
とは言え、あれからもう一ヶ月。
お母さまは、今更なにを言いたいんだろう? 絶対にろくでもないことに違いない。
「初潮がきたということは、子供を産む準備が始まったということです。分かりますね?」
これだけで何が言いたいのか解ってしまった。
「……はい」
私は神妙に頷きながら、遂にこの日が来たかと胸を重くする。
「あなたを、娶りたいという話がきています」
「そうですか……誰、なのですか?」
「グランサーム伯ルブレッドさま。知っていますね?」
ええ、知ってますとも!
40過ぎの脂ぎったデブのおっさんですよ!? しかもハゲ。
社交パーティとかで顔を合わす度にやたらと構ってきたけど、やっぱロリコンだったのかよ……
ってか、今まで結婚してなかったの?
「あの方は好みが煩くて、今まで結婚してなかったそうなの。それが、あなたを一目見たときからコレだ!っと思ったらしくね? 向こうから是非にと頼まれているのよ」
「そう、ですか……」
搾り出すように返事を返す私は、ヒクリと頬が引き攣った。
鉄壁と自負していたポーカーフェイスにヒビが入ってしまったのだ。
そんな私を見たお母さまは、
「フレア、嫌なのは理解できます。もしも私が……と思えば、心苦しく思えますし。ですが、我がマディレードは子爵家、グランサームは伯爵家、とても断ることはできません。ですから、覚悟だけはしておくように」
それだけ言うと、そそくさと大広間から姿を消した。
残されたのは、辛い未来に茫然とする私と、そんな私を気の毒そうに見ているメイドさん一同。
私は、「はぁ~」と大きく息を吐き出し、全てを諦めた。
仕方ない。それが貴族の令嬢の役割だ。
これまで大した苦労もしないで良い生活が出来たのは、この為でもあるのだし。
しかし、まあ、こうなってみて、初めて女の子が白馬の王子さまに憧れる気持ちが理解出来た気がします。
だって、心から思いますもん。白馬の王子様が迎えに来てくれないかなぁってさ。
誕生会に、少し浮かれていた心はすっかり冷めた。
どうしたらいいのか解らずオロオロするメイドに、私はそっけなく「少し外の空気を吸ってきます」とだけ伝えると、逃げるように屋敷を飛び出した。
屋敷を飛び出したとは言っても、当然、この家の敷地内から外に出るなんて叶わず、私は広い庭の外れで茫然と『外』を眺めた。
ここから見える『外の風景』は、私にとって、とても珍しく、心躍るもの……
前世が一般人だった私にとってみれば、外の風景は自由に見えるのだ。
だけど、今の私は貴族の娘なんですよね……
そう思いながら、寂しげに笑った。
そんな私を、『外』から見ていた一人の男性の視線に、当然のように気づきもせずに……
翌日の朝、ドンヨリ落ち込んでた私に、お母さまが年甲斐もなくイタズラッ子の表情でこう言った。
「昨日言ったのは、あくまで貴族の娘としての覚悟を持つように。という趣旨でいったことです。本当に嫁がせるつもりはありませんよ? 安心なさい」
例え家格差による圧力があろうとも、流石に自分達よりも年上の禿げたデブのおっさんに、幼い娘を嫁がせるつもりはなかったんだそうだ。
もっとも、禿げたデブのおっさんが私を欲しいと言ったのは本当らしく、彼と彼の部下だか家臣だかが、物凄い勢いで頼み込んできてるんだそうです。
なんでも伯爵は、リフィルディードア殿以外と子作りはせん! とかほざいてて、家臣の方々は、このままじゃ伯爵家の次代が出来ないから何とかお願いします、と土下座する勢い……
私はそれを聞くと、しょうがないなぁ、とばかりに大きくため息を吐き出した。
「……5年、待ってください。その時、グランサーム伯爵さまに妻がおられなく、そしてまた、5年たって成長した私でも欲しいとおっしゃってくださるのなら……喜んで嫁がせて頂きます」
うん、仕方ないよね。
昨日から、何度思ったか分からない『仕方ない』
でも、本当に仕方ない。
だって、グランサームは追い詰められてるんだもん。
そんなんだったら、きっとものすごーく、我がマディレード家に利をくれるよね……
だから、きっと、これが私の……しなければならないこと……
私はこの日、5年後に禿げたデブのおっさんの下に嫁ぐ覚悟をし始めた。
5年もあれば、きっとその覚悟も完了するだろうという計算だ。
なのに、その覚悟が固まるよりも早く、私は……
誕生会の日に現れた白馬の王子様ならず、ロリコンの王さまに拉致られ、連日連夜犯されることになる。
デブのおっさんよりマシではある。
あるんだけど……ねぇ?
11才になったばかりの少女に夜伽の相手をさせまくる王さまって……真正ですか?
ちなみに余談だが、グランサーム伯爵は、私の5年後云々に喜んで応じ、だけども、王さまに横から私をかっ浚われたことを知ると、心の底から嘆いたそうだ。
彼の私を想う気持ちは本当だったのです。以後、彼は結婚どころか他の女を寄せ付けず、養子を貰い受けて伯爵家の跡取りにすると……その先は、私は彼がどうなったか知らないまんま。
でも、息子に言われて冥福を祈った墓の主が彼だという事だけは……知っていた。
ルブレッド・ルド・グランサーム
老いてますます盛んの代名詞的存在。
勇者国マクガイアに仕えた伯爵家の主にして、勇者アレイドにとって最初の貴族の家臣。
彼は勇者アレイドが旗揚げすると、真っ先に馳せ参じ頭を垂れてアレイドに忠誠を誓う。
当時、勇者アレイドに従う貴族は誰一人としておらず、彼の存在はアレイドにとってとてもありがたい物であった。
事実、戦役後に、彼のグランサーム家は伯爵家から侯爵家へと格上げされ、さらに彼の養子は外務大臣として要職に就いて活躍した。
ルブレッド自身の功績も非常に高く、彼は阿修羅の如く戦いマクガイア軍を蹴散らし、王都に一番乗りを果たす。
そして我先にと王宮へ攻め入ると、縦横無尽に兵を薙ぎ払いながら玉座の間を目指した。
だが、玉座の間一歩手前で、60過ぎの老いさらばえた身体を敵将の血で真っ赤に染め上げ戦死した。
死後、勲一等の勲章と元帥位を贈られた。
その2
if:もしもフレアが『禿げたデブ親父』と結婚しちゃっていたならば……
リフィルディードア・キアル・グランサーム
愛称フレア。
グランサーム伯爵夫人。趣味は刺繍。
グランサーム伯爵家に16才の誕生日の日に嫁いでいった。
夫であるグランサーム伯爵ルブレッドは当時47歳。実に30歳差の結婚である。
この結婚は、ルブレッドの強引なまでの求婚から成立した婚姻であった。
彼の容姿は実に醜かったらしく、彼自身もその事を深く恥じていた。
ルブレッドは心から妻であるフレアを愛していたが、自身が愛されるなどとは夢にも思わず、それでも彼女を諦めきれず、少しでも関心を買おうと高価なドレスや貴金属を彼女に贈った。
だがフレアは、それらをルブレッドに素っ気なく返す。
容姿に凄まじいまでの劣等感を感じていたルブレッドは、当初、妻の行為を悪意的な物(ルブレッドからの贈り物などみたくもない)と判断し気落ちしていたが、すぐにその誤解は解けた。
「私は、アナタを家族として愛したいと心から思っているのです。ですから、ドレスも、指輪も、ネックレスも、私には必要ありません」
以降、ルブレッドは卑屈な考えを改め、ゆっくりと家族としての絆を創り上げていく。
子供の数は一男一女。
3人目も欲しいとフレアは願うが、ルブレッドの驚異的なまでの反対により、妊娠しないように夜の生活を行っていたらしい。
これは、出産による命の危険を排除したいというルブレッドの思いからきており、3人目を作る気まんまんだったフレアは、そんなルブレッドの思いに打たれて、これ以上の出産を断念した。
ルブレッドは、フレアを妊娠させないために(夜の生活を排除するという考えはなかったらしい)原始的なコンドームを開発。
この功績により、現代でルブレッドは避妊の父と呼ばれている。
一方、政治面でもルブレッドの活躍は上がっている。
結婚前と結婚後は、まるで別人のように業績が上がっており、これによりフレアは良妻の鏡と謳われるようになった。
実際は……
元男だからドレスも指輪もネックレスもいらんし、前世で魔法使い一歩手前だったから、ルブレッドの気持ちが痛い程良く分かり同情ww
だから家族として愛そうと努力するしセクロスも我慢する。けど前世男としてキスは嫌。でも嫌がったら傷つきそうなんでやっぱ我慢する。
子供は2人産んだ時点で終わりにしたかったけれど、貴族の妻として、もう一人男の子がいないと色々とマズイ。
だから愛人にでも産ませようと思ったが、そもそも愛人を作ろうとしてくれないので、しゃーない、もう一人頑張るか!って所で当のルブレッドが反対。
でもルブレッドは夜の生活は止めようとはせず、むしろ元気いっぱい。
だったらこんなん作ったらどうだろう?っていうフレアの案から始まったのがコンドーム開発の切欠。
ようするに、デブ親父のエロパワーによって完成されたのが、この世界のコンドーム。フレアにとってはいい迷惑である。
ルブレッドが政治面で頑張ったのは、フレアとの関係が良好で幸せ一杯だった上に、夜の生活が超!充実しており、気力が満タンだったから。もげろ。氏ね。
ちなみに、ルブレッドの容姿はガマガエル系のハゲでデブな上に体がデカイです。
大人リィアの身長が150cmチョイな設定に対し、ルブレッドの身長190cmオーバー、体重100kg余裕でオーバー。胴回りシャレにならんです。押し潰されます。むぎゅー。
そう考えたらフレアは結構可哀そうかもしれません。愛されてますけどねー。
な訳で、こっちだとフレアはリィアにならず普通に幸せ(?)になり、特に物語もないのです。
NAISEIもSYOUBAIもしない転生TSオリ主な貴族の人妻として、安穏とした日々を送って老衰するのでしょう。
ついでに、
禿げたデブ親父はロリコンではなく、好きになった女の子がたまたまロリだっただけ。
だからフレアが大人になるまで待てるし、フレアじゃないとダメだった。
純愛です。
王様はロリコン。
たまたま目に入った可愛いロリがフレアだっただけで、フレア以外も余裕でイケる。
欲望に忠実です。
勇者はマザコン。
彼にとって、母さんは性愛の対象にはならない。
注! ルブレッドは、この先の話には一切でてきませんwwでも書きたかったが故に番外編。