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12 バラ園の約束

 中庭は秋薔薇が淡い香りを放っていた。

もう日は暮れているが、ところどころに設置された屋外灯により散歩道も花々もうっすらと闇から浮かび上がっている。


「ヴィクトリア」


 散歩道を歩いていたエドワードはそう呼びかけるとヴィクトリアの両手を取り、王女の目を正面から見つめた。


「あなたを危険な目にあわせることになってしまった。しかもそう仕向けたの私です。来年の光の王女のことを黙っていたってよかったんだ。そもそも王はグリーナ王女ということを公言せず大公家の養女にするというのがよかろうという考えだったのです。それを私は…」


 ヴィクトリアはエドワードを見つめ返し微笑み


「サナ」


 と小さく唱えた。すると王子に握られた手のひらからぽうと温かい光がもれだした。


「これは…癒し魔法ですか…?」

「ええ。あまりにエドワード様がお辛そうでしたので。どうでしょう。少し落ち着かれましたか」


 エドワードは目をつむって深く呼吸をした。


「申し訳ありませんでした。取り乱していたようだ。落ち着きました」

「エドワード様感謝いたします」

「なぜです?あなたはあなた方を虐げ、殺そうとした王や王妃とまた会わねばならないのですよ?危険な目にあわすかもしれない。その選択をさせたのは中央教会です。そしてそれは教会庁長官である私なのです」

「いいえ。あなたは私を救ってくださったのです。幼子が光の王女に選ばれたことを全てが終わった後に私が知ったら……私の心は壊れてしまったでしょう」

「ヴィクトリア」

「あなたは私が今度の光の王女のことを知ったら、グリーナへ戻ろうとすることを見抜いていらっしゃったのではありませんか? でもだからと言って今回の王女のことを黙っていたら、それを後から知った私が苦しむだろうという事も。あなたは誠実なお方です。あなたはお優しいお方です。しかも1国の王子としても、教会庁の長官としても責任ある正しい道を歩まれている。心から尊敬申し上げております」

「……そうです。私はあなたが命をかけて竜から子供を守った姿も見ているし、自分の身体を顧みず子供に回復魔法をかけ続ける姿も見ている。光の王女のことはこの人には内緒にできない、してはならないと思ったのです。ヴィクトリア。再度お約束いたします。私はあなたをお守りする。悪しき王と王妃から、グリーナの風習から、お守りします。そしてかの地のもろもろのしがらみからあなたを完全に解放してさしあげます。ですからあなたは」

「はい」

「決して早まらないと私に約束してください。幼子のため、妹君のため、フロイデに迷惑がかからないため……、そんなことをあなたは考えそうだ。自分さえ犠牲になれば、ということをけっして考えないでください。私を信じて私を頼ってください。約束してください」

「約束……」

「約束すると」

「約束いたします……」

「よかった! 私もあなたを信じます。この約束を必ず守ってくださると」


 エドワードは心底ほっとした顔をすると、「フローレオ」と花々を指差し唱えた。


「まあ!」

「驚かれましたか? あなたが約束を忘れないようにちょっと記憶に残りそうな風景にしてみました。


 庭園の控えめな秋の花はまるで春爛漫の花々の様に咲き誇った。屋外灯も光を増し、庭園全体を照らしている。秋薔薇も春の薔薇の様に華やかに咲き誇り、スズランやクロッカス、チューリップ、スイートピーなど先ほどまでにはなかった花も満開だ。


「大魔法使い……」

「これはほんの少しの魔法ですが。そうです。私が大魔法使いと言われるのは、自然に干渉できるからなのです。長い時間は無理ですが、日照りの時は雨を、長雨の時は雲を散らすことができる。自然干渉ができる者は自動的に大魔法使いと言われ、中央教会に記録されます。その大魔法使いの中でも強大すぎる魔力を持つものはアンタッチャブルと言われ、魔法力を暴発させてしまうことがあると言われていますが……。私はそこまでの魔力はありません。ないはずだ……。後、私にはあなたにおかけした忘却魔法や想起魔法、あまり使ったことのない『過去見』の能力があります」

「自然干渉は見たことがありませんでした」

「そのようですね。あなたは変換魔法も使えるようですが、魔法使いの術は対人の魔法が主でしょう。そうそう。妹さんはさっき私の手をつかまれましたが?」

「人の心が読めるのです。手を握って強く念じたり、何か衝動があった時に発動します。しょっちゅう人の思いが流れ込んでくるわけではないのが幸いでした。隠しておきたい人の思いや知らなくてもいい人の気持ちを暴いてはなりませんし、術者の身が持ちませんもの。あの子も常識を持った子です。誰彼構わずこの能力を使うことはありませんわ。あ……、エドワード様には申し訳ないことをいたしました」

「では。私の気持ちを妹君は」

「そのようですね」

「当事者以外に先に知られてしまいましたか。では、昼の続きを」

「?」

「初めから…の続きです」

「はい」

「私は初めからあなたを王女とわかっていたし」


 エドワードは一呼吸置いた。


「初めからあなたに恋をしていました」


 エドワードは少し腰をかがめてヴィクトリアの目を覗き込んだ。


「驚きましたか?」

「いえ」

「そうなの?」

「知っていましたから」

「?」

「あなたが初めからのあとに繋ごうとしていた言葉を知っていました」

「あなたも妹さんと同じ魔法が…?」


 ヴィクトリアは軽やかに笑った。


「ございません。でもあなたの態度を見れば若い娘ならだれでもそうとわかると」

「そう……でしたか?!」

「そうです。そして私はなぜおっしゃってくれないのだろうかとやきもきいたしました」

「!」

「私も最初から」

「そうなんですか?」

「そうです」

「ヴィクトリア!」

「見られています」

「え」

「妹とチャールズ様は確定です。あと多分陛下と院長様……。こんなに庭を昼間の様に明るくされたら皆様、見てしまうのは当然でしょう」

「~~~~~!!!!!」


 頭を抱えたエドワードはそのあとヴィクトリアとともに大笑いをした。


「声までは聞こえていないでしょうが、みんなが私たちの約束の証人ですね。私はあなたをお守りする。

あなたは決して自分を犠牲にしない。そして私はあなたを愛している。あなたは…?」

「私もあなたを愛しています」


 エドワードがパチンと指を鳴らすと、先ほどまで煌々と光っていた灯が落ち、淡い月光が寄り添う若い二人を優しく包み込んだ。






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