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16 過去見魔法~ヴィクトリアの過去①

 ヴィクトリアが落ち着くのを待って、エドワードは過去見魔法の説明を始めた。


「私が術をかけると私は過去のあなたが見聞きしたこと、経験したことを目の当たりにすることになります。つまり過去のあなたのところへ私は飛ぶのです。だが、過去へ飛んだ私は目の前で過去のあなたを見ていても一切過去に干渉はできない。もちろん過去の人々からは私は見えません。私は一人で過去へ飛ぶこともできますが、ヴィクトリア、あなたはどうしますか? 私は過去へあなたも連れていくことができるが……。一緒に行きますか?」

「はい。ご一緒させてください」

「あなたが忘れていること。気づかなかった嫌な事も見るかもしれないですよ」

「それでも。自分のことですので」

「わかりました。ではこのソファに腰かけて……。そして私の両の手の上にあなたの手をのせてください」


ヴィクトリアは言われるがままにエドワードの手に自分の手を重ねた。


「目をつぶって…。レトロスピトゥクス ドゥオ」


エドワードの呪文を聞くと、ヴィクトリアの視界はぐるりと回り、意識を保てなくなった。


『……トリア……ヴィクトリア』

『エドワード様…?』


 気が付くとヴィクトリアはヴィクトリアはエドワードに身体を支えられ立っていた。


『過去を見ているよ。ここに見覚えはある?』


 問われて周りを見回すと、そこはグリーナの宮殿だった。


『グリーナの宮殿です。そして…この女性は…』


 目の前には美しい若い女性がゆりかごを揺らしながら子守歌を歌っていた。

ゆりかごの中には銀の髪がきらきらと光っている可愛らしい女の子が眠っている。

とても幸せな風景のはずなのに、その母の儚げな美しさは切なさが際立ってしまっていた。


『母です……。グリーナ第二王妃ジョゼフィーヌ。ゆりかごの中は私だわ』


その時バタンとドアが開いた。


「おや。かわいらしい王女様に歌を歌ってさしあげてるのね。おかげんはいかが?ジョゼフィーヌ」


入ってきたのはこちらも美しい若い女だ。しかしその見舞いの言葉には棘があり、尊大な態度からは優しがみじんも感じられない。豊かな黒髪とルビーのような赤い瞳のこの女こそヴィクトリアを虐げ続けたグリーナ第一王妃エレナだった。


「エレナ。どういう風の吹き回し?あなたが私の見舞いにやってくるなんて」


対するジョゼフィーヌも先ほどまでの儚さは影を潜め、強い口調だ。


「ホホホホ…。そんなふうに警戒しなくても。私とあなたは昔は姉妹の様にいつも一緒だったではありませんか。私はあなたをジョゼフィーヌお姉さまと呼んでいたでしょう?」

「そんなこともあったわね。でも今はあなたを妹とも友人とも思っていないわ」

「おや。意見があうわね。私もあなたのことが大嫌い。あなたは本当に立ち回りがうまくて…。ずるいあなたのおかげで私がどんな思いをしたかあなたはわからないでしょう」

「あのことは気の毒だったと思うけれど、私が決めたことではないわ。それに私も大変な思いをしたのよ」

「…なんですって」


エレナ第一王妃の赤い瞳は怒りのためになお一層燃え上がるように光り輝いた。


「気の毒だったと思う? そんな言葉で表せられることではないわ! 二人そろって光の王女候補に決められたというのに! それなのにお前は!! お前だけずるく立ち回って私が一人でどれだけずっと暗闇の中で怖かったか! 情けなかったか! 私はたった一人で…っ!!」

「直前で一人にしぼられるなんて私にはわからなかったことよ…それに…」


 母ジョゼフィーヌの言葉が全部終わる前にまたヴィクトリアの視界が回転した。


『お母さま…お母さまとエレナが光の王女候補に…そして選ばれたのはエレナだけ…。だから私は恨まれているの…?』

『ヴィクトリア。今はあまり深く考えないで。また場面が変わるよ』



 次の場面は塔の中だ。そう。ここはヴィクトリアが母が亡くなってから森へ捨てられるまで過ごした東の塔だ。


 塔の中の一室では初老の婦人が3歳のヴィクトリアを膝に抱き、泣いていた。ヴィクトリアは眠っているようだ。


「姫様…。今日からは私が……私一人があなた様のお世話を致します。お可哀そうなお姫様! 今日はお母上のお葬式だというのに、お別れもさせてもらえず…。ああ!でも姫様を参列させるべきだなどと言わねば良かった!あの王妃に『子供に母の死を自覚させるものではない。そうだ。宮殿にいれば母の面影がいつまでもあの子の心を悲しくさせるであろう。今日から姫の住まいを東の塔にせよ。侍女も優しい優しい姫想いのベルディ夫人がおれば十分』と言われてしまった。わたしのあさはかな意見が姫様のお住まいをこんなうらぶれた場所に……」初老のヴェルディ夫人は泣き崩れた。


「ばあや。どうしたの? 泣いてるの?」


 いつのまにか目を覚ましたヴィクトリアが小さなもみじのような手で夫人の目の周りを触った。


「痛いの? ばあや、いい子いい子よ」

「姫様っ…!!」

ばあやの嗚咽が塔内に響いている。



 そこでまた場面転換。

宮殿の国王一家の居間には12歳のヴィクトリア、父国王と第一王妃エレナ、その二人の子供である10歳の王太子ヘンリーがいた。


「おお。ヴィクトリア。大きくなったな。11か」


 国王は心底驚いたふうにヴィクトリアを見て言った。


「お父様、私は12歳です。2年ぶりに会えばそれは大きくなったと感じられるのでしょうね」

「まったくお前は可愛げがないな。いずれどこかの王家に嫁がせるために、毎日宮殿に呼んで最高の教育を受けさせてやっているが、情緒面は育たなかったとみえるな」


 王はいまいましげにヴィクトリアをにらんだ。


「父上。姉上はとてもお優しい方です。僕は学習室で姉上と同じ授業を受けることがあるのですが、いろいろ僕のわからないところを教えてくださいます。姉上はお優しいし、とても賢くていらっしゃるし、おきれいだし…」


 ヘンリーは父王にヴィクトリアの良いところを必死に訴えている。


「まあまあ。さすが我が子ヘンリー。お前こそですよ。父の不興を買った姉をかばうとは……。なんと優しい子なのだろう。無理して思ってもいないことを言わずともよいのよ」

「母上! 違います!姉上は本当に……」


 自分をかばおうとしている弟をヴィクトリアは目で(いいのよ)と合図し、父王に向かって言った。


「それで今夜はどのような御用でしょうか。皆様の団らんに長くお邪魔をするのも申し訳ないので早くご用件をうけたまわりたいのですが」


 ふん、と鼻を鳴らして国王はヴィクトリアを見据えた。


「今度ヘンリーの誕生日祝賀会にお前も出席しろ。その会で各国の王族にお前の姿を見せるのだ。お前は見た目や立ち居振る舞いはいいからな。今のうちから各方面に顔を売って、まあ、5~6年後……18ぐらいに嫁げばよかろう。グリーナの益となる王族をわしが見極めてやる。衣装は王妃、お前に頼むぞ。ではヴィクトリア、塔に戻ってよし」


また場面転換

舞踏会当日。


塔のヴィクトリアのところに王妃から届いた衣装は漆黒の喪服だった。









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