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17 過去見魔法~ヴィクトリアの過去②

 箱から出した喪服を無表情で眺めるヴィクトリアの場面がぐるりと大きく回った。


 各国の王族や国内の大貴族たちが多数招かれているグリーナ宮殿大広間に場面が飛ぶ。


『これは王太子の誕生祝賀会?』

『ええ。このことはよく覚えています。私はここで失敗を……』


 そこへ12歳のヴィクトリアが大広間へ入ってきた。

12歳のわりにかなり大人びて見えるヴィクトリアは銀の髪をハーフアップにし、髪には蝶の形の飾りをつけていた。衣装は……喪服ではなくふんわりとしたすみれ色のドレスだ。客人たちは王女の美しさにため息をついた。


「なんて愛らしくて賢そうな姫君だ」

「まだ12歳? それであの完璧な身のこなし……。何と優美な」

「これはまさに姫の中の姫。このお方の前だとどんな美しい花もかすんでしまいますな」


 ヴィクトリアは国王夫妻、弟のヘンリー王太子のところへ歩み出た。


「両陛下にはご機嫌うるわしく……。ヘンリー。11歳の誕生日おめでとう」

「姉上。ありがとう。今日の姉上はとてもおきれいですね!」


 無邪気に姉の姿をほめる弟王子の横で王妃は鬼のような形相をしている。


「ヴィクトリア。私の送ったドレスはどうしたのです」

「エレナ様。これはエレナ様の送ってくださったドレスです。まさか王妃陛下がこの日のために選んでくださったドレスを身に着けないわけはございませんわ」

「違うだろう。私が送ったのはそんな色ではない」

「どのようなお色だったのでしょうか……。よろしければお色を教えていただけますか」

「!……」

「どうされましたか?ああ。そういえばこのドレスの他に黒いドレスも入っておりましたが、まさか大切な王太子の誕生祝賀会に喪服のような黒のドレスを私に着させるなんてことはありませんわよね? 王妃様が私のためにお選びになったドレスは何色だったのですか?」

「勘違いをしました。このすみれ色だったようだわ。私、この子にはたくさんドレスをプレゼントしているから間違えたようね」


 ヴィクトリアはにっこりと微笑むと慇懃にお辞儀をし、その場を離れた。


『菫色のドレスは持っていたの?』

『私は変換魔法が使えるのですよ。色を変えるぐらいは12の時には簡単にできました。エレナは知らなかったようですけれど』

『なるほど。特に失敗はしていないようだが?』

『このあとなのです……』


 12歳のヴィクトリアはたちまち客人たちに囲まれた。皆、次々と王女の前に歩み寄り、挨拶をしていく。そのうちにある一人の老紳士が王女の前に歩み出た。


「王女。私はアカデミーの古語学教室で教師をしておりますメラーと申します」

「メラー様…! ではミラン辞書の監修をなさった?」

「ほう。まだご年少でいらっしゃるのにご存じですか」

「ええ。私飾り文字を勉強しておりますの。ミラン辞書はいつも傍らに置いています」

「素晴らしい。ミラン語もレギウス文字もお若い王女が興味を持ってくださればこれからの若い貴族たちも進んで勉強するかもしれませんな」

「ヘンリー王子も勉強しております。どうぞこちらへ」


 ヴィクトリアに誘われメラーは国王夫妻、王太子の前へ出た。


「お父様。こちらはアカデミーのメラー教授でいらっしゃいます」


 ヴィクトリアから紹介を受けると、メラーは


「プリンケプス。フェリックス・ディエス・ナターリス・ティビ」


 と王子にミラン語で誕生の祝いの言葉を述べた。

王は頷き、王子は「グラティーナ・アゴ」とやはりミラン語でにこやかに礼を伝える。

 すると王妃は


「ほほ。アカデミーの教授……。なにか田舎の言葉を使っているようね。ヴィクトリアの知り合いということは死んだジョゼフィーヌ妃の公爵領の方言かしらね。それにしての王家の面前で公用語もしゃべることができないとは。とんだ田舎学者だこと」

「エレナ様!先生に対してなんと無礼なことを…」


ヴィクトリアは怒りに震えながらエレナに抗議した。


 メラーはそれを制して


「私が田舎者であることは間違いないのでいいのですよ。アカデミーはグリーナからは離れたフロイデの学術都市にありますからな。陛下、ミラン語はいまや教会や式典、それに一部の芸術で使われるのみの言葉になってしまいました。しかしこの言葉には霊力があるのです。清らかな魔法の力を持つものが心を込めて書いた美しい文字や唱えた言葉は、それが言霊となって願いをかなえさせる力があるとされております。来月私がアカデミーの学長に就任しましたら、ミラン語とレギウス文字の研究に力を入れようと考えております」


 一切のなまりのない公用語でメラーが説明すると


「学長……!」


 エレナ王妃は真っ赤になって焦っていた。アカデミーはグリーナ含め近隣七か国の中の最高峰の学術機関だ。その学内の人事はどの国の王族といえど介入はできず、学長ともなれば、王族とはまた別の経済界、宗教界においての権力を持っていたのである。


「母上。先生は僕にお誕生日のお祝いの言葉を美しいミラン語で贈ってくださったのです」


 息子の無邪気な解説に王妃は強張った微笑を浮かべた。


「広間がざわついて聞こえなかっただけです。ヴィクトリア。なぜこのお方が次期学長さまと私に言わないのです。一介の教師と間違えて礼を失してしまったではないの」

「王妃陛下。私とて、ただの教師でございますよ……。それに学長就任の件は学外では今初めて話したのです。王女はご存じない」


 メラーはヴィクトリアをかばってくれた。

 ヴィクトリアは血がつながっていないとはいえ、同じ王家の人間である王妃のあまりな振舞いに恥ずかしさで震えながらでうつむいている。




『大丈夫ですか?』


王太子の祝いの席のあれこれを見ながらこぶしを握って怒りをこらえているエドワードをヴィクトリアは気遣った。


『あの王妃は……なんなんだ。性格が破綻している……!』

『そうですね。でもこれは本当に私の失態でした。メラー先生にも嫌な思いをさせてしまいましたし、それに王妃に恥をかかせた張本人ということでこの先さらに王妃からの当たりが激しくなったのです」

『さらに……?」


そのとき

また場面がぐるりと変わった。






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