ぼくのだいすきな・・・ 前編
某月某日 はれ
みもざねーちゃんから、にっきちょうをもらった。
ままがかいてるのをうらやましかったので、うれしかったです。
みもざねーちゃんは、
「3日坊主になったらはったおすわよ!」
とすごんでましたが、ぼくのほうがつよいので、ぎゃくにはったおしてやる。
って、ままにいったらてっけんせいさいされてしまった。
「おんなのこにてをあげるって、おとこじゃないでしょ!」
なるほど、たしかにそのとおりだとぼくはおもいました。
某月某日 はれのちくもり
さいきん、おにくをたべてない。
まいにちまいにち、かたいパンとこざかなのすーぷばかりである。
みもざおねーちゃんがのおみやげが、ぼくのしょくせーかつのせいめいせんだ。
というはなしをままにしたら、
「ごめんね。まま、びんぼうでごめんね」
となかれてしまった。
ぼくは、さいていだ……
某月某日 はれ
ままがほーちょーもったままでかけてかえってこない。
みもざおねーちゃんにれんらくいれるも、ゆくえふめいのまま。
きのう、ぼくがわがままをいったせいだろうか?
もうわがままいわないから、まま、はやくかえってきて。
好意で使わせて貰ってる森の入口付近。
そこで、いくつか仕掛けた罠を覗いてみる。
「ここも外れですか……」
残念ながら、中身はカラッポ。
まったく。最近ろくな獲物が捕れてない。
解っていた事ではあった。
けどもやっぱりがっかり感が凄まじく、私は肩を落とした。
獲物が獲れなくなった原因。
それは魔王復活によって活性化してる魔物の存在である。
どうにも胡散臭く感じるけれど、この現状。どうやら本当みたいです。
ちなみに、魔物が鳥獣を狩ってるから獲れなくなっているのではなく。
鳥獣が魔物の気配に敏感になり、結果として獲り難くなっている。というのが真相らしいです。
これは正直に言って不味いです。致命的です。
幼い容姿のせいで、ろくな働き場所がみつからない私。
収入は刺繍と、1年に一度、伸びた髪を売って出来る僅かな金銭だけ。
一応、最後の手段は考えてはある。あるのだけれど……
「うぅ……」
考えただけで全身に鳥肌が立ちます。
『それ』は、本当の最後の最後。
出産時の後遺症か。時折腰の奥がビリビリと痺れる私。
たぶん、私の寿命はそれ程長くはないのでしょう。
その寿命を、更に短くするだろう『春』を売る行為。
出来れば最後の最後的な手段として、永遠にとっておきたいなぁ、とちょっとわがまま。
流石に男だから! という気持ちは今更だし、命を惜しんでる訳でもないけれど。
そう。親である以上、簡単に命を捨てるわけにはいかない。
少なくても、子供が一人立ちするまでは死にたくない。死ねはしない。
まあ、例え死ぬと解っている選択も、あの子のためなら躊躇わず選べるのは間違いないけど。
それでも、出来るだけ勘弁して欲しいと私は願う。
見知らぬ男に抱かれる自分を幻想し、嫌悪感からブルリと身体を震わせる。
が、そうも言ってられないのが現実で、アレイドの健康的な食生活には変えられない。
そう! 変えられません!!
私は知っていた。
最近現れたここの魔物とやらの正体を。
それはドス黒い猪……っぽいなにか。
サイズで言えば、私と同じくらい。
そいつのせいで、ちぃちゃい鳥獣は森の奥。
ならば森の奥に行けば獲物が獲れるようになるに違いない。と信じたい。
ならば────母は強し!
で、いつも以上の力が出るを信じて頑張ってみようと思うのです。
森の奥。狼がいれば熊もいて、ファンタジーなでっかいトカゲに人食いな昆虫。
それに当然だけれど件の魔物もいた。
……あれ? 魔物の方が弱そう? という疑問を呑みこんで。
少々無謀な気がしないでもないですが。
だけども、森の奥に入ろうと思った瞬間から、凄まじく湧き上がる高揚感。
こんな感じ、一体どれくらいぶりだろう。
恐らくだけれど、城からおん出された時以来です。
軽い準備運動代わりに肩をグルリと一回転。
次にググッと数回屈伸を繰り返し。
「……燃えよ! 私の中で眠っていた厨二の心よっ!! リィア、行きますっ!」
気合の一声!
脳裏に響くは前世で好きだったアニメのBGM。
しかも気分は勇者な冒険者。
でも、武器と呼べる物はなにも持ってない。
あるのは罠になる仕掛けだけ。
せめて弓矢でもあればと思うのだけれど、どうせ弓なんて使ったこと無いのです。
それなら石でも投げた方がましだろう。持ってても仕方ない。
「石は飛び道具として最強だもん! コストパフォーマンスも最高だもん!」
弓どころか矢すら気軽に買えない貧乏からトホホと目を逸らす。
ただ、恐怖はあった。というか、超怖い。
でも、それ以上に自分が情けなく。ギリリと歯軋り。
あの子を産んで、私は確かに母になった。でも、あえて私は俺になるとしよう。
それによ~く考えてみれば、あの子にとっても、母親だけよりも、父親みたいな存在も、また必要なのかもしれないし。
と、石ころをいくつか拾い。
鬱蒼と茂り不気味な雰囲気漂う森の奥に、私は足を踏み入れました。
憎々しいくらい晴れ渡った青い空も、森の中では意味がなく。
薄らとした暗がりの中、私は────
────ブモォーっ!!
「さっそく魔物って、どんだけ運が悪いんですかっ!?」
チラリと思い出した遠い記憶の中で、
(そういえば、猪って結構強かったような……)
ヒクっヒクっと頬が引き攣る。
……ここはあれです。逃げるが勝ちっ!
「くまよりましだけどぉーっ! んのぉおおおおおおおっっ!?」
すたこらさーっと逃げる私でした。