第3話 魔王城の日常と、危険すぎる研究者
魔王継承の儀式から一夜明けた。
魔王城の朝は、意外にも静かだった。
いや、正確には——**静かにしようと努力している音がする**。
「しーっ! 魔王様はまだお休みだ! 静かにしろ!」
「お、おう……!」
ガルドの怒鳴り声が響き渡り、その直後に「静かにしろ!」と怒鳴ったことに気づいて慌てて口を塞ぐ音がした。
(いやもう静かにする気ゼロだろ)
俺はヴァルナの寝室で、ベッドの横に立てかけられていた。
ヴァルナは布団にくるまり、角だけ出して寝ている。
「……むにゃ……闇が……疼く……」
(寝言まで中二病かよ)
宝玉が光る。
「うにゃっ!? な、なに!? 敵!? 闇の呼び声!?」
(寝起きで闇の呼び声はやめろ)
ヴァルナは布団の中でジタバタしながら、俺を抱きしめてきた。
「ひゃああああああああああ!! なんで光るの!? 朝からやめてぇぇぇ!!」
(いや俺も好きで光ってるわけじゃないんだよ)
そこへ、ノックもなく扉が開いた。
「失礼しまーす、魔王様ー。魔王杖の定期点検に来ましたー」
入ってきたのは、白衣を着た魔族の少女。
眼鏡をかけ、髪はボサボサ。
手には工具箱。
——絶対ヤバいやつだ。
「み、ミュリエル!? な、なんで勝手に入ってくるの!?」
「魔王杖の研究のためです。魔王様の寝室に入るのは研究の一環です」
「いやそれはおかしい!」
(いやほんとそれな)
ミュリエルは俺を見るなり、目を輝かせた。
「はぁぁぁ……! これが先代魔王の遺した“伝説の魔王杖”……! 昨日の儀式で見せた光……あれは絶対に未知の魔力反応……!」
(いや初期不良だって)
宝玉が光る。
「ほら! やっぱり反応した! すごい! 分解したい!」
(やめろ)
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ヴァルナが俺を抱きしめて後ずさる。
「こ、これは私の杖! 分解なんてさせない!」
「魔王様、魔王杖の内部構造を調べれば、魔王軍の戦力は飛躍的に向上しますよ?」
「だ、だめ! 絶対だめ!」
(よく言った!)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「ほらまた光った! やっぱり未知の魔力反応! 分解したい!」
(だからやめろって!!)
「じゃあせめて、魔法の発動テストだけでも……!」
「う、うぅ……それなら……」
(いややめとけ)
宝玉が光る。
「ひゃっ!? ま、また光った……!」
「では、簡単な魔法からいきましょう。“召喚魔法”を」
「しょ、召喚……!? そ、そんな大それた……!」
「大丈夫です。小規模でいいので」
(いや絶対小規模じゃ済まない)
ヴァルナは震える手で俺を構えた。
「い、いくぞ……! 闇よ……我が呼び声に応え……!」
(その詠唱やめろ恥ずかしいから)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「召喚——!」
バチッ。
杖の先端から、ふわっと黒い煙が出た。
そして——
「にゃあ」
黒猫が出てきた。
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙。
ミュリエルが真顔で言った。
「……これは……?」
(ただの猫です)
宝玉が光る。
「ひゃあああああああああああああああ!!」
ヴァルナは猫を抱き上げて叫んだ。
「な、なんで猫なの!? 闇の眷属とかじゃなくて!? もっとこう……魔獣とか……!」
「魔王様……これは……“闇猫”なのでは……?」
(いや普通の猫だろ)
宝玉が光る。
「ひゃあああああああああああああああ!!」
ミュリエルはメモ帳を取り出し、興奮気味に書き込んだ。
「召喚魔法の結果:猫。
——これは新たな魔王魔法の可能性……!」
(いや違うって!!)
宝玉が光る。
「ひゃあああああああああああああああ!!」
魔王城の朝は、今日もカオスだった。




