"炮筒子"
"大勝負"マックスと"弾丸"バレッタと言えば、荒野にその名を轟かす悪党にして大狂人だ
この地方の家の有る子供たちは、親から「遅くまで出歩いているとマックス達に攫われる」と脅かされて門限を守るようになるし、あるいは無法者達の中には俺達を神格化するやつも居る
だが、本人の立場から言うなら「人間の世界に生きられなかったけだものが、死にかけて暴れている」に過ぎない
森から銃声
少しだけ腹が立った
バレッタがまた何か、愚かな事をして居るに違いないからだ
給油は既に終わって居る
店主の火葬も兼ねて、俺はガソリンスタンドのタンクに葉巻を投げ入れると、自分の車のエンジンを入れた
爆発
だだっ広い土地を利用して大きく作られていた店が白昼堂々、太陽よりも明るく燃え盛る
出発には相応しかった
到着すると、バレッタが何をして居るかはおおよそ解った
森から子供の悲鳴が聞こえる
要するに、また『そういう事』だ
案の定、車を降りて少し歩くと、森の暗がりから、口の周りを血でべたべたにしたバレッタが現れた
彼女には、『頂点捕食者になりたい』という強い欲求が存在する
その為、実感を得る為に人間を捕食する
子供を選ぶのも女を選ぶのも、「その方が美味いから」らしい
明らかな狂人そのものだが、見捨てる気にはなれない
「おい、バレッタ」
呼び声にバレッタが、唸り声で返す
眼が据わって居る
前に彼女自身が言っていた
「血には麻薬作用が有る」と
絶対にそんな訳が無いが、ただ、彼女にとってはそうなのだろう
「早くずらかるぞ、こんな所で遊びやがって───」
言いかけた言葉は、よく知った声の告げる「今日は」「ずらかるのはナシだ」という台詞で遮られた
嫌な奴のお出ましだ
この地方の保安官だった
俺達を非常に高く買っているのか、それなりの過剰戦力を連れて居る
全く残念な事に、俺達と車との間に、連中は百人規模で位置取りを終えて居た
『森に逃れるか』
俺はそう思った
とにかく遮蔽物の在る場所に行かないと、戦うにしても犬死にだ
そう思ったが、犬より頭の悪いバレッタは両手に拳銃を持つと、早くも銃撃戦を開始してしまって居た
「チッ、良い女だ!」
やむを得ず、俺も銃を抜く
狙いが雑なのか、かろうじて俺達には弾は当たらず、数人の保安官や自警団が顔や手に弾丸を浴び、戦闘能力を喪失した
皮肉とはいえ、『良い女』と言った事に対してバレッタが、「良い女って言えば……」「最後まで、あたしを力ずくでだけは抱こうとしなかったよな」と、馬鹿みたいに銃を撃ちまくりながら呟いた
「お前には、笑顔が似合うと思ってな」
「ありが───」
一、二、三…………四発
合計で四発の弾丸が顔の色んな所に命中し、バレッタは後ろに倒れて動かなくなった
バレッタの腕を掴んで、森に逃げ込む
もうそんな事をする意味なんて全く無いのに、彼女の手を離す事が出来なかった
視れば、当たり前の事だが、彼女は顔の上半分が無くなって居た
「これが、無理矢理じゃないと良いけどな」
これが最後だと思い、俺はバレッタの唇に自分のそれを重ねた
躊躇いは無かった
躊躇えば、彼女が傷付く気がしたからだ
「犯罪なんぞしなきゃ、こうもならなかったのによ!」
隠れた樹の向こうから保安官の声がした
「しなかったら」
「てめえらが、家や食いもんでもくれたのかよ」
隠れても埒が明かない
飛び出して撃ちまくるか
───大丈夫、相棒にも出来たんだ
それから少し時間はかかったが、最終的には死ぬ覚悟だって付いた




