第4話 魔王軍、猫を崇拝し始める
黒猫が召喚されてから一時間後。
魔王城は、完全におかしな方向へ進んでいた。
「魔王様! この猫……“闇の眷属”に違いありません!」
「いや普通の猫だろ」
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ヴァルナは猫を抱きしめながら、必死に否定しようとする。
「ち、違うの! これはただの……その……猫で……」
「魔王様が召喚したのです! ただの猫なわけがありません!」
ガルドは真剣な顔で猫を見つめ、突然ひざまずいた。
「闇猫様……!」
(いや“様”つけるなよ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
猫は「にゃあ」と鳴き、ガルドは震えた。
「……今、我に“試練の声”を……!」
(ただ鳴いただけだろ)
その後、魔王軍の兵士たちが次々と集まってきた。
「魔王様! 闇猫様に供物を!」
「闇猫様の寝床を作りました!」
「闇猫様のために、闇のミルクを!」
(闇のミルクってなんだよ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ヴァルナは猫を抱えたまま、完全に混乱していた。
「ち、違うの! これはその……私の……召喚ミスで……!」
「召喚ミス!? なんと深い……!」
「魔王様は“あえて”弱き姿で眷属を召喚し、その真価を隠しておられるのですね!」
(いや勝手に深読みすんな)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
猫は兵士たちに囲まれ、なでられ、抱き上げられ、完全にVIP扱いだった。
その様子を見ていたヴァルナは、頬をぷくっと膨らませた。
「……なんか……みんな猫ばっかり……」
(いやお前が召喚したんだろ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「ち、違うの! 別に嫉妬とかじゃなくて! 私は魔王で……その……!」
ヴァルナは猫を抱きしめ、ぎゅうっと頬ずりした。
「……かわいいけど……かわいいけどぉ……!」
(完全に嫉妬してるじゃん)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「魔王様ー! 闇猫様の魔力測定を——」
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ヴァルナは猫を抱えて逃げ出した。
「闇猫様の毛一本でいいので!」
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
(いや魔王が研究者から猫を守って走り回るってどういう状況だよ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
魔王城の廊下を、魔王と研究者と猫が全力で駆け回る。
兵士たちはそれを見て、なぜか感動していた。
「魔王様……闇猫様を守るために……!」
「なんという慈悲深さ……!」
(いやただの逃走劇だろ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
混乱の末、猫はヴァルナの膝の上で丸くなり、すやすやと眠り始めた。
「……かわいい……」
ヴァルナは完全にデレデレだった。
(まあ、猫はかわいいけどな)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「な、なんで今光るの!? 恥ずかしいからやめてぇぇぇ!!」
(いや俺も恥ずかしいわ)
魔王城の平和(?)な一日は、こうして幕を閉じた。




