第5話:竜の因子、ヒトの形
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それは、俺のミミズ人生、いや、異世界人生そのものを賭けた、狂気のギャンブルだった。
目の前には、小山のようなドラゴンの骸。その足元に転がる、たった一枚の黒曜石のような鱗。
確率99.9%の精神崩壊。
普通の人間なら、いや、まともな思考回路を持つ生き物なら、絶対に関わらない。だが、俺の魂は叫んでいた。この先にこそ、俺が求める「力」があると。前世で味わった無力感を覆す、本当の力が。
「……最悪、死ぬだけだ。人生三度目の正直ってのも、あるかもしれんしな」
軽口を叩いて恐怖を誤魔化し、俺は覚悟を決めた。
ミミズの身体をくねらせ、その巨大な鱗に、おそるおそる口器を触れさせる。
『喰らえ。いや、喰わせてくれ!《悪食》!』
その瞬間、世界から音が消えた。
次の刹那、俺の魂を、情報の津波が襲った。
それは、津波などという生易しいものではない。宇宙の始まり(ビッグバン)が、俺の脳内で起こったかのようだった。
『グ……ァアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
声にならない絶叫が、魂そのものから迸る。
膨大、という言葉では表現できない。無限とも思える情報が、俺という脆弱な回線に、暴力的に流れ込んでくる。まるで、世界中のサーバーから一斉にDDoS攻撃を受けているようだ。
《警告:情報過多により、対象の魂が崩壊を始めます》
《警告:魂の損傷を確認。存在定義が不安定化しています》
赤い警告ウィンドウが視界を埋め尽くす。HPやMPではない。魂そのものが、ギチギチと悲鳴を上げて軋んでいた。このままでは、俺という存在が、OSごとクラッシュする!
「――《解析》!《解析》!《解析》ゥッ!!」
俺は、意識のすべてをスキル発動に注ぎ込んだ。流れ込んでくる情報の濁流を、どうにか処理可能なデータに変換しなければ!
MPが瞬時に蒸発する。だが、構うものか。MPが尽きると、今度は魂そのものを燃料にしているかのように、存在が削られていく感覚があった。それでも、俺は《解析》を止めなかった。
これは、ただの情報の羅列じゃない。
数千年、あるいは数万年を生きたであろう、古代種のドラゴンの記憶そのものだ!
空を飛ぶ翼の感触。
雲を突き抜けた先で浴びる、陽光の温かさ。
大地を揺るがす咆哮の振動。
その一つ一つが、俺という矮小な存在を押し潰そうとしてくる。
「クソッ…! メインスレッドが落ちる…! 処理しきれん…!」
前世の悪夢が蘇る。納期直前、過負荷でサーバーが応答しなくなる、あの絶望的な感覚。
だが、今の俺はあの頃とは違う!
「構造化しろ…! 時系列でソートしろ! キーワードでインデックスを付けろ! 俺の脳を、最強のデータベースに書き換えるんだ!」
極限の集中。死の淵で、俺の思考は異常なほど冴えわたっていた。
その時、脳内に響くシステム音声の質が変わった。
《スキル《解析》の熟練度が最大に達しました》
《スキル《解析》のレベルがLv.4に達しました》
《スキル《解析》の熟練度が最大に達しました》
《スキル《解析》のレベルがLv.5に達しました》
《スキル《解析》の熟練度が最大に達しました》
《スキル《解析》のレベルがLv.6に達しました》
・・・・・・・・・・・・・・
《………スキル《解析》は、固有スキル《コード・アナライザー》へと進化します》
視界がクリアになる。
これまで無秩序な情報の奔流だったものが、まるで適切にコメントアウトされ、インデントがつけられた美しいソースコードのように見え始めた。
情報の流れを「構造」として理解できる!
俺は、流れ込む膨大な記憶の中から、意味のある単語を必死に拾い集めた。
『……星の巡り…』
『…我らの時代は終わる…』
『…この世界の理…なぜ貴様らは…』
断片的な、詩のような言葉。
強烈な喪失感と、世界の根源に対する純粋な怒りだけが、感情の奔流となって俺の中に流れ込む。それ以上の具体的な情報は、あまりに巨大すぎるデータの中に埋もれていて、今の俺にはとても拾いきれない。
ただ、確かな手応えがあった。竜の力が、魂の奥底から俺の全身へと流れ込んでくる。
それは、もはやミミズという小さな器に収まる奔流ではなかった。
ピシッ、と。
俺の身体から、何かが砕ける音がした。
ワームとしての肉体が、内側から溢れ出す力に耐えきれず、光の粒子となって崩壊していく。
「あ…ぁ…」
意識が遠のく。俺は、死ぬのか? いや、違う。これは、死ではない。
――再構築だ。
魂の最も深い場所に刻み込まれていた、俺の原初の記憶。
二つの腕、二本の足、一つの頭。
人間「相馬 透」としての設計図を元に、竜の力が、俺の新しい身体を編み上げていく。
眩い光に包まれ、俺の意識は完全に途切れた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
次に意識が浮上した時、俺は仰向けに倒れていた。ひんやりとした洞窟の地面の感触。
まず感じたのは、違和感だった。
「……手?」
目の前にかざしたのは、ぬめぬめしたミミズの先端ではない。
五本の指がある、白くしなやかな「手」だった。
俺は、ゆっくりと身体を起こす。
洞窟の壁際にある水たまりに、おそるおそる自分の姿を映し出した。
そこにいたのは、見知らぬ青年だった。
前世の俺、相馬 透の面影を残してはいるが、全くの別人だ。陽光を知らないかのような白い肌。夜空を溶かしたような黒髪は、ところどころ竜の鱗のように銀色に輝いている。そして、その瞳は――闇の中で爛々と光る、黄金の竜眼だった。
混乱する俺の目の前に、半透明のウィンドウがポップアップする。
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【種族】ヴルム・ドラコ(竜蟲)
【個体名】ヴァル
【レベル】1
【HP】 150 / 150
【MP】 100 / 100
【攻撃力】80
【防御力】100
【素早さ】60
【魔力】90
スキル:悪食(Lv.3)、麻痺耐性(Lv.2)、酸耐性(Lv.2)、酸液飛ばし(Lv.3)、外殻強化(Lv.3)、火炎耐性(Lv.2)、火炎ブレス(Lv.2)、物理抵抗(Lv.2)、毒耐性(Lv.1)、電撃耐性(Lv.1)、隠密(Lv.1)、言語理解new!
【固有スキル】コード・アナライザーnew!
【固有特性】竜の因子new!
称号:竜の記憶を継ぐ者
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レベルは1にリセットされている。だが、ステータスの初期値が、ワーム時代とは比べ物にならない。
ワーム時代に必死で集めたスキル群は、消えることなく俺の中に残っている。まるで、新しいOSに旧環境のデータを引き継いだかのようだ。
そして、個体名が『トオル ソウマ』から、なぜか『ヴァル』という名に変わっていた。
「俺は……一体、何に……なったんだ?」
呆然と呟く俺の声は、もはやスースーという空気の音ではなく、凛とした青年の声として、静かな洞窟に響き渡った。
今回もお読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m
ここから物語が大きく動き始めます…!
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