19 過去見魔法~ヴィクトリアの過去④
『18歳の誕生日です。母が亡くなって15年ぶりに開いてもらえた私の誕生祝の席です。ここで私は光の王女に立てられます』
『祝いの席でいきなり…』
エドワードは国王のヴィクトリアに対するあり得ない仕打ちに再び怒りに身体が震えた。
極寒の森に放置されたらそれは死を意味する。救国の王女だ、永遠の命だと詭弁を吐かれてもそれは動かしようのない事実だ。
その死の役目をいきなりその子の誕生を祝う席で申し渡したのか……。ヴィクトリアの肩を抱くエドワードの手は自然と力が入ってしまっていた。
目の前の情景はエドワードの感情に関係なく粛々と進んでいく。
18歳のヴィクトリアは大層美しく、貴公子たちに取り巻かれ、皆が競ってこの麗しい姫に挨拶を送ろうとしていた。ヴィクトリアは優美な立ち居振る舞いでそれに応えている。
広間では賢そうな少年がずっとヴィクトリアを見ていた。エレナ王妃の子供、ヴィクトリアの腹違いの弟である王太子ヘンリーだ。1つ違いのこの弟はこの数年ですっかり大人びて、背もヴィクトリアを超えた。少年は周りの人垣をかきわけてヴィクトリアに近づいてきた。
「お久しぶりでございます。姉上。わけは聞かず逃げて。逃げてください。あなたは今日……」
王子のその言葉を遮るかのようにチリンチリンと注目を促すベルの音が従者によって鳴らされた。王の発言の合図である。
「お客人、友好国の王、王妃、その王子たちよ!注目してほしい!」
王は大きな声でにこやかに話し始めた。
「神殿からの知らせだ!我がグリーナ王国に大災厄が起きる! 王女だ! 光の王女を立てることになった!」
ざわつく会場。母親たちは娘たちを引き寄せて青ざめる。中には泣き出すものもあった。
「森からの啓示である! 今回の光の王女はわが国の第一王女ヴィクトリアだ!」
エレナ王妃は笑みを浮かべ、ヘンリーは苦々し気な表情で王を見つめる。
ヴィクトリアは青ざめた。
ああ…そういうことなのか…今回呼ばれたのは私の結婚相手を決めるためと思っていた…。だから友好国の王子をこの祝いの席に呼んでいたと思っていたが…。
政略的な結婚とはいえ、わたくしはそのお方とその国に尽くし、良き后になろう…と決心してきたのに…。お父様はそこまでわたくしが憎かったのか…
いつの間にかヴィクトリアの周りから人が離れ、あれほどちやほやしていた貴公子たちも遠巻きにしている。
「グリーナ王国のためだ。行ってくれるな。ヴィクトリア」
ヴィクトリアは冷たい微笑みを王に向け
「はい」
と一言答えた。
内務大臣がが高らかに宣言する。
「光の王女が立たれましたぞ!」
その場にいる全員が王も王子も后も誰もかも膝をついて
ヴィクトリアに礼を尽くした。
ここまでの情景を見て、エドワードは『レデオ』と低く唱えた。
するとヴィクトリアの視界は大きくゆがみ、意識を失った。
「…トリア…ヴィクトリア」
優しいエドワードの声に目をあけると、過去見魔法をかけられる前と同じソファに座り、エドワードの肩に頭を凭れている自分がそこにいた。ヴィクトリアはエドワードから離れ姿勢を保とうとしたが、エドワードはヴィクトリアの肩を引き寄せぎゅっと自分の胸に抱いた。
ヴィクトリアは逞しい胸に頬を当てながら、その後のことを話し始めた。
「エドワード様…。その誕生祝賀の翌日に私はエリザベスも光の王女に決まったと知らされました。あの子は私の巻き添えになったのだと今も考えています。光の王女に指名されてから1か月後、私たちは馬車に乗せられ森へ入りました。」
ヴィクトリアのブルーの瞳からは涙がこぼれ落ちている。
「辛い思いをさせたね。思い出させて悪かった」
エドワードは優しくヴィクトリアの髪と背をなでている。
「いいえ。いいえ。泣いているのは辛いからではありません」
「無理しないで」
「違うの。今あなたのそばにいられる。いられている。その事実がうれしいの。それで泣いているのです」
「ヴィクトリア」
「過去見の最中もあなたは何度も少女の私を助けようとしてくださった。少女の私が辛い目に合うたびにあなたの怒り、悲しみ、苦しみが私の肩を抱くあなたの手から伝わってきました。こんなにも私を愛してくださるあなたが今私のそばにいてくださる喜び……。その喜びで今私は泣いているのです」
「ヴィクトリア。今だけではないよ。ずっと一緒だ。あなたが今のこの幸せを特別な事と感じなくなるぐらいうんと幸せになろう。幸せでいるのが日常になるんだよ」
その言葉を聞いてまた泣き始めるヴィクトリアをエドワードは優しく抱き続けていた。




