第36話:スラム街の狂犬
いつも読んでくださりありがとうございます!
最新話をお届けします。
楽しんでいただけると嬉しいです。
明日も更新予定です(*^^*)
それでは、どうぞ!
騎士団長アレス・ウォーカーとの、冷や汗の出るような出会いを経て、俺はリリアたちと合流した。
「どうでしたか、ヴァル? 何か分かりましたか?」
昼間、俺は一人で王都の影――スラム街の入り口まで足を運んでいた。
そこは、光の都の美しさが嘘のような、淀んだ空気が支配する場所だった。
だが、昼間のスラムは、ただ貧しい人々が息を潜めて生きているだけで、その奥深くまでは窺い知ることができなかった。本当の顔は、夜に現れるはずだ。
「…いや、とんでもない化け物がいるってことくらいだな」
「そうですか…。こちらも、ギルドで素材の換金と宿を紹介してもらいました。まずは、そこへ向かいましょう」
リリアが案内してくれたのは、『白鹿亭』という、清潔で落ち着いた雰囲気の宿だった。
冒険者御用達というよりは、旅の商人や貴族も利用するような、少し格式の高い場所らしい。
「あなたたちの実力や魔力量を考えれば、これくらいの宿の方が、余計なトラブルに巻き込まれずに済むでしょう」
リリアの気遣いが、ありがたかった。
部屋に入ると、ミアとギアは、キラキラした市場の装飾品や、珍しいお菓子に夢中だ。
リリアは、王都にしかないという、巨大な図書館の場所を調べている。
俺は、そんな和やかな雰囲気の中、一人、意識を研ぎ澄ませていた。
この街の、隅々まで張り巡らされた魔力循環システム。
その流れは、例外なく、街の中心にそびえ立つ、白亜の大聖堂へと向かっている。
(全ての道は、ローマに通ず、か。この街の欺瞞の答えも、あそこにあると考えて間違いないだろうな)
日が暮れ、俺たちは、情報収集も兼ねて夕食のために賑やかな大衆食堂に入った。
そこで、隣のテーブルに座った商人たちの会話が、俺の耳に留まった。
「おい、聞いたか? また、スラムで亜人の子供が攫われたらしいぜ」
「またか…。『第七の鐘』の連中の仕業だろうな。衛兵も騎士団も、あの地区には手を出さねえからな」
「教会の鐘が六回鳴るこの都で、決して鳴ることのない七つ目の鐘、か…。気味が悪いぜ」
『第七の鐘』。
その不吉な名に、俺は心を掠めるのだった。
◇
その夜。
リリアとミアが宿屋で眠りについたのを確認すると、俺はギアを肩に乗せ、音もなく窓から抜け出した。
「マスター、これからどちらへ?」
「決まってるだろ。昼間見た、あの影の街の、本当の姿を見にさ」
俺は《隠密》スキルで気配を完全に消し、建物の屋根から屋根へと、まるで黒猫のように飛び移っていく。
目指すは、スラム街の中心部。
酒場で聞いた噂によれば、『第七の鐘』と呼ばれる闇ギルドが、この一帯を牛耳っているらしい。
夜のスラムは、昼間とは全く違う貌を見せていた。
路地裏では、違法な薬物の取引が行われ、薄汚れた格好の男たちが、博打に興じている。
そして、時折、屈強な見張りが、鋭い視線で通りを監視していた。
俺は、彼らの会話に聞き耳を立て、情報を集める。
「おい、今日の『荷』はもう届いたのか?」
「ああ。西の倉庫に運ばれたらしいぜ。また、亜人のガキばかりだそうだ」
「ハッ、教会の旦那方も、物好きだよな。あんなガキどもを集めて、何に使うんだか」
(荷…? 亜人の子供…?)
きな臭い会話に、俺は眉をひそめた。
人身売買か、あるいは、もっと別の何かか。
俺は、彼らが話していた「西の倉庫」へと、慎重に移動を開始した。
倉庫街は、不気味なほど静まり返っていた。
だが、ひときわ大きな倉庫の一つだけ、中から微かな光と、複数の気配が漏れ出ている。
俺は、倉庫の屋根にある天窓から、中の様子を窺った。
倉庫の中には、いくつもの檻が並べられ、そこには、怯えた表情の、様々な種族の亜人の子供たちが閉じ込められていた。
そして、その檻の前で、黒いローブを着た男たちが、何かの品定めをしている。
(これが、『第七の鐘』の仕事か…!)
俺は、肩の上のギアに、小さな声で囁いた。
「ギア、ここからは別行動だ。『第七の鐘』と、教会の繋がりを調べろ。どんな些細な情報でもいい。奴らの金の流れ、人の流れ…全てだ」
「了解しました、マスター。情報収集に向かいます」
◇
俺が、潜入の機会を窺っていると、倉庫の扉が開き、一人の少年が入ってきた。
歳の頃は、15、6といったところか。
着古した、サイズの合わない革のベスト。その顔には、泥と、そして、このスラムで生き抜くための、年不相応な険しさが浮かんでいる。
しかし、その琥珀色の瞳の奥には、隠しきれない優しさと、悲しみの色が揺らめいていた。
狼の耳と、ふさふさとした尻尾。狼の獣人だ。
「おい、カイン! お前、遅かったじゃねえか!」
ローブの男の一人が、少年に向かって怒鳴る。
「…すまない。妹の様子を見てきた」
「チッ、あの病人のことなんざ、どうでもいいだろうが。それより、見張りはどうした? 今日は大事な『商品』の検分なんだ。ネズミ一匹、入れるんじゃねえぞ」
「…分かってる」
カインと呼ばれた少年は、悔しそうに唇を噛むと、何も言い返さずに、倉庫の入り口で見張りに立った。
彼は、この非道な行いに加担している。だが、その瞳は、明らかに苦痛に満ちていた。
(病気の妹…? そのために、こんな仕事をしているのか…?)
俺が、カインという少年に気を取られていた、その瞬間だった。
「――そこにいるのは、誰だ」
カインが、俺が潜む屋根の天窓を、鋭い琥珀色の瞳で、正確に睨みつけてきた。
しまった。気配は完全に消していたはずだ。
(いや、違う。こいつ、俺の魔力に反応したんじゃない。獣人ならではの、嗅覚か、あるいは聴覚か…!)
俺は、隠れている意味がないと悟り、音もなく倉庫の中に飛び降りた。
突然現れた俺に、黒いローブの男たちが、一斉に武器を構える。
「てめえ、何者だ…!」
「…俺は、ここの『荷』を、解放しに来た」
俺がそう言うと、ローブの男たちは鼻で笑った。
「ハッ、英雄気取りか? やっちまえ、カイン!」
カインは、一瞬、躊躇を見せた。
だが、すぐにその表情を消し、鋭い爪を構えて俺の前に立ちはだかった。
「…悪いが、仕事なんでな。ここを通すわけにはいかねえ」
その全身から放たれる闘気は、ただの使いっ走りとは思えない、研ぎ澄まされた刃物のような鋭さがあった。
《コード・アナライザー》が、その正体を弾き出す。
【個体名:カイン】【種族:狼獣人】
【レベル:25】【称号:スラムの狂犬】
「どけ。お前と戦う理由はない」
「俺には、あるぜ。あんたを殺せば、妹の薬が手に入るんでな…!」
次の瞬間、カインは、獣そのもののような、四つ足に近い低い姿勢から、爆発的な速度で俺に襲いかかってきた。
その爪には、赤い魔力が炎のように揺らめいている。
王都の夜の闇の中、俺たちの戦いの火蓋が、静かに切って落とされた。
お読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m
今後の展開に向けて、皆さまの応援が何よりの励みになります(>_<)
少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ぜひ**【ブックマーク】や【評価(★〜)】、【リアクション】、そして【感想】**で応援していただけると、作者が泣いて喜びます(そして執筆が捗ります)(#^.^#)
誤字脱字報告も大歓迎です。
皆さまの声が、皆さまが考えてる100万倍、私の創作活動の大きな原動力になります。
次回更新も頑張りますので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです(*^ω^*)




