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18 過去見魔法~ヴィクトリアの過去③

 そこからの場面転換は回転が速かった。

ヴィクトリアに対する王妃からの嫌がらせ、ひどい仕打ちがまるでスライドの様に次々と再現されていく。


 エドワードは愛するヴィクトリアの虐げられている様子をまるで悪夢のように感じながら見ていた。



 塔に届けられる食材を減らされるヴィクトリア。

 真冬の寒い塔でばあやと身を寄せ合うヴィクトリア。

 破かれた教科書の補修をするヴィクトリア。

 母王妃の形見の蝶の髪飾りを泣きながら探すヴィクトリア。

 合間には意地の悪い王妃の声も入ってくる。


「蝶の髪飾りは捨てたよ。母を思い出すお前が可哀そうで見ていられなくてねえ」

「母親が死んだのはお前の魔力が母の命を吸い取ったから」

「可愛げがない。少しは泣けばいいのに」

「お前を愛するものなんか一人もいない」


 そのあとも父王にあることないことヴィクトリアの悪口をいう王妃の声が続いた。


 場面転換、東の塔。

 ばあやがベットで寝ているヴィクトリアの看病をしている。高熱のヴィクトリアは息は荒く頬が燃えるように熱かった。


「王女様。しっかりしてください。ああ、ああ。神様。どうか王女をお助けください。私はどうなってもかまいせん。これでもし王女が亡くなったら……私は神様を恨みます。いや、本当は死ぬべきは王妃だ。育ち盛りのヴィクトリア様に満足に食事を与えず、寝具も寒さを防ぐ薪も足りず……。こんなになっても医者もよこさず薬もくれない。あんな女は死ねばいいのだ!」

しかしその願いは半分は届き、半分は届かなかった。

ヴィクトリアはばあやの献身的な看病で命をとりとめた。しかし、命を落としたのは王妃ではなく無理な看病を続けたばあやだった。


 場面転換

ばあやの死に、声を殺して泣き続けるヴィクトリアの姿がそこにはあった。

そしてそこからはたった一人の塔の生活。

暗く寒い塔でたった一人……。



 傍らでその様子を見ていることしかできないエドワードは初めは怒りに震え、『くそっ!』『あの女許さぬ!』などと、憤っていたが、そのうち、うつむき黙ってしまった。


『エドワード様。大丈夫ですか?あっ……』


 恋人の様子を心配したヴィクトリアがそう尋ねると、いきなりエドワードはヴィクトリアを強く抱きしめてきた。

 エドワードはヴィクトリアの肩に額をつけ震えている。ヴィクトリアは自分の肩が王子の瞳から落ちてくるもので濡れていくのを感じた。


『これほど辛い目に……。少女のあなたを今助けられない自分が情けない……』


 実際エドワードは辛い目に遭う少女のヴィクトリアを助けようと何度も手を伸ばしていた。しかし手を伸ばした先の過去のヴィクトリアはエドワードが触れると霧散し、そのあとまた実体のように蘇るのだった。

 ヴィクトリアはエドワードの背中に手を回し、その背を優しくとんとんと叩いた。


『12の私のために貴方が泣いてくださる……。私はうれしゅうございます。きっともうすぐエリザベスが出てまいります。ご覧になって』


 場面転換。


 少し大きくなったヴィクトリアは若い女と塔にいる。


『13歳の私のようです。あの娘はばあやのかわりに週に一度入用なものを届けてくれる宮殿のメイドです。此のころには父王が私がやせこけてきたのに気づいて食料は以前の量で届くようになっていました。このメイドは気のいい娘でしたよ。安心してください』


 13歳のヴィクトリアは塔の窓から中庭の花園を眺めていたが、その花々の中で見え隠れしている少女に気づいた。


「あの可愛らしい金の髪の女の子は誰?」


ヴィクトリアはメイドに尋ねた。


「第3王妃のお子、エリザベス王女様です。10歳になられました。ヴィクトリア様はお会いしたことはありませんか?」

「ないわ。でもエリザベスのことは知っています。お優しい第3王妃のお子……私の妹ね。なぜかしらお花を摘んでいるあの子はとても悲しそう」

「一週間前にお母さまがお亡くなりになったのです。それでヴィクトリア様とは中庭をはさんで反対側にある西の館にお住まいをうつされて」

「あのお優しいセシリア様がお亡くなりに…」


ヴィクトリアは息をのんだ。




『エリザベスのお母上も早くに亡くなられていたのか…』


 エドワードの独り言とも問いかけとも取れる言葉を受けてヴィクトリアは補足した。


『エリザベスのお母上様で、第3王妃でいらっしゃったセシリア様は、とてもお優しい方でした。私の食べ物やドレス、寝具などいろいろ気にかけてくださり、塔にも何度も来てくださいました。でも来られるときはいつもお一人だったので、私はエリザベスを見るのはこの花畑が初めてだったのです。セシリア様は2週間前にお会いした時はお元気だったのに……。大変驚きました』


 二人はまた過去の世界を見始めた。


 過去のヴィクトリアは沈痛な面落ちで


「では…エリザベスも宮殿を追い出されてしまったのね…」


 と独り言のようにつぶやいていた。


「でも、それなりに侍女や侍従、下働きの者などたくさんいるようですよ。王女様にふさわしい待遇は受けられているようです。西の館はこことは違って居心地はよさそうですし。あっ! 私ったら!」


だが、失言に恥じるメイドのことをヴィクトリアは気にしていなかった。


「セシリア様……。幼い王女を遺されてのご逝去はさぞご無念でございましたでしょう。エリザベス……私の妹。あんなに寂しそうに……、可哀そうに」


 場面転換

 塔の夜。

 窓を開けた少女のヴィクトリアは西の館に向かって

「サナ」と唱えた。

 暗闇の中を優しいオレンジ色の光が帯になって館の方へ伸びていく。

 しばらくたつとヴィクトリアは慈愛に満ちた表情で微笑んだ。


「おやすみなさい。あなたがぐっすりねむれますように」


 それからはまた目まぐるしく場面が動いていった。

 どの場面も似たような情景だ。

 ヴィクトリアがエリザベスに遠くから癒し魔法を送る姿が次々と映し出されていったのだ。

 心読みの魔法はヴィクトリアは使えないが、どうやらエリザベスの悲しみや寂しさは感じ取れるようで、西の方から負の感情が流れてくると、ヴィクトリアはすぐに癒し魔法をかけ続けていたのだ。



 生き生きとしている13歳のヴィクトリアを見て、エドワードは少しだけほっとしていた。


『あなたは楽しそうだ』

『ええ。妹は私の癒し魔法をありがたがっていたようですけれど私の方こそ、いつの間にかあの子を愛していましたの。守るべき大切な妹ができてどんなにこちらが救われたか』


王妃の叱責、嫌がらせもずっと続いてはいたが、エリザベスを知ってからのヴィクトリアは強くもなったし、幸せそうにも見えた。



場面転換。


かなり大きくなったヴィクトリアが宮殿の大広間にいた。

どうやらなにか祝いごとの席のようだ。


『ああ! この日が来ました』

『なんの日なの?』

『光の王女となった日です』


ヴィクトリアは4年前の自分をただじっと見つめて、エドワードにそう告げた。



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