第37話:アレス団長の誘い
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カインの爪撃は、速く、そして鋭かった。
爪に纏った魔力が、赤い軌跡を描きながら俺の喉元を狙う。
「チッ…!」
俺は、その一撃を、ギアから変形させた《竜牙の剣》で受け止めた。
キィン!と甲高い金属音が、静かな路地裏に響き渡る。
俺は、彼の攻撃を受け止めた腕が、わずかに痺れているのを感じていた。
(レベル25で、この威力か…!)
だが、俺の敵ではない。
「――そこだ!」
俺は、彼が大振りの一撃を放った、コンマ数秒の隙を見逃さない。
懐に潜り込み、剣の柄で、彼の鳩尾を軽く、しかし正確に打ち据えた。
「ぐ…っ!?」
呼吸が止まり、体勢を崩したカインの首筋に、俺は竜牙の剣の切っ先を突きつける。
「…俺の、負けかよ」
カインは、琥珀色の瞳に、悔しさと、それ以上の諦めを滲ませながら、その場に膝をついた。
俺の実力を悟ったローブの男たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとする。
「逃がすかよ」
俺は《粘糸》スキルを発動。指先から放たれた、目に見えないほど細い糸が、男たちの足を絡め取り、全員を無様に転倒させた。
全ての事が、終わったかのように思えた、その時だった。
「――見事なものだな」
倉庫の入り口から、静かな拍手と共に、騎士団長アレス・ウォーカーが姿を現した。
彼の背後には、完全武装した騎士たちが控えている。
「アレス…団長…!」
カインが、驚愕の声を上げる。どうやらカインとは顔なじみらしい。
アレスは、俺に視線を向けたまま、部下の騎士たちに指示を出した。
「悪党どもを捕縛しろ。カイン、お前もだ。事情は後で聞く。それから、そこの檻にいる子供たちを保護し、教会へ」
「はっ!」
騎士たちが、テキパキと残党とカインを拘束し、怯える子供たちを優しく保護していく。
アレスは、ゆっくりと俺の前に歩み寄ってきた。
「ヴァル、と言ったか。礼を言う。我々も、この『第七の鐘』の尻尾をずっと追っていたのだが、中々掴めなくてな。」
「…いえ、俺はただ、目の前の子供たちを助けたかっただけです」
「ふむ、口だけは謙虚なようだ」
アレスは、ふぅ、と息を吐くと、俺に向かって言った。
「お前の力は本物だ。そのステータスは、S級冒険者にも匹敵するだろう。だが、戦い方が、あまりにも素人すぎる。有り余る力で、相手の攻撃を正面から受け止め、より強い力でねじ伏せているだけだ。宝の持ち腐れ、とは、まさにお前のことだ」
彼の指摘は、的確に俺の核心を突いていた。
俺は、この世界に来て、純粋な「技術」というものを、誰かから教わったことは一度もない。
俺が黙っていると、アレスは、思いもよらない提案をしてきた。
「どうだ、ヴァル。明日から、騎士団の修練場に来ないか? 俺が、お前に『剣』というものの基礎を、一から叩き込んでやる」
「「「「「「なっ…!?」」」」」」
今度は、俺と、拘束されているカインと後ろに控える騎士団が、同時に驚きの声を上げる。
聖王国騎士団長が、どこの馬の骨とも知れない俺に、直々に剣を教える、と。
「なぜ、俺に…?」
「勘だ。お前という男は、このまま野放しにしておくには、あまりに危険で、そして、あまりに面白い。どうせなら、俺の手元で、その才能がどこまで伸びるか、見てみたくなった。それに…」
アレスは、悪戯が成功した子供のように、ニヤリと笑った。
「お前ほどの男が、この国の騎士になれば、これほど心強いことはないからな」
(騎士団の修練場…王城の近くか。中枢に潜り込む、絶好のチャンスだ…!)
俺は、内心の企みを隠し、殊勝な態度で頭を下げた。
「…光栄です。ぜひ、ご指導お願いします」
アレスは、満足げに頷くと、部下たちと共に去っていった。
一人残された俺は、先ほどまで戦っていたカインのことを思い返していた。
(あの赤い魔力を纏う爪…ただの魔力じゃなかった。まさかとは思うが…)
俺は《コード・アナライザー》で、連行されていくカインの背中に、魂の構造解析をかける。
【ルート】
┣【オブジェクト名:カイン(狼獣人)】
┃ ┗【魂の構成要素】
┃ ┗【属性親和性:火(未覚醒)】
「…やっぱりか」
ミアの『闇』、リリアの『風』。そして、こいつの『火』。
俺の周りには、なぜか、あの創世神話に出てくる『理』を持つ者たちが、集まり始めている。
これは、ただの偶然なのか? それとも…。
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