第1話 魔王継承の儀式と、初期不良の杖
気がついたら、俺は暗闇の中にいた。
いや、正確には——**暗闇の中に“棒状の何か”として存在していた。**
(……え、なにこれ。動けないんだけど?)
手も足もない。まばたきもできない。
視界は真っ暗。なのに、外の音だけはやたらクリアに聞こえる。
「——新たなる魔王よ。先代より受け継ぎし“魔王杖”を授けよう」
(魔王杖? え、俺、杖? マジで?)
混乱していると、誰かが俺を持ち上げた。
その瞬間、視界が一気に開ける。
目の前にいたのは、黒髪に赤いメッシュを入れた少女。
小さな角がちょこんと生え、真っ赤なマントを羽織っている。
——魔王、らしい。
ただし。
「こ、これが……伝説の魔王杖……! や、闇が……疼く……!」
言った本人が真っ赤になってる。
(いや恥ずかしいなら言うなよ!)
俺は思わずツッコんだ……つもりだったが、声は出ない。
代わりに、少女の手の中で杖の宝玉がピカッと光った。
「ひゃっ!? しゃ、喋った!? い、いや喋ってはないけど光った!? な、なにこれ!?」
(あ、これ俺の声の代わり? 仕様?)
少女は慌てて俺を抱え直し、周囲の魔族たちがざわつく。
「おお……! 新魔王ヴァルナ様が、魔王杖の意思を引き出したぞ!」
「さすがは先代の後継者……!」
どうやらこの少女、**ヴァルナ=ディアボロス**というらしい。
そして俺は、彼女の“魔王杖”として転生したらしい。
(いやいやいや、前世フリーターの俺に魔王サポートとか無理だろ……)
そんな俺の心の声に反応したのか、宝玉がまた光る。
「ひゃあああああ!? な、なに!? なに!? 意思疎通!? 心読まれてる!? やめてぇぇぇ!」
(いや読んでない! 勝手に光るんだよ!)
ヴァルナは涙目で俺を振り回す。
周囲の魔族たちはそれを見て、なぜか感動していた。
「なんと……魔王杖がヴァルナ様を試しておられる……!」
「これぞ魔王の儀式……!」
(いや違うから! ただの初期不良だから!!)
叫んだ瞬間、杖の宝玉がバチッと火花を散らした。
「きゃあっ!? な、なに今の!? 魔法!? 禁呪!? 爆発!? 死ぬ!? 死ぬの私!?」
(いや……多分、静電気……)
魔族たちは震えながら跪いた。
「……禁呪の片鱗……!」
「新魔王様は、やはり只者ではない……!」
(いやだから違うって!!)
俺の心の叫びに合わせて宝玉が光るたび、ヴァルナはビクッと跳ね、魔族たちは勝手に感動し、儀式はどんどんカオスになっていく。
そして儀式の最後、ヴァルナは震える声で宣言した。
「わ、我は……新たなる魔王、ヴァルナ=ディアボロス……!
こ、この杖と共に……世界を……その……闇に……染め……る……!」
最後の方は恥ずかしさで声が消えていた。
(いや無理だろ。俺、初期不良だし)
その瞬間、宝玉がまた光った。
「ひゃああああああああああああああああああああああ!!」
魔王の悲鳴が、魔王城に響き渡った。
——こうして、こじらせ魔王と初期不良の杖の、世界一頼りない魔王軍が誕生した




