夜の調査と忍び寄る影
夜の王都は、息を潜めたように静かだった。
セイタは屋敷の屋上からそっと空に舞い上がった。
(……飛べる。やはり、この力は確かだ)
夜風が頬をかすめる。
下には王都の街並み、暗い街道、放棄された荷車の群れが見えた。
森の縁に、かすかな焚き火の光が揺れている。
(……盗賊だな。あの辺りの道は封鎖状態か……)
数刻かけて街道や橋の崩落箇所、盗賊の野営地の位置を上空から確認し、頭に刻み込んだ。
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屋敷に戻ったセイタは、透明化の力を荷車に試した。
荷車の姿は見事に消えた。
(……問題は音だ。軋む音、車輪の転がる音……これじゃ盗賊に気づかれる)
夜の静寂に軋む音が響いた。
(……音も消せないか、試すだけ試してみよう……)
念じた。だが荷車の軋む音は、変わらず耳に残った。
どんなに意識しても音は消えない。
(……万能ってわけじゃない。都合よくはいかないか……)
ならば、とセイタは考えた。
(……音を隠すには、風音や雨音を利用するしかない。風の強い夜、自然の音に紛れさせるんだ)
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翌朝。
セイタは夜の調査結果をジンジールに伝え、地図の上で道を示した。
「橋はこことここが崩落。ここは盗賊の野営地だ。
残った細道を使うしかない。荷車は透明化で姿を隠せるが、音は消せない。
だから、風の強い夜を選び、音を紛れさせて輸送する」
ジンは目を見開き、深くうなずいた。
「……あなたの知恵がなければ、この作戦は生まれなかった。頼らせてくれ……あなたの力に」
セイタは目を伏せ、静かに地図に視線を落とした。
その背に、わずかな決意が滲んでいた。
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その夜。
盗賊の野営地の奥、焚き火の向こうに鋭い目を光らせる大柄な男の影があった。
魔王軍の混乱に乗じて盗賊団を率いる、バルゼッグ。
男はわずかに口角を上げた。
「物が動き出せば、それは俺たちの餌だ。それだけのことだ」