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第6話:新たな出会い

いつも読んでくださりありがとうございます!


最新話をお届けします。20時にも1話更新予定です。


楽しんでいただけると嬉しいです。

毎日更新でがんばります(*^^*)


それでは、どうぞ!



光が収まり、俺の意識が覚醒する。


最初に感じたのは、五感の爆発的な解像度だった。

ひんやりとした洞窟の石の感触が、背中から伝わる。微かな風が肌を撫で、腐臭と土の匂いが混じった魔界の空気を、肺が深く吸い込む。


「……肺?」


俺はゆっくりと、自分の「手」を顔の前にかざした。

ミミズではない。ぬめりもない。五本の指がついた、まぎれもない人間の手だ。


慌てて身体を起こし、洞窟の壁際にある水たまりを覗き込む。

そこに映っていたのは、見知らぬ青年だった。


日に当たったことのないような白い肌に、夜の闇を溶かし込んだような黒髪。その髪は、光の加減でところどころ銀色に輝き、まるで竜の鱗のようだ。


そして、何より異質なのはその瞳。暗闇の中にあって、自ら光を放つかのような黄金色の瞳孔――竜眼、とでも言うべきものだった。


「……誰だ、こいつ」


呟いた声は、スースーという空気の音ではなく、凛とした青年の声として洞窟に響いた。俺の声だ。


呆然とする俺の目の前に、見慣れた半透明のウィンドウがポップアップする。

________________________________________

【種族】ヴルム・ドラコ(竜蟲)

【個体名】ヴァル

【レベル】1

【HP】 150 / 150

【MP】 100 / 100

【攻撃力】80

【防御力】100

【素早さ】60

【魔力】90

スキル:悪食(Lv.3)、麻痺耐性(Lv.2)、酸耐性(Lv.2)、酸液飛ばし(Lv.3)、外殻強化(Lv.3)、火炎耐性(Lv.2)、火炎ブレス(Lv.2)、物理抵抗(Lv.2)、毒耐性(Lv.1)、電撃耐性(Lv.1)、隠密(Lv.1)、言語理解new!

【固有スキル】コード・アナライザーnew!

【固有特性】竜の因子new!

称号:竜の記憶を継ぐ者

________________________________________


「……レベル、リセットされてる」

だが、ステータスの初期値がミミズ時代とは天と地ほどの差だ。


ワーム(Wurm)の因子と竜(Draco)の因子が混じって、ヴルム・ドラコ(Vurm Draco)か。安直だが分かりやすい。


個体名が『相馬 透』から『ヴァル』に変わっているのは、魂の情報が竜の因子によって上書きされた結果か?それとも、この世界のシステムが、俺を新たな個体として再定義したのか。


「どちらにせよ、もう『相馬 透』じゃない、か」

奇妙な解放感があった。前世のしがらみから、ようやく解き放たれたような。

俺は新しい名前――ヴァル、を口の中で転がしてみる。悪くない。


それよりも重要なのは、固有スキルだ。

俺の知識や経験がスキル形成に関係しているのか?


《解析》が《コード・アナライザー》になっている。

俺は試しに、目の前の巨大なドラゴンの骸に向けて、そのスキルを発動させてみた。


『《コード・アナライザー》』


瞬間、視界が凄まじい情報量で埋め尽くされる。


だが、以前のような情報の津波ではない。全てのデータが構造化され、階層ごとにフォルダ分けされた、見慣れたディレクトリ構造のように見えた。





【ルート】

 ┣【オブジェクト名:ヴァルス・アステラクロン(古代竜)】

 ┃ ┣【状態:機能停止(仮死状態)】

 ┃ ┣【残存魔素量:計測不能】

 ┃ ┗【魂の断片(データ破損):[表示不可] [表示不可] [表示不可] ...】

 ┗【その他:膨大なデータのため、フルスキャンには高レベルのスキルと膨大なリソースが必要】


「……ヴァルス・アステラクロン。これが、この竜の名前か」


そして「仮死状態」? やはり、まだ完全に死んではいない。

シャドウ・リーパーが言っていた「眠りを見守る」という言葉は、真実だったのだ。

俺は、ごくりと喉を鳴らした。


目の前には、最高の経験値であり、最高のスキル素材である竜の骸。

これを《悪食》で喰らえば、俺は一気に最強への階段を駆け上がれるかもしれない。


だが――。


俺の手は、動かなかった。


脳裏に、あの情報の奔流の中で感じた、竜の強烈な意志が蘇る。

喪失感と、世界への怒り。それは、ただのデータではなかった。


これを喰らうことは、彼の尊厳を踏みにじる行為に思えた。

「……今は、やめておこう」


それに、この骸にはまだ何か秘密がある。俺は、それを解き明かしたいと思った。


新たな目的ができた。この世界のことを知り、竜の記憶の謎を追う。そのためには、まずこの洞窟を出て、情報を集めなければ。


ヴァルとして最初の一歩を踏み出した俺は、洞窟の外の光景に息をのんだ。


紫色の空に、二つの月が浮かんでいる。大地はひび割れ、そこかしこから瘴気が立ち上り、見たこともない奇怪な植物が群生している。ミミズ時代には見えなかった、世界の広大さと過酷さが、一気に眼前に広がっていた。


「さて、どうしたものか…」

そう呟いた、その時だった。


『ガルルルル…!』

『助けて!』

『 …逃げなさい!』


甲高い悲鳴と、獣の咆哮が風に乗って届いた。


音のした方へ駆けつけると、そこには信じられない光景が広がっていた。

数十体の、小さな人型の魔物が、洞窟を背にして必死に何かから逃げ惑っている。小鬼のような、あるいは悪魔の子供のような姿。インプ、という種族だろうか。


そして、彼らを狩っていたのは、三体の巨大な狼型の魔物だった。筋肉質な身体に、刃物のような爪と牙。


『《コード・アナライザー》』

《対象:レイザー・ハウンド。群れで狩りを行う獰猛な魔物。スキル:加速、鋭爪》


レイザー・ハウンドの一体が、逃げ遅れた子供のインプに飛びかかる。

その光景を見た瞬間、俺の頭の中で、何かがプツリと切れた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『――いいから、やるんだ。これは、決定事項だ』

前世の上司の冷たい声。

理不尽な要求に、何も言い返せず、ただ歯を食いしばって従った自分。

目の前の光景が、その無力感と重なった。


◇◆◇


「面倒事に、巻き込まれるのは……ごめんだ」


口ではそう呟いていた。合理的に考えれば、見捨てるのが正解だ。俺には関係ない。

だが。


『いやあああああっ!』

子供の悲鳴が、俺の足を動かしていた。


「――チッ、しょうがねえな!」

俺は地面を強く蹴った。


ミミズ時代とは比較にならない。風を切るような速度で、レイザー・ハウンドと子供のインプの間に割り込む。


『グルルルッ!?』

獲物を邪魔され、レイザー・ハウンドが敵意むき出しの唸り声を上げる。


俺は、初めての人型の身体での戦闘に、一瞬戸惑う。だが、すぐに順応した。

「試してみるか。竜の力を!」


腹の底に力を込める。ワーム時代にMPを限界まで注ぎ込んで、ようやく閃光弾になったあのスキル。


『《火炎ブレス》!』

ゴオオオオオオッ!!


線香花火ではない。洞窟の入り口を舐め尽くすほどの、本物の炎の奔流が、俺の口から放たれた。


『ギャウンッ!?』

直撃を受けたレイザー・ハウンドが、悲鳴を上げて黒焦げになる。


残りの二体が、俺の力に怯み、一瞬後ずさった。

その隙を見逃さない。


「お前らのコードは、単純すぎるんだよ!」


俺はもう一体に肉薄し、その鋭い爪を、腕一本で受け止めた。

ガキンッ!

《外殻強化》を発動させた腕は、鋼鉄の硬度を誇る。


『ガウッ!?』

攻撃が通じず、驚愕するレイザー・ハウンドの懐に潜り込み、俺は右拳を叩きつけた。


ドゴォッ!

ただのパンチではない。内部に竜の魔力を凝縮させた、渾身の一撃。


レイザー・ハウンドの身体が、くの字に折れ曲がり、絶命して吹き飛んだ。

残るは一体。


恐怖に駆られた最後の生き残りは、俺に背を向けて逃げ出そうとする。

「逃がすかよ」


俺は地面に転がっていた手頃な石を拾い、しなやかな腕を大きくしならせる。ミミズ時代には決してできなかった、圧倒的な力の発露。放たれた石つぶては、銃弾のような速度で逃げる魔物の足に正確に命中し、その骨を砕いた。


悲鳴を上げて転倒したレイザー・ハウンドにとどめを刺そうと歩み寄る。

その時だった。


俺の背後で、助けたはずのインプたちが、恐怖に震えながらも、ひれ伏しているのが見えた。

「な……」


彼らの目には、恐怖と、そしてそれ以上の――畏怖と崇拝の色が浮かんでいた。

特に、集団の中から、二つの視線が俺に強く注がれているのを感じる。


一人は、怯えながらも、その大きな瞳で俺をじっと見つめる、まだ幼い少女のインプ。夜空のような紫のショートヘアからは2本の可愛らしい角が覗いて見える。


もう一人は、白髪と長い髭を蓄え、他のインプたちとは違う、冷静で知的な光を宿した瞳で状況を見極めている、長老らしきインプ。


俺は目の前の魔物のことなど忘れ、呆然と彼らを見つめた。


やがて、長老らしきインプが、震える声で、しかしはっきりと、こう言った。

「おお……我らが祈りは、天に届いた。偉大なるお方よ……どうか、どうか我ら、見捨てられし民を、お導きください!」


その言葉を皮切りに、インプたちが口々に懇願を始める。


「「「どうか、我らをお救いください!」」」

……なんだ、これは。

俺はただ、前世の二の舞になるのが嫌で、体が勝手に動いただけだ。

救世主? 導き手?


冗談じゃない。俺はリーダーの器じゃない。

そう断ろうとした俺の口から出たのは、全く違う言葉だった。



「……まずは、安全な場所を確保する。立て。話はそれからだ」

それは、元システムエンジニアの、最も合理的で、最も面倒な選択だった。

今回もお読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m


今後の展開に向けて、皆さんの応援が何よりの励みになります。


「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ぜひ**【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】、リアクション、そして【感想】**で応援していただけると嬉しいです! 誤字脱字報告も大歓迎です。


皆さんの声が、私の創作活動の大きな原動力になります。


次回更新も頑張りますので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです!

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