わたしの大切なあなたへ
勇者国マクガイアを出て、ケリーナ内海を海岸沿いに東へ進む自由都市国家宗主都市ミールに至るまでの街道を、俗に『聖母リィアの戦街道』と呼ぶ。
人と人との繋がりを重視した暖かい情緒的な聖母伝説の多くとは真逆に、一際異彩を放つこの話は人類の敵、魔物との壮絶な争いの物語である。
物語の概要はこうだ。
それと知らずに勇者を腹に宿した聖母は、勇者の恩恵豊かなマクガイアの地を出るなり、魔王が放った魔物に命を狙われ続けるという、まあ良くありそうな物語である。
だが、これはただの物語ではない。
聖母リィアがミールに辿り着くまでに通った道すがらにある都市や村々には、戦いの痕跡とも言える史跡が幾つも残っているからだ。
故にこの物語はただのお伽噺などではなく、確かな歴史の一ページなのだ。
私は、聖母リィアの戦いの資料が残されていた村の一つを訪ねてみた。
村にはみすぼらしい石碑がある記念公園がある。その石碑にはこう書かれていた。
『村を守るために戦い散った勇士達 ここに眠る』
続いて、ここで安らかに眠っているのだろう7人の勇士の名前が続き、そして、その勇士達と共に戦った女性の名が刻まれていた。
風雨に晒され霞んだその文字には、確かに【リィア】と書かれている。
この村の村長に聞いてみると、この文字、なんでも聖母リィア自身が刻んだ文字なのだという。
そして、続く文も……
『わたしの心は、いつもあなた方と共に』
聞けば、勇士たちは剣すらまともに持ったことのない、ただの農民であったそうだ。
農民に剣や弓を持たせ指揮した中心人物、それが旅の女性リィア。
よくもまあ、他所からきたであろう旅人、しかも一見してただの女性としか思えない聖母に指揮を任せたものだ。
……いいや、ただの、であるはずがない。
美しさ、気高さ、何よりカリスマ性。その全てで村人を魅了したのだ。
しかも彼女の出自、それは勇者国マクガイアの貴族である。
かの国は、『勇者』の名を冠するだけあって、武の誉れ高い国であった。
そんな国の出身だ。当然のように武具の扱いや兵の指揮などお手の物であったのだろう。
事実、彼女に育てられた勇者アレイドの武技は歴史上最高と詠われている。
アレイドの必殺剣エターナルフォースブレイドなど、彼以外の使い手が存在しない超絶剣技だ。
伝説では聖母リィアの永久凍結魔法を参考にして、アレイド自身が開発した技だという。
聖母リィア自身が魔法を使ったという歴史的資料がないため、現在では否定気味ではあるが、私はこの説を強く支持していた。
その理由のひとつが、この聖母リィアの戦街道に残されている沢山の歴史的資料である。
他にも理由を上げれば、アレイドは後に大陸を統一している。
その過程に起きた戦場の全てで勝利した彼は、常勝の名を欲しいままにした名将である。
そんな勇者アレイドを育てた女性だ。魔法が使えて当然ではないか……
さて、話を戻そう。
この時の聖母リィアは、腹を膨らませた妊婦であった。
腹に子を宿した儚き美女、リィア。
さぞや男共は義侠心をくすぐられただろう。
そう、今、私が立つこの中央広場に集った勇士たちが、後に聖母となるリィアを中心に命を掛けて戦ったのだ。
男たちは誇りを胸に戦い、そして死んでいった。
聖母リィアは、悲しみ濡れた瞳で、先に逝った勇士の躯、ひとつひとつに言葉をかける。
「ありがとう、勇士たちよ。あなたがたの気高い勇気が、この村の平和を守ったのです」
最後にポツリと、頬を伝った涙が大地を濡らし……
魔物との戦いの勝利を宣言するのだ。
「魔よ、我らを侮るなかれ! 我らはひとりひとりは弱かろうとも、束ねればキサマら如きに後れは取らん。声を上げよ、勝鬨の声をっ!」
この時の聖母は、慈母ではなく戦乙女の如くあったのだ。
目蓋を閉じれば、そんな光景が容易に脳裏に浮かぶ。
私が、そんな得も言われぬ感情で、その脳裏に描かれた光景に酔っていると、この村の村長が自慢げな口調で声を掛けてきた。
「私の家には代々伝わっている物があるんですよ」
そう言って差し出した物は、古ぼけた鞘に納まった一本の剣。
「これは……?」
「はい、私の先祖の持ち物です」
「もしや、この石碑に名を刻まれた勇士の?」
「はっ? 違いますよ! 勇士たちはみな独身の若者たちでしたから子孫はいません! それにね、彼らの装備品は、彼らの遺体と共に、あの石碑の下に納められているはずです。なにより、貴方は勇士たちの想いを否定するつもりですか?」
やや怒り口調の村長は、そういうとムッツリ口を閉ざした。
ああ、そうか……
私は勇士たちの想いを踏み躙ったのか。
決して手の届かない相手に恋をし、愛し、想いを剣に託して戦い散った、彼らの純粋な想いを……
私は石碑に向かって静かに黙祷し、心からの謝意を捧げた。
村長は、そんな私に大きく頷き謝意を認めると、何事も無かったかのように話を続けた。
こんな私のバカな発言を無かったことにしてくれたのだ。
正直ありがたい。まさに赤面であったのだから。
「魔物の侵攻と戦ったのは勇士たちだけではなかったのですよ。私の先祖を始めとした村の男達みんなが、聖母リィアさまのもとで、勇士たちと共戦ったのです。これは、そんな私の先祖が残した唯の鉄の剣。ですが、とても大切な思いが詰められた、我が一族の宝です」
私は差し出された剣を手に取った。
そして年代を感じさせる柄を握り締め、ゆっくりと鞘から刀身を引き抜く。
よほど手入れが行き届いているだろう刀身は、キラリと陽光に反射した。
……でも、確かに、ただの鉄の剣だ。
学術的にも、芸術的にも価値はない、ただの鉄で出来た『なまくら』。
だが、私は陽光に反射した光を浴びてゾクリと身体を震わせた。
この剣に宿った思い。それが私の身体を、何より心を震わせたのだ。
私は万感の想いを込めて、ふぅ、と肺から息を吐きだすと、慎重に刀身を鞘に納めた。
「良き物を見させて貰いました」
ああ、本当に良い物を見させて貰った。
私は深々と村長に頭を下げると、続いて石碑にむかってもう一度頭を下げた。
「ここに取材に来て良かった」
そう小さく呟くと、次の目的地、自由都市国家は古の宗主都市ミールに向かう電車の時刻を確かめた。
「……やば、次の発車時刻は15分後じゃないかっ! 走らないと間に合わないぞ!!」
急ぎ荷物を背負った私は、慌てて駅のホームを目指して駆け始めた。
その時、くすくすと聞こえた笑い声は、若い男の物であった。
もしかしたら、古の勇士たちが、今の私の情けない姿に笑っているのかもな。
そんなことを考えながら、必死に足を回転させた。
とある作家が書く、ASAHYSTERIA新聞のコラム連載より抜粋
マクガイアの玄関口である港町ソユーズに着いてはや一ヶ月。
私は、まだ親切なお婆ちゃんの家に逗留していた。
ホントはさっさと磯臭いこの街から出ていこうと思ってたんだけど……
妊婦として必要な知識を一切持ち合わせていない私、リィアは、今更ながらかなり危険だったようです。
悪阻の酷い妊娠初期は、流産の危険性がとっても高かったらしく。
「安定期に入るまでは、私の所でゆっくりしておいき……」
との言葉に甘えることにしました。
もちろん、それだけが理由ではない。
このソユーズという街は、私が目指す新天地である自由都市国家の中心都市ミールへと続く村への竜車が出る一方、エルーデ内海の対岸に船を使って渡ればケリーナ聖堂王国があるのです。
勇者国マクガイアは、この両国と親密な関係にあり、特にケリーナ聖堂王国とは親子のような関係であるといっても過言ではないでしょう。
なぜなら、マクガイアの次代の王を決める権利は、ケリーナ聖堂王国の巫女姫にあるからだ。
神託……そう呼ばれる希少技能を用いて決められる次代の王は、何でも勇者か、その勇者の父祖と決められているんだそうですよ。
笑えますね。国を治める代表たる王をそんなんで決めるとか、曲がりなりにも法治国家の皮を被った日本国人だった私の前世を思えば、鼻で笑って見下し蔑むレベルです。
それならまだ長子相続制の方が万倍説得力あります。
ほんと、どんな裏工作してんだか、袖の下ウハウハですよね?
巫女姫さまだか姫巫女さまは。
思わず『wwwww』こんな感じに草を一杯生やしたい気分ですよー。バロス。
だいたい神さまとか勇者とか神託の巫女とか、私に言わせれば、くだらないというか、信じる者は救われないというか。
本当に神さまなんているんだったら、今すぐ不幸な人を全部救って見せてくださいっていうの。
あんたに救いを求めて祈りながら死んだ人間がどれだけいんのよ!って話です。
そんなとっても胡散臭い巫女姫さまのありがたーい神託がおりたらしく、国中お祭り騒ぎです。
なんでも我が勇者国マクガイアの次代の王が宿ったそうですよ?
しかも初代以来初の勇者なんですって。
ほんとバカです。
そのせいなんですよね。
お偉い巫女姫さまの神託を頂いた使者さまが、このソユーズを通って王都へと行くもんだから、警戒態勢が上がって国境を通るのが難しくなりました。
あっはっはー
…………クソがっ!
まあ、勇者国から見たら、ケリーナ聖堂王国は宗主国なんでしょう。
なんせ次代の王を決めれる国なんですよ?
そりゃー使者のご機嫌を損ねないように、大切にするでしょうよ。
おかげで捜索願いだか手配書だかが出ている私は、この街で逼塞してるしかないわけで。
ほんと、使者様ったら一ヶ月もこの国にだらだらと逗留しないでください。
さっさとケリーナに帰って欲しいとリィアちゃんは思うのですよ?
まあいいですけどね。
おかげ妊婦さんとして必要な物も手に入りましたし。
その多くが、お婆ちゃんの伝手で安く買ったり、いらなくなった物を頂いたりした物なんですけどね。
あと、お婆ちゃんの言うとおり、妊娠5ヶ月目に入ると悪阻も粗方治まりました。
体調もすこぶる好い感じ。ご飯がとってもおいしーです☆
お腹は随分とぽっこりしてきてました。重さは思ったより感じません。
というか、妊娠する前とそんなに変わらない気がしますね。
私は、お腹を なでり なでり しながら、ぴょんと重力に逆らって跳ねてみた。
「こらっ!」
……怒られちゃったけど、うん、普通。
お婆ちゃんの話によると、そろそろ動いたりするそうですよ?
ちょっと楽しみです。
でも、今まで着ていた服が少しきついです。
そろそろマタニティウェアが必要なのかも?
ああ、こんな所でお金が必要になるなんて、まったく考えてなかったよ。
この辺り、女としての自覚が薄いというか、それとも初妊娠(2人目なんてありえないけど)なんだから仕方ないというか……
ところで、知ってますか?
妊娠期間の十月十日のひと月って28日なんだそうです。
お婆ちゃんに教わるまで知りませんでしたよ。
さてさて、私はこれを知って気がついたんですが……というか、気にし始めたというか……
この世界、暦が地球と同じだ。
太陽と月の関係も変わらない気がする。
星は……正直な話、わかんない。
神視星という名の星が、北極星と同じなんじゃないかと……
ちなみに、私にはどれが神視星なのかさっぱりわけわかめ。
まあ、前世の俺も北極星がどれかだなんて分かんなかったんだから、今更どれか解っても無意味というもの。
だからもうどうでもいいのっ!
うん、ということで、地球とこの世界の因果関係の考察は終わり。
で、なんでこんなことを考えていたかというと……
ぶっちゃけ現実逃避です。
ビックリしてお漏らししちゃって泣いちゃった恥ずかしさからの……
「はい、終わった。あとねリィアちゃん、気にすることないのよ?」
「……はい」
ぐしっ、と手のひらの硬い部分で涙をふいて、コクンと頷く。
お婆ちゃんは汚れた私の下着を洗濯かごに放り込み、
「さあ、お風呂に入ってさっぱりするさね」
と言って手を引いた。
しわがれた手の感触。
でも、とても優しい暖かい手。
私は赤面しながら、顔をうつむかせる。
肉体は精神の器。
だからだと思うの。
私が、こんなに泣き虫になったのは。
恥ずかしくって、こんな言い訳を内心でしながら、お婆ちゃんの横に並んだ。
ことの発端は私の平坦な胸だった。
まあ11才の少女なんだから、平坦なのは当たり前。
それに前世が男だったから、特に気にもなりません。
それにね、大きい方が辛い思いしたんじゃないかなぁ?
あ、でも、大きかったらあの変態王に見初められる事無く平和に……これも違うか。
あの変態ロリペド王に見初められなければ、デブジジイに嫁がされた可能性もあるわけで。
それに、この子も出来なかった。
そう思えば、あのダメイケメンも許せ……るかぁーっ!!
……まあいいです。
とにかく、私の平坦な胸が最近とてもピリピリ。
他にも。桃色だった胸の先端が、少しづつ黒ずんできているような?
ビッチ化ですか!? ビッチなんですね……
なんか不安でモヤモヤしてきた私は、胸をむにゅむにゅと揉んでたんですが……
で、唐突に気がついたんです。
おっぱい大きくなってるっ!?
も、もしかしてせーちょーしたのかな~、ってさらにモミモミすると、急に胸の先端から鋭い痛みが来て……
「い゛っ!?」という苦痛の声と同時に、
ピュッ!
と黄色い液体が飛び出しました。
私は、
「ぴゃあっ!?」
と悲鳴を上げた。
パンツが徐々に生温かく。太ももを伝う熱い液体。
私は驚きのあまり、漏らしてしまったのだ……
瞬間、心で反応するよりも速く、先程の悲鳴よりもさらに甲高く、
「ふぇぇぇええんっ」
と大声で泣き出しちゃいました。
そんな私の尋常でない泣き声に驚いたお婆ちゃんとお爺ちゃんが駆けつけると、上半身裸で、しかも下半身がぐっしょりな、お漏らしている私。
0.002秒で隣にいたお爺ちゃんを殴り飛ばして部屋から追い出し、私を慰めるお婆ちゃんでした。
ああ……なんて情けない。
よくよく考えてみたら、ピュッて飛び出したのは母乳だろうし、黄色かったのは多分初めて出たからだろう。
この辺は、後でお婆ちゃんに聞いてみればいいのだ。
間違いなくそうだから。
にしても、女になってから知ったんだけど、男だった時よりも膀胱が緩いです。
うん、決して言い訳じゃないよ?
本当にっ! 緩いんだもんっ!!
涙がこぼれた。
これは青春の汗だ。
悲しみの涙なんかじゃないもん……
こんな、とても楽しい日が、毎日のように続きました。
私、リィアがこの世界に生まれて、初めてといってもいいぐらい、とても楽しく。
いっそ、この家の子になってしまおうか?
そう何度も思ったくらいに……
でも、そうする訳にはいかなかったのだ。
『勇者降臨』
ケリーナ聖堂巫女姫は、現在腹の中にいる子こそが勇者だと断言した。
この報が王都に住まう王に告げられ、それからしばらくして第一王子が亡くなり、第二王子は臣籍に落とされ、そして王妃さまの懐妊が発表された。
勇者でないと判断されれば、同じ王妃の腹から出た子ですら、こうして闇に葬り去られる。
いわんや、私のようなポッと出の側妃に出来た子供など、母親ごと殺されるのが関の山。
まあ、おおよそ15年後にはこの懸念の全てが勘違いで杞憂だったって判明するのだけれど……
この当時の私にそれが解る筈もなく。
マクガイアから逃げなければ殺されてしまうとしか思えなかったのだ。
しかも、お世話になっているお婆ちゃん、お爺ちゃんまでをも巻き込んで。
冗談じゃない。
そんなの……許せるかっ!
だから私は……
「リィアちゃん……」
悲しそうな声色で、お婆ちゃんに声を掛けられた。
私はどうしたんだろうと思いながら、
「なにかあったんですか?」
と、聞き返した。
「巫女姫さまのお使い様が、ケリーナへとお帰りになったそうよ」
「そう……ですか……」
暖かい陽だまりから飛び出し、再び旅立つ時が来たのだ。
「あのね、リィアちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
「リィアちゃんは、竜車を使って、海岸沿いに自由都市国家へと向かうつもりなのよね?」
「はいそうです。船を使うより、そちらの方が旅賃が安くすみそうなので」
「それだけどね、どうも最近魔物の出没が多いらしいの」
「……魔物ですかっ!?」
驚きに目を見開く私。
実家に居た頃に習った座学に出てきた、魔王の産み出せし悪意の塊。
うん、ファンタジー。胡散くさっ!
私が思うに、どうせライオンさんやワニさんみたいに、人を襲う獣や爬虫類だと思うのだけど……
ちなみに、『竜車』を引っ張る『竜』は、とっても大きな爬虫類。
明らかに恐竜です☆ がおー
うん、こんなんが普通に飼われてる世界でした。かなりヤバいですね。
「だからね? 少し割高だと思うけどね? ミールに行くなら船を使った方がいいわよ」
う~ん……髪の毛売ったお金もあるし、そうしようかなぁ……
と思っていると、唐突に、ギュッとお婆ちゃんに抱きしめられた。
「一番いいのは、ここに残って私たちの娘になってくれることなんだけど……無理、なんでしょう……?」
悲しそうにそう言うお婆ちゃんに、私の視界は涙で滲んだ。
この世界で、一番優しくしてくれたのは、あなた。
この一ヶ月間、本当の親みたいに思っていました。
だから、本当はずっとここにいたかった。
例えどんなに迷惑になるのだとしても。
でも、私は……
「ううん、何も言わないでいいのよ。分かっているから……」
抱きしめる力が強くなる。
私もお婆ちゃんの背中に腕を回し、ギュッと抱きついた。
お父さまやお母さまと別れた時よりも、ずっと、ずっと辛いよ……
私は、涙をこらえきれずに、しくしくと泣いたのでした。
数日後の朝、私は自由都市に向かう船に乗った。
徐々に岸から離れる船の上で、私はお世話になったお婆ちゃん、お爺ちゃん、近所の方々に目一杯手を振った。
「気をつけてねー」
「元気でな」
「向こうに着いて落ちついたら手紙ちょうだいね……」
「お婆ちゃん、ありがとう」
「はい、お爺ちゃんもお元気で」
「手紙、必ず書きますね」
かけられる言葉に、ひとつ、ひとつ、丁寧に返していく。
そうして、段々と、段々と、小さくなっていくおばあちゃん。
私は、完全に人の形が見えなくなるまで、ジッとその方向を見続けた。
強くなったと思っていた。
でも、今はとっても寂しい。
スン、と一回、鼻をすする。
弱くなったら、ダメだ。
だって私は……ママなんだ!
と、その時です。
ぽこんっ
お腹を内側から叩かれる感触。
「……えっ? 今のって……」
ぽこぽこんっ
「赤ちゃん? 私の、赤ちゃんが、動いてる……」
私は、お腹に手をあてた。
ごろごろ、ごろごろ、私のお腹の中で動き回ってる、私の、子供……
「そういえば、そろそろ動きだす頃だって、言ってたっけ。だからいっぱい話してあげなさいって、言ってたっけ」
止まった筈の涙が再び流れた。
もう一人じゃないんだよ。
そう言って貰った気がして……
私は、すぅーっと、大きく息を吸う。
いっぱいの想いを込めて、私は歌うんだ。
大切な大切なアナタへ向けて。
たったひとりの、私の家族に……
あなたがいれば きっと私は 笑っていられる
かきむしるような望郷も 愁い 悲しむことはない
だから愛し子よ
はやく はやく 大きくなぁれ
誰よりも 誰よりも 愛おしいあなた
腕をいっぱいに広げて 抱きしめたい 包んであげたい 愛したい
あなたが私を必要としなくなる その日まで
私があなたを 守るから……
3日後、ぽえまー1級の私は、幸いにも船酔いせず、元気一杯に……
「とうちゃーくっ!!」
と、自由都市国家宗主都市ミール……ではなく、その手前にある港町エフェスに着いたのでした。
おまけ
リィアちゃんのすーぱーステータス表
ちから:E(リュックと旅行鞄以上に重たい物は持てない)
まりょく:S(チート、でも使えるって知らないなら無いのといっしょ)
たいりょく:E(100m走ったら筋肉痛)
かしこさ:C(前世知識でブーストできるもん)
すばやさ:E(妊婦的な意味で)
うんのよさ:A(ロリ王の魔の手から逃げ出し成功ボーナス)
戦闘力:E(猫さんに負ける)
魔法戦闘:―(魔法使えるという認識ゼロ)
戦闘指揮:E(指示出さない方がまし)
政略能力:E(何もするな)
戦略能力:E(口開くな)
料理:C(普通)
掃除:C(普通)
洗濯:C(普通)
子育て:D(お婆ちゃんに習った、でもこれから)
刺繍:A(他にすることなかった)
愛想笑い:S(貴族の令嬢 にぱー☆)
床技術:D (なすがまま)
交渉術:B (サラリーマン)
就活:E(外見幼女だし)
―:無能
E:うんこ
D:へたくそ
C:平均点
B:まあまあ
A:やるじゃん
S:すげー
リィアちゃんの称号一覧表
TS転生者(今は女の子の精神の方が強いよ?妊婦だもん)
元厨二病(完治済みですと自己申告)
高二病(厨二っぽいと皮肉する)
中古品(元側妃で妊婦ですし)
幼女妊婦(出産が大変だー☆)
楽天主義(色々と開き直った☆)
精神幼児化(肉体は精神の器だよ)
ぽえまー1級(自称☆)