第2話 魔王城の初日と、初期不良の洗礼
魔王継承の儀式から数時間後。
俺は魔王城の玉座の間で、ヴァルナに抱えられたまま固まっていた。
「……あの、その……さっきは取り乱してすまなかった……」
ヴァルナは頬を赤くしながら、ちらちらと俺を見てくる。
(いや取り乱すのは普通だろ。杖が光って喋るみたいな反応したら誰でもビビるわ)
宝玉がピカッと光る。
「ひゃっ!? ま、また光った!? な、なんで!? 私、何もしてないのに!」
(だからそれ俺の“声”なんだって……)
「こ、声……? え、ええと……その……よろしく……?」
ヴァルナはぎこちなく俺に向かって頭を下げた。
(魔王が杖に頭下げるなよ!)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
また叫んだ。
……この子、魔王としてやっていけるのか?
「魔王様! ご無事ですか!」
玉座の間に飛び込んできたのは、狼のような耳と尻尾を持つ魔族の戦士、ガルドだった。
「さきほどの光……まさか魔王杖が“真の力”を解放したのでは!?」
(いやただの初期不良だって)
宝玉が光る。
「おおおおおおおお!! やはり! 魔王様は選ばれし存在!!」
「ち、違う! これはその……えっと……!」
ヴァルナは必死に否定しようとするが、ガルドは完全に聞く耳を持たない。
「魔王様! ぜひその力で、魔王軍に偉大なる指示を!」
「えっ……し、指示……?」
ヴァルナは明らかに動揺している。
そりゃそうだ。魔王になったばかりで、何を命令すればいいか分かるはずがない。
(落ち着け。とりあえず簡単なこと言っとけ)
宝玉が光る。
「ひゃっ!? え、ええと……じゃ、じゃあ……その……」
ヴァルナは震える声で言った。
「み、みんな……今日も……がんばれ……?」
ガルドは感動で涙を流した。
「なんと……! 魔王様は我らの労をねぎらってくださるのか……!」
(いや普通の挨拶だろそれ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
また叫んだ。
「魔王様、魔王杖の力を試してみては?」
「えっ!? い、今!?」
「はい! ぜひ“闇の爆炎”を!」
(やめとけ。絶対ろくなことにならない)
宝玉が光る。
「ひゃっ!? え、ええと……じゃ、じゃあ……いくぞ……!」
ヴァルナは俺を両手で構え、深呼吸した。
「闇よ……我が呼び声に応え……爆炎となりて……!」
(うわ、めっちゃ中二病詠唱……)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!! な、なんで光るの!? やめてぇぇぇ!!」
叫びながらも、ヴァルナは気合いで詠唱を続けた。
「爆・炎・解・放——!!」
バチッ。
杖の先端から、ぬるい風がふわっと吹いた。
……それだけだった。
「…………」
「…………」
沈黙。
ガルドが震える声で言った。
「……こ、これは……?」
(ぬるま湯の風です)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああああああああ!!」
ヴァルナは泣きそうになりながら俺を抱きしめた。
「な、なんで!? なんで爆炎がぬるま湯なの!? 私、魔王なのに!? 闇が疼くのに!?」
(いやそれは知らん。初期不良なんだよ俺が)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ガルドは拳を握りしめた。
「……なるほど……! これは“魔王様の優しさ”が魔法に反映されたのだ……!」
(は?)
「魔王様は、爆炎すらも優しい風に変えてしまう……! なんという慈悲深さ……!」
(いや違うって!!)
宝玉が光る。
「ひゃあああああああああああああああ!!」
ヴァルナは完全に混乱していた。
「ち、違うの!? 私、慈悲とかじゃなくて……もっとこう……ドーンってしたかったのに……!」
(無理だって。俺、初期不良なんだから)
宝玉が光る。
「ひゃあああああああああああああああ!!」
魔王城に、今日もヴァルナの悲鳴が響き渡った。




