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21 いとこへの依頼

「グリーナの手の者は国に戻ったか?」


 エドワードは式典用の華麗な装束には似合わぬ厳しい口調で騎士団の諜報員ティンカーに質問をした。

 バルコニーでの式典が終わった直後に着替えもせずにエドワードとチャールズは騎士団本部へと入った。そこには伯母である聖母教会院長ガブリエルも待っていた。


「はい。陛下と皆様のバルコニーの4度目のお出ましまで見届けたのち、街道に入っていきました。その先は部下が後を追っていますが、グリーナ王国に向かっていると言って間違えはございませんでしょう」

「ふん。律儀に4度まで見ていたか。よほどヴィクトリア達が生きていたのが信じられなかったのだろうな。その者たちの会話は聞き取ったか?」


「は……。断片的ではございますが」

「うん」

「それが……」

「構わん。聞いたままを伝えろ」


諜報員は低い声で答えた。


「では…『まずいことになった。死んでもらわねば困る方々だ。特にヴィクトリア殿下は生きていてはいけないお方だ。必ず死んでいただかなければ』…ということでございました…」


「堪えろよ。エドワード」


 いとこであり、親友でもあるチャールズが王子の心情をおもんばかって声をかけた。


「大丈夫だ」


 以外にもエドワードは冷静だった。


「ふん。グリーナとしては王女を二人犠牲にした大義名分がほしいからな。尊い犠牲があったからグリーナに大災厄が起こらなかったとせねばならんのだろう。それがその生贄が今まで生きていて、それなのに大災厄が起こらなかったと知れたら、グリーナ王家はただの道化だ。しかし特にヴィクトリアに死んでもらわねばならぬとはな」

「うん。エリザベスよりヴィクトリア王女の方に必ずというのはわからんな。お前過去見魔法で何か見なかったのか」


そうチャールズに問われ、

エドワードはヴィクトリアとの会話や過去見魔法でのことを思い出した。


『妹より特に私に当たりが強かった』

『エリザベスの西の館は快適、ヴィクトリアの塔は粗末、食事量も違う』

『ずるい女。私は一人で暗闇に』



「第一王妃のヴィクトリアに対する憎しみは、自分だけがたった一人で光の王女という生贄にされてしまった恨みからくるものだろう。しかしなんらかの形で第一王妃も森から助け出されているわけだ。もちろん一人で森へ捨てられた時の恐怖は計り知れない。それは同情をするし、気の毒にも思う。しかし、現在、第一王妃にまでなっている彼女がかつて生贄を免れた第二王妃の、しかもその娘のヴィクトリアに恨みを持ちこしているところが解せんのだ」

「この執念深さは単に第一王妃の気質の問題なのかな……。しかしたまったもんじゃないな」

「何にせよいまは来月の通商会議にやってくるであろうグリーナ国王夫妻に光の王女の儀式がまやかしであることを認めさせ、そしてヴィクトリアとエリザベスに今後一切かかわらないことを約束させねばならない。また、光の王女の儀式も永遠に行わせない。その確約がとれなければ我が国及び我が国の同盟国、中央教会は一切援助はしないと突きつける。

そしてその約束をさせた上で……、もちろん国王夫妻をただでは帰らせはしない」



王子の横顔は静かで青ざめていた。しかしその静かに佇む王子の身体からは重く静かな怒りが溢れ出していき、部屋を圧迫していった。目には見えないがビリビリとした重圧が部屋全体を覆っている。そのうち窓ガラスがカタカタと揺れ始めた。


「エドワード」


伯母の柔らかな手がエドワードの頬に触れると王子ははっとした。


「伯母上」

「落ち着きなさい。怒りは静かに……は守っているようですが、しかしため過ぎてもお前の身が。コントロールなさい」

「わかっています。発散させ過ぎぬよう、ため過ぎぬよう。心しております。しかし万が一ということもある。チャーリー」


 いとこに向き合ったエドワードは子供の頃から親しんだ愛称でチャールズに呼びかけた。


「嫌だよ」

「まだ何も言っていないじゃないか」

「予想はつく。嫌だね。それよりおまえが制御する努力をしろ」

「予想がついているのならいい。もちろん制御するさ。だが、もし【例のこと】が起こったらお前のすべきことをすべき時にやってくれ」

「俺のすべきことは王家をお守りすること。それは次期王のお前を守ることだ」

「だな。俺を守ってくれよ。もし【例のこと】がおこったら俺を良き王子のままでいさせてくれ」

「エディ」

「これを渡しておく。1年かけて魔法をかけておいた。これを使えば【例のこと】が起きた時、事が収まるよ」

「いらない」

「チャーリー」


 その時院長がチャールズに歩み寄った。


「チャールズ。その魔剣を受け取りなさい。王子を安心させておやり」

「伯母上……」

「エドワードは自分の暴走が怖いのですよ。愛するヴィクトリアが傷けられたり、命の危機になった時に自分がどうなってしまうのか……、自分の憤怒で国民を危険を晒すのが怖いのです。なあに、そのような事にはなりませんよ。エドワードは立派な王子であり、分別ある大魔法使いです。ただ保険がほしいだけなのですよ」


 チャールズは歯をぎりぎりとくいしばり、兄弟とも思う王子を睨んだ。普段しゃれ者で軽口ばかりたたく西の大公家の若様からは想像できない厳しい表情だ。エドワードはそのいとこの厳しい表情を受けて、優しい口調で答えた。


「チャーリー。大丈夫だよ。コントロールできるさ。万万が一に備えてだ」


エドワードはいとこであり親友である男の肩を優しく叩いた。


「約束しろよ」

「ああ。するさ。制御する」

「違う。俺との約束はもう済んだ。ヴィクトリア王女にしろよ。お前バラ園で約束させたんだろう。王女が自ら犠牲になる道を選ばせないってことを。お前も誠実に王女に全てを打ち明けてそして約束しろ。自分の魔力が剣呑なことを。だが、必ずそのままのお前で居ると。生きて二人で幸せな王国を築くと」

「チャーリー」

「行け!!!」


 いとこに乱暴に背中を押されたエドワードは、振り返って微笑した。


「行くよ。約束してくる」


エドワードは愛する姫の元へと急いだ。




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