20 銀の王女と金の王女
フロイデ国の宮城前の広場には国民がひしめいていた。
皆、慈愛王として敬まい慕っているマキシミリアンの誕生日を祝うために集まっているのだ。
バルコニーに立つ国王一家を一目でも見たいと国民は老いも若きも押すな押すなの状態で集ってきていた。
「陛下とエドワード王子と西の大公家と東の大公家の皆様がバルコニーに出られるよね」
「東の大公家は奥方様のご実家からこられた姫君がお二人いらっしゃるから今年はバルコニーも華やかだろうな。どんな姫様たちだろう」
「あたしはもう何度も見たよ。すごくきれいな姫様たちだよ。よく大公様と一緒にお出かけになっているからね。東の大公領の人間はもうみんな姫様たちを知っているんだ。姉君はブルー、妹君はグリーンの美しい瞳をお持ちで、御髪はつややかな栗色。おとぎ話のお姫さまのようなんだよ! お優しい言葉をあたしたちにもかけてくださるんだよ」
東の大公領の領民が自慢げに話すと周りの民たちは
「さすがフロイデ王国の王家に繋がる方々。慈愛王のご親族は皆々様お優しい…」
と、今から自分たちもその姫様たちを見ることができるのを楽しみにいる。
その時チリンチリンと侍従が鈴を鳴らした。
「あっ!出てこられたよ!国王陛下万歳!!」
「ばんざ~い」
「ばんさ~い」
大群衆の温かな声と弾ける笑顔、鳴りやまない拍手に国王は嬉しそうに国民を見渡していたが、一向に拍手が鳴りやまないので片手を上げ、静粛をうながした。
「ありがとう。皆、ありがとう。皆に私の誕生日を祝ってもらえて本当にうれしく思うよ。皆の笑顔が何よりだ。国民が平和に暮らしを営んでいるという事実が私への最大の誕生祝だ。これからも皆が元気に豊かに過ごせるように私も一層の精進をしよう」
国王の言葉に広場はまた割れんばかりの拍手がとどろいた。
だが、群衆は気づいた。バルコニーにはエドワード王子もそのいとこの西の大公家のチャールズもそして新たに東の大公家の養女に入られた二人の姫君もいなかった。バルコニーには王、東の大公家夫妻、西の大公家夫妻だけだ。
「王子は…? チャールズ様は…?」
「姫君もいないよ! 楽しみにしていたのに!」
王は皆にまた静粛の合図を送った。
「ここで皆に王家の祝い事を伝えよう。このたび、わが息子王太子であるエドワードの婚約が決まった。さらに、我が甥、西の大公家嫡男であるチャールズの婚約も決まった。みなにもその慶事を祝ってほしい」
侍従がまたチリンチリンと鈴の音を鳴らす。
バルコニーに現れた二組の男女を見た国民たちは息を呑んだ。王子と大公子息の婚約者があまりにも美しかったからだ。
「なんてお綺麗な姫君様たちだろう……。神々しいってこういう美しさに使うのかな…」
「きれいなだけじゃないよ…気品っていうのかな。お姫様っていうのはこういうふうなんだね…」
「それにすごくお似合いじゃないか……。王子のお相手も大公様のご子息のお相手もそれぞれのお相手がぴったり」
「待っとくれよ!この方たちは東の大公家のお姫様たちだよ!!」
「本当だ! ヴィクトリア様とエリザベス様だよ!」
東の大公領の民衆が騒ぎ出すとそれはまわりに伝番していった。
エドワードはその様子を見て大きな声で皆に語りかけた。
「紹介しよう。こちらは私の婚約者ヴィクトリア。そちらがチャールズの婚約者エリザベスだ。東の大公領の者たちは気づいたようだが二人は大公家の養女となっておられる。よって、大公家の姫として輿入れしてくることになる。しかし私は国民皆にもう一つ報告することがある!」
エドワードはヴィクトリアとエリザベスをバルコニーの中央に誘った。そしてヴィクトリアの目を見つめ、力強くうなずいた。ヴィクトリアは微笑みながら王子に軽くうなずき返すと、妹と手をつなぎ正面を向いた。
「レドゥーケレ」
ヴィクトリアが呪文を唱えると二人の結い上げた栗色の髪はたちまちほどけ、風もないのに大きく広がった。そしてその髪色がヴィクトリアが銀、エリザベスは金に変化した。ゆるやかにウェーブのかかった銀の髪は腰までの長さでヴィクトリアが動くたびに髪の間から氷の結晶がこぼれ落ちるようにきらきらと光り輝いた。エリザベスのまっすぐなさらさらとした輝く金の髪は星屑の輝きだ。
国民たちはみなびっくりしてしまって声も出ない。水を打ったように静かだ。
しかし誰かが「グリーナ…?」とつぶやくととたんにざわざわしてきた。
「あんなきれいな髪色見たことないよ」
「氷の結晶みたいな……。星屑のような……」
「グリーナだ。グリーナ王家特有のだ」
「じゃあ、この姫様たちは…?」
エドワードは手で静粛を促した。
「そうだ。この髪色でわかるように、お二人は大公家の養女になられる前はグリーナ国の姫君であらせられた。そしてお二人は「光の王女」でもあった」
「光の王女!! あの古臭い迷信で森に置き去りにされるっていう」
「4年前のあれか! あのときの姫様たち生きてたのか!」
「よかったよう……。あのニュース聞いた時には可哀そうでかわいそうで」
「王子バンザイ! ヴィクトリア殿下バンザイ!」
「チャールズ様バンザイ! エリザベス殿下バンザイ!」
広場は温かい祝福の空気に包まれた。
ヴィクトリアとエリザベスは予想外の国民の反応に感動し涙ぐんでいる。
「フロイデと国交のないグリーナの王女が……このように温かく祝福していただけるとは…」
その言葉を受けたエドワードは二人に向き合った。
「フロイデの民はグリーナの悪しき風習を憎み、その生贄になった姫に心から同情していたのです。
手を振ってみては? きっと皆喜びますよ」
ヴィクトリアとエリザベスは手を振ってみたがその結果民衆は割れんばかりの拍手と歓声で大喜びした。
その日ヴィクトリアとエリザベスは国王一家の一員として都合4度バルコニーに立ったが、国王生誕と王家の2つの婚約発表、グリーナ王女の生存確認が重なり、広場はお祭り騒ぎが続いた。
その喜びの中にあって二人だけ皆とは違う反応をしている者たちがいた。
「間違いない。ヴィクトリア殿下とエリザベス殿下だ」
「やっかいなことになったな……。死んでいてもらわねば困る方たちだ。特にヴィクトリア殿下は」
「急ぎ国に報告だ」
二人は祝いの民衆の中を縫って街道への道へと急ぎ走っていった。




