疑念と沈黙の道
風が、焼けた戦場を吹き抜ける。
立ち尽くすセイタの隣で、ジンジールは剣を地面に突き立て、荒い呼吸を整えていた。
「……助けていただき、感謝します」
ジンの声はかすれていた。
「あなたがいなければ、私はここに立ってはいません」
セイタは答えなかった。まだ震える手を見つめていた。
「ここを離れましょう」
ジンジールが立ち上がり、道を示した。
「このまま王都に向かいます。だが……あなたのことは、私の判断でしばらく私のもとに置かせてほしい」
セイタは小さくうなずいた。
(……当然だ。むしろ助かる。目立ちたくない……)
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道を歩く二人。焼けた村、崩れた街道、散乱した荷車と物資の残骸。
ジンジールが沈んだ声で語り始めた。
「街道は魔王軍や盗賊に封じられ、物流は途絶えました。馬車も荷車も奪われ、商人たちは街を捨てた。街は飢え、病が広がり……国は崩れかけています」
セイタは荷車の残骸に目を止め、頭の中で数字と図を思い描いた。
(……物資喪失、ルート遮断、ドライバー不足……都市の物流崩壊の連鎖……)
「……王都ですら、もはや食料も薬も十分ではありません」
(まるで事故現場……いや、それ以上だ……)
「陛下には、私からあなたのことを申し上げます。だが、正直に言えば……」
ジンジールはわずかに目を細め、前を見た。
「あなたが何者なのか、私にはまだ分かりません。それを確かめるまでは、私の責任でお守りします」
「……感謝する」
セイタはそれだけ答えた。
(……俺の力のことは……誰にも知られたくない。今は……静かに、考える時だ……)
遠く、焼けた橋の向こうに王都の城壁が見えた。
その壁の内側に、崩れかけた都市が息をひそめている。