第10話 勇者サイド、猫追尾魔法を知ってさらに誤解する
魔王城でヴァルナが結界に閉じ込められて泣いていた頃。
森の外れでは、勇者見習いルカが再び魔王城を観察していた。
「……今日は何が起きているんだろう……」
ルカは木陰からそっと覗き込む。
そこには——
「闇猫様〜! こちらに新しい玉座をご用意しました〜!」
「闇猫様〜! 肉球クリームを塗らせてください〜!」
「闇猫様〜! 今日の献立は“闇のカリカリ”です〜!」
(いや魔王軍の仕事どこいった)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
もちろん、ルカには聞こえない。
その時だった。
「闇よ……我が呼び声に応え……闇の矢!!」
ヴァルナの声が響き、黒い光が飛び出した。
光は空中で曲がり、壁に当たり、天井に当たり、床に当たり、最終的に——
「にゃあ」
猫の頭上にふわっと落ちて消えた。
「…………」
「…………」
ルカは震えた。
「……ま、魔法が……猫に……吸い寄せられた……!」
(いやただの初期不良だよ)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「……猫が……魔王軍の魔法を“制御”している……?」
(いやしてないよ)
ルカは真剣な顔でメモを取った。
「“魔王軍の魔法は、猫が中心となって発動する”……!」
(いや違うって!!)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
続いて、ヴァルナが結界魔法を発動した。
「闇よ……我を守り……!」
バチッ。
黒い光が広がり——
「……また……私だけ……閉じ込められてる……」
(いやだから言っただろ)
猫は結界の外で「にゃあ」と鳴いた。
その瞬間、結界がふわっと揺れた。
「……え?」
ヴァルナは驚いたが、ルカはもっと驚いた。
「……猫の鳴き声で……結界が揺れた……!?
ま、まさか……猫が結界の“鍵”……!?」
(いや違うって!!)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
ルカは震える手でメモをまとめた。
「魔王軍の魔法は——
①猫が中心
②猫が制御
③猫が鍵
④猫が最終兵器
……つまり……!」
(いややめろ)
ルカは青ざめながら呟いた。
「……魔王軍の“真の魔王”は……猫……!」
(いや違うって!!)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「……この情報を……王国に伝えなければ……!」
ルカは震えながら森を駆け出した。
(いや伝えるなぁぁぁぁぁ!!)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
一方その頃、魔王城では
「……なんで……なんで私だけ結界に閉じ込められるのぉぉぉ……!」
(いや初期不良だから)
宝玉が光る。
「ひゃああああああああああ!!」
「やめてぇぇぇぇぇ!! 今の光るの恥ずかしいからぁぁ!!」
ヴァルナの悲鳴が、今日も魔王城に響き渡った。




