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第7話:見捨てられた民と魔界の理(ことわり)

いつも読んでくださりありがとうございます!


最新話をお届けします。

明日は7:00と20:00に更新予定です。

楽しんでいただけると嬉しいです。

毎日更新でがんばります(*^^*)


それでは、どうぞ!




レイザー・ハウンドの亡骸が転がる中、俺――ヴァルは、ひれ伏すインプたちを前に立ち尽くしていた。



「どうか、我らをお導きください!」


長老らしきインプの懇願に、他の者たちも同調する。その目には、絶望の淵で見つけた一縷の光に対する、必死の祈りが宿っていた。


(いやいや、待て待て。導くって、何をどうしろと?)


内心の俺は、全力で首を横に振っていた。リーダー? 冗談じゃない。前世じゃ、プロジェクトリーダーどころか、会議で意見一つまともに言えなかった男だぞ。


だが、俺の視界の端に、助けた子供のインプが映る。さっきまで死の恐怖に泣き叫んでいた彼女――ミアが、俺のローブの裾(いつの間に着てたんだこれ)を、小さな手でぎゅっと握りしめていた。その大きな瞳は、ただ純粋な信頼と憧れで俺を見上げている。



……ここで「無理だ」と言って、この手を振り払えるか?



前世で、何度も見て見ぬフリをしてきた光景がフラッシュバックする。


「……チッ」

俺は小さく舌打ちし、彼らに背を向けた。


「ついてこい。ここは危険だ。話は、安全な場所で聞く」


有無を言わさぬ口調に、インプたちは一瞬戸惑い、やがて慌てて立ち上がって俺の後に続いた。ミアは、俺のローブを握ったまま、小さな歩幅で必死についてくる。


俺が彼らを導いた先は、古竜ヴァルス・アステラクロンの骸が眠る大洞窟だった。


洞窟を奥へと進み開けた場所にきた瞬間、インプたちは息をのんだ。


目の前に横たわる、山のように巨大な竜の骸。その圧倒的な存在感と、骸から放たれる神聖さすら感じる魔素の奔流に、彼らは再びその場にひれ伏した。


「な、なんという…! まさか、この偉大なる竜の主だったとは…!」

長老が、驚愕と畏怖に満ちた声で呟く。


(いや、主じゃない。通りすがりのミミズだったんだが…)


説明するのも面倒で、俺は黙って洞窟の奥へと進み、焚き火を起こした。乾燥した魔界の植物は、俺の《火炎ブレス》でよく燃えた。


火を囲み、ようやく落ち着きを取り戻したところで、俺は長老に向き直った。ミアは、いつの間にか俺のすぐ隣にちょこんと座り、黄金色の瞳を珍しそうに眺めている。


「まず、状況を整理したい。お前たちは何者で、なぜあんな場所にいた?」


長老は、深く頭を下げると、ゆっくりと語り始めた。彼の名はノクテリオンというらしい。


「我らはインプ族。この世界――『魔界』において、最も弱き種族の一つにございます」


「魔界…」


やはり、ここはそういう場所なのか。


ノクテリオンの話を要約すると、こうだ。


この魔界は、強力な力を持つ魔人や魔物が支配する、完全な弱肉強食の世界。彼らインプのように、知性はあるが非力な種族は、常に捕食者たちの搾取と暴力に晒されてきた。


そして、彼らはついに住んでいた集落を追われ、この瘴気が濃く、まともな食料もない不毛の地へと逃げ延びてきたのだという。


「いわば、ここは魔界の者たちからすら見捨てられた『地の果て』。我らは、行き場を失った民なのでございます」


ノクテリオンの言葉に、インプたちの表情が暗く沈む。


見捨てられた民。その言葉は、なぜか俺の胸に深く突き刺さった。


「…お尋ねしてもよろしいでしょうか」

ノクテリオンが、探るような目で俺を見る。


「ヴァル様は、一体どちらから…? あなた様ほどの力を持つお方が、このような辺境におられるのが、どうしても解せませぬ」


「…記憶がない」


俺は、とっさにそう答えていた。ミミズから進化したなんて、どう説明すればいい。


「気づいたら、この洞窟で倒れていた。俺が何者なのか、俺自身も知りたいくらいだ」


嘘ではない。相馬 透としての記憶はあるが、『ヴァル』としての記憶はないのだから。


俺の答えに、ノクテリオンは何かを納得したように頷いた。


「...一つ教えてくれ」


俺は、ずっと気になっていたことを尋ねた。


「この魔界という世界の、外側には何がある? この世界が、全てなのか?」


俺の問いに、ノクテリオンは少し考え込み、やがて古い伝承を語るように口を開いた。


「定かではありませぬ。ですが、言い伝えにございます。この闇と混沌に満ちた我らの世界とは別に…空が青く、大地が緑に覆われた、眩い光の世界があると」


「光の世界…」


「はい。ですが、それは『人間』と呼ばれる、我らとは全く異なる種族が住まう場所。我ら魔の種族が足を踏み入れることなど、決して叶わぬ夢物語にございます」


人間。その言葉に、俺の心臓がわずかに跳ねた。


やはり、この世界は一つではない。


話が一区切りついたところで、ノクテリオンは再び深く頭を下げた。


「ヴァル様、どうか! 我らの指導者となり、お導きください! このままでは、我らは飢えと魔物の脅威で、いずれ滅びる運命にございます!」


インプたちが、一斉に俺に懇願の眼差しを向ける。


俺は、思わず天を仰いだ。


(だから、無理だって言ってるだろ! 俺はリーダーの器じゃないんだ! 全員の生活の面倒を見るとか、そんな重すぎる責任、どうやって負えと!?)


しかし、視線を下ろすと、そこには不安げに俺を見上げるミアの顔があった。飢えと恐怖で、その小さな身体は痩せこけている。他の子供たちも皆、同じだ。


前世で、理不尽な要求にただ従い、声を上げられなかった自分。


ここで彼らを見捨てたら、また同じだ。また、俺は「歯車」として、自分の無力さに絶望するだけだ。


「……ッ!」


俺は、苦悩の末、元システムエンジニアとしての思考を強制的に起動させた。


感情で考えてはダメだ。ロジカルに、最も効率的な解決策(ソリューション)を導き出すんだ。


(現状の課題(イシュー)は、インプたちの生存確率の低さ)

原因(ボトルネック)は、食料不足、貧弱な戦闘力、安全な居住区の欠如)


(解決策は…? 全員を連れて旅をする? いや、移動はリスク変数が多すぎる。非効率だ)

(ならば、発想を転換しろ。彼らを動かすのではなく、この場を『()()()()()()』にする)


カチリ、と頭の中で何かがはまった。


(そうだ。どうやらこの竜の骸がある洞窟は、強力な魔物を寄せ付けない天然の防衛システムが機能している。最高の立地だ)


(ここに、彼らが自活できる『仕組み(システム)』を構築すればいい。


食料を安定供給するフローを作り、防衛機能を強化し、役割分担でコミュニティを運営させる…)


壮大な理想じゃない。


ただ、目の前の面倒な問題を、最も効率的に、最も合理的に解決するための手段。


俺は、意を決して顔を上げた。

「指導者になるつもりはない」


その言葉に、インプたちの顔に絶望の色が浮かぶ。


だが、俺は続けた。


「だが、お前たちがここで生きていくための『巣』は作ってやる。その代わり、死に物狂いで俺に協力しろ。これは救済じゃない。生きるための、共同プロジェクトだ」


俺の言葉に、ノクテリオンは目を丸くし、やがてその言葉の意味を理解して、顔を輝かせた。


ミアは、難しいことは分からないなりに、俺が自分たちを見捨てなかったことに、満面の笑みを浮かべた。


俺は、巨大なヴァルス・アステラクロンの骸を見上げる。


「さて、と…。まずはインフラ整備とセキュリティ対策からだな」


その顔は、英雄でも救世主でもなく、厄介なプロジェクトを押し付けられた、システムエンジニアの顔そのものだった。


こうして、行き場を失った者たちの、ささやかな巣作りが静かに始まったのだった。


今回もお読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m


今後の展開に向けて、皆さんの応援が何よりの励みになります。


「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ぜひ**【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】、リアクション、そして【感想】**で応援していただけると嬉しいです! 誤字脱字報告も大歓迎です。


皆さんの声が、私の創作活動の大きな原動力になります。


次回更新も頑張りますので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです!

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