第8話 初期不良、ついに“第二段階”へ
闇猫神殿が完成してから数日後。
魔王城は相変わらず猫中心に回っていた。
「闇猫様〜! 朝のご挨拶を!」
「闇猫様〜! 今日の献立はこちらです!」
「闇猫様〜! 新しい爪とぎをご用意しました!」
(いや魔王軍の仕事どこいった)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ヴァルナは猫を抱きしめながら、完全に疲れ切っていた。
「……なんか……もう……魔王って何……?」
(お前が聞くなよ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
その時、ミュリエルが駆け込んできた。
「魔王様ー! 魔王杖の魔力反応が……異常です!」
「えっ!? い、異常って……!」
(いや嫌な予感しかしない)
ミュリエルは俺をじっと見つめ、メモを取り出した。
「魔王杖の魔力が……“第二段階”に突入した可能性があります!」
(いや初期不良に段階とかあるの?)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「み、ミュリエル……第二段階って……なに……?」
「簡単に言うと……“ズレ方が増える”ということです!」
(いや簡単に言うなよ)
「では、魔王様。軽い魔法から試してみましょう」
「う、うぅ……また……?」
(やめとけって)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ヴァルナは震える手で俺を構えた。
「い、いくぞ……! 闇よ……我が呼び声に応え……!」
(その詠唱やめろ恥ずかしいから)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「闇の……矢!!」
バチッ。
杖の先端から、黒い光が飛び出した。
——と思ったら。
「……え?」
光は途中で曲がり、壁にぶつかり、跳ね返り、天井に当たり、床に当たり、最終的に——
「にゃあ」
猫の頭上にふわっと落ちて消えた。
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙。
(いやなんで猫に吸い寄せられるんだよ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ガルドが震える声で言った。
「……ま、魔王様……今のは……!」
「えっ……な、なに……?」
「“闇猫様を守るための自動追尾魔法”では……!?」
(いや違うって!!)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ミュリエルは興奮してメモを取る。
「魔王杖の第二段階……!
魔法が猫に自動追尾する……!
これは新たな魔術理論の発見……!」
(いやただの初期不良だよ!!)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「では次は……“闇の結界”を」
「えっ!? け、結界……!?」
(絶対やめとけ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ヴァルナは覚悟を決めて詠唱した。
「闇よ……我を守り……結界となりて……!」
バチッ。
黒い光が広がり——
「……あれ?」
結界ができた。
ただし。
「……なんで……私だけ……閉じ込められてるの……?」
(いやだから言っただろ)
ヴァルナは透明な壁に手を当て、涙目になった。
「で、出られない……!」
「魔王様……! なんという高度な結界……!」
(いやただの誤作動だよ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
結界の中でヴァルナは膝をついた。
「……もうやだぁぁぁぁぁぁぁ!!
なんで私だけ閉じ込められるのぉぉぉ!!
なんで魔法が猫に吸い寄せられるのぉぉぉ!!
なんで魔王軍は猫ばっかりなのぉぉぉ!!」
(いや全部俺の初期不良のせいだな)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「やめてぇぇぇぇぇぇ!! 今光るの恥ずかしいからぁぁぁ!!」
こうして、魔王杖の初期不良は“第二段階”へ突入し、魔王軍のカオスはさらに深まっていくのだった。




