15 涙の姫君
出ていった妹の足音が聞こえなくなってもヴィクトリアはまだ涙を流していた。
エドワードは優しく涙を指でぬぐってやったあとヴィクトリアの目をのぞきこんだ。
「大丈夫?」
「……ええ。ええ。それこそこれはうれし涙です。あの子から慕われているのはわかっていましたけれど、それでもこんなふうに思ってもらえているのがうれしくて。言ってもらえることがうれしくて。変ですね。私ずっと感情がないとか澄ましているとか言われていましたのよ。泣くなんてことはグリーナではありませんでしたのに」
「私もうれしいですよ。私の大切なあなたをこんなに思ってくれる人がいて。妹君しかり、大公夫妻しかり。あなたは侍女や使用人や領民にも愛されていますよ。知っていますか? 領民から『うちのかわいい姫様たち』って呼ばれているのを」
「さあ……。それは存じませんでした。でも皆から好意を持たれているのは感じます。心読みの魔法は私はございませんが、それはわかります。ありがたいことです。グリーナでは、ばあやからしか愛情を感じたことがなかったので」
「あなたのような愛情深く優しい方が虐げられていたとは……。いや、エリザベスもだが。教えていただけますか。あなたがグリーナでどんな生活を送っていたのかを。幸せそうなあなたを見ているとこんな事を尋ねるのはよくないのではないかと思い、今まであえて聞かなかったのですが……。来月やって来るであろうグリーナ国王夫妻に突きつけるカードとして、あなた方への扱い、それに至る経緯を知らねばならないのです」
「ではエドワード様。どうか私の過去を魔法でご覧くださいませ」
「過去見魔法ですか……。いや、それはどうだろう。あなたが知られたくないことまで見えてしまうかもしれない」
「いえ。私は父も王妃も嫌いです。私はちっとも清らかではございませんのよ。あの二人のことを憎んでいると言ってさしつかえありません。そんな私が話をすれば主観が入って自分をよく見せようとしてしまうかもしれない。過去見魔法はあったことそのままを術者に見せるのでしょう?その方が正確です。それに、お恥ずかしいのですが王妃からの憎しみはエリザベスよりも私により多く向けられていた。なぜそうなったのか私にはわかりませんの。過去見魔法であなたが事実を見てくだされば、その謎も解けるかもしれません」
「ヴィクトリア……いいの?」
「はい。でも……もしこれで私の悪い心、人を憎む心もあなたが知っておしまいになったら、あなたは…私を嫌いになってしまうかもしれませんわね……」
寂しそうにまるで独り言のようつぶやくヴィクトリアの様子にエドワードはいつになく強い口調で
「ヴィクトリアを嫌いになんかならない。天地がひっくり返っても。絶対だ」
と答えた。
「エドワード様…」
エドワードはヴィクトリアを抱きしめながら、やさしくその背中をさすり続けた。




