第34話:ギアの謎
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王都への旅が始まって、数日が経過した。
リリアが手配してくれた馬車のおかげで、旅は驚くほど快適だった。
街道はきれいに整備され、危険な魔物が出ることもほとんどない。
俺たちは、野営をしながら、ゆっくりと王都へと向かっていた。
だが、平穏なだけでは、強くなれない。
俺たちは、街道を少し外れた森や平原に立ち寄り、積極的に魔物との戦闘を繰り返していた。
目的は、もちろん、みんなのレベルアップとスキルハントだ。
「マスター、前方300メートルに『ギガント・マンティス』の反応。レベル18。スキル《隠密》と、両腕の鎌による物理攻撃が主体です」
「よし。そいつは、俺の《隠密》のレベルを上げるのにちょうどいい。素材の価値は低いから、丸ごと喰っちまおう」
俺は、ギアの助言通り、「スキル情報が欲しい魔物は丸ごと《悪食》し、金になりそうな素材を持つ魔物は部分的に喰らう」という使い分けを、完全にマスターしていた。
戦闘においても、パーティとしての連携は日に日に洗練されていく。
「リリア、上空から牽制を!」
「ええ、任せて! 《ウインドカッター》!」
リリアが放つ風の刃が、魔物の注意を引きつける。
「ミア、足元を頼む!」
「うん! 《シャドウ・ウィップ》!」
ミアの影の鞭が、魔物の足を絡め取り、動きを封じる。
そして、俺が《竜牙の剣》で、とどめを刺す。
もはや、このあたりの魔物は、俺たちの敵ではなかった。
その日の夜。
俺たちは、焚き火を囲んで夕食をとっていた。
パチパチと薪がはぜる音だけが響く、穏やかな時間。
リリアが、ずっと抱いていたのであろう疑問を、ふと口にした。
「ねえ、ギア」
彼女は、俺の肩の上で、今日の戦闘データを整理しているギアに、真剣な眼差しを向けた。
「あなたはいったい何者なの? その知識や分析能力は、どう見てもこの時代の技術とは思えない。まるで、私たちの伝承に聞く、失われた古代文明のようだわ」
ギアは、水晶の単眼をリリアに向けると、カチリ、と歯車を鳴らした。
『不明です。 私の記録には、マスターの魔力によって起動する以前のデータは存在しません。自己の設計思想、製造元、本来の目的…全てが初期化されています』
「俺の《コード・アナライザー》でも調べてみたんだがな」
俺も、焚き火に薪をくべながら補足する。
「こいつの根幹部分…コアプログラムには、強固なプロテクトがかかっていて、解析できないんだ。分かるのは、こいつが俺を『マスター』と認識し、サポートするように設計されていることだけだ」
「そう…」
リリアは、何かを納得したように、しかし、その瞳の奥の探究心は、さらに強く燃え上がっているようだった。
ギアの謎は、深まるばかりだ。
「逆に、俺からも一つ質問いいか、リリア」
話の流れで、今度は俺が問いかける。
「君は、自分の『適性』を知っているか?」
「適性? ええ、もちろん。私はエルフの中でも、特に風の魔力との親和性が高いわ。だから、ずっと風魔法を専門に研究してきた」
「その先を、考えたことは?」
「え…?」
俺は、彼女の魂が持つ、そのさらに奥深くにある可能性を、告げることにした。
《コード・アナライザー》で見えた、彼女の「未習得スキルツリー」。
「君は、風を『刃』として、ただ外に飛ばすだけじゃない。その風を、『鎧』としてその身に纏い、絶対的な回避能力を得たり…あるいは、風の流れそのものに『乗って』、瞬間移動に近いほどの高速移動をしたりする才能があるはずだ」
俺は、焚き火の炎を見つめながら言う。
「今はまだ、その感覚が分からないかもしれない。だが、君の魂には、間違いなくその力が眠っている。その可能性を信じて、一度、魔力を練ってみるといい」
俺の言葉に、リリアは、息をのんだ。
A級冒険者として、森の賢者として、誰よりも風魔法を極めてきた自負があった。だが、ヴァルが語るビジョンは、彼女の想像を遥かに超える、新しい地平線だった。
自分の才能の、さらに奥にある可能性。
それを、この出会って間もない青年は、いとも簡単に見抜いてみせたのだ。
彼女は、ヴァルへの畏敬と、そしてそれ以上の、胸の奥で名前の付けられない、ふわりと揺れる気配を感じていた。
それから、数週間の旅が過ぎた。
俺たちは、いくつもの街を通り過ぎ、いくつもの夜を越えた。
そして、ついに、馬車の窓から、目的地の姿が見えてきた。
地平線の向こうに霞んで見える、巨大な白い城壁。そして、その中央にそびえ立つ、天を突くかのような、白亜の大聖堂。
「あれが…聖王国の王都『ルミナス』よ…」
リリアが、感慨深げに呟く。
そこは、天界信仰の中心地であり、この世界の欺瞞が最も深く根付く場所。
遠くからでも分かるほどに白く、美しく、そして神々しいまでのその城壁は、まるで、巨大な墓標のように、俺の目には映っていた。
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