第27話:初めての買い物と守りたい日常
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初めて自分の力で大金を稼いだ翌日、俺たちは意気揚々とアルトハイムの市場へと繰り出していた。
石畳の道には露店がずらりと並び、威勢の良い呼び込みの声、香ばしい肉の焼ける匂い、そして人々の賑やかな笑い声が、活気のある協奏曲のように響き渡っている。
「わぁ…! ヴァル様、あれは何? 赤くて、つやつやしてる!」
「リンゴ飴だ。食ってみるか?」
「うん!」
「マスター、糖分の過剰摂取は…」
「ギアは黙ってろ」
ミアは、初めて見るもの全てに目を輝かせ、俺のローブの裾を引っ張りながら、あちこちへと駆け回る。
屋台で買った串焼きを頬張り、吟遊詩人の奏でる音楽に耳を澄ませ、お喋りなインコと会話(?)を試みる。その一つ一つが、彼女にとっては生まれて初めての、宝物のような体験なのだろう。俺は、そんなミアの姿を、ただ微笑ましく見守っていた。
「さて、と。腹ごしらえも済んだし、次は本命だ」
俺は、市場の一角でひときわ武骨な雰囲気を放つ店へと足を向けた。
『頑固ドワーフの鍛冶工房』。
なんとも分かりやすい看板が掲げられた、この街一番と評判の武具屋だ。
「へい、いらっしゃい。何を探してる」
店の中から現れたのは、看板に偽りなし、見事な髭を蓄えたドワーフの親父さんだった。
「防具を探している。俺と、こいつの分をな」
「いつまでもローブ一枚じゃ、冒険者として格好がつかないからな」という俺の言葉に、親父さんは腕を組み、俺の全身を品定めするように眺めた。
「ふむ。お前さん、見た目よりガタイがいいな。動きやすさ重視か? それとも防御力か?」
「動きやすさ重視で、できるだけ頑丈なやつを頼む」
俺は、いくつかの革鎧を試着し、最終的に、黒く染められた硬質レザーに、要所だけ鋼鉄のプレートで補強された、軽量かつ頑丈な一着を選んだ。
「よし、次はミアの番だ」
「えっ、わたしも?」
「当たり前だろ。お前だって、立派な冒険者なんだからな」
ミアは、最初は「いらないよ」と遠慮していたが、俺が真剣な顔で言うと、少し嬉しそうに頷いた。
彼女のために選んだのは、柔らかい革で作られた、深い森の色をした小さなベストと、動きやすいショートパンツ。そして、彼女の手に馴染むように作られた、護身用の小さな短剣だ。
新しい服に着替えたミアは、まるで森の妖精のようで、あまりの可愛らしさに、俺は思わず言葉を失った。
「嬢ちゃん、そいつはただのお守りじゃねえぞ」
ドワーフの親父が、ダガーを手に取るミアに、ぶっきらぼうに、しかし優しい目で言った。
「そいつは、お前さんの身を守るための『牙』だ。使い方を、そこの旦那にしっかり教えてもらいな」
「…はい!」
ミアは、小さな宝物を扱うように、短剣をぎゅっと握りしめた。
新しい装備を身につけ、街を歩いていると、以前にも増して、様々な人から声をかけられるようになった。
宿屋『木漏れ日の宿』の女将さんからは、「あらまあ、二人とも素敵じゃない! とってもお似合いよ!」と褒められ、おまけだと言って焼きたてのパイを持たせてくれた。
ギルドに行けば、あのケインが、俺たちの姿を見て目を丸くする。
「なんだよその装備! ずいぶん様になってきたじゃねえか! おいヴァルさん、体の使い方をまた教えてくれよ」
「またかよ」
彼は、すっかり俺に懐いている。
街の広場では、花売りの少女たちが、ミアの周りに集まってきた。
「わあ、お姉ちゃん、可愛い! その髪飾り、どこで買ったの?」
子供たちが指差すのは、ミアが《幻惑擬態》で隠している角だ。ミアは、魔族であることがバレないかと一瞬身を固くしたが、子供たちの純粋な眼差しに、やがておずおずと微笑み返した。
魔界ではありえなかった、穏やかで、温かい交流。
その日一日を終え、俺たちは宿屋の部屋の窓から、夕日に染まるアルトハイムの街並みを眺めていた。
眼下には、家路につく人々の賑わいと、家々から立ち上る夕食の煙。
それは、俺が前世で決して手に入れることのできなかった、「帰る場所」の光景そのものだった。
「…悪くないな、こういうのも」
俺は、誰に言うでもなく、そう呟いた。
隣では、ミアが今日買ったばかりの短剣を、嬉しそうに磨いている。その頭の上では、ギアが静かに歯車を回し、今日の出来事を記録しているようだった。
この温かくて、穏やかで、少し騒がしい日常。
俺は、心の中でふと思う。
この日常が続けばいいな。
その穏やかな決意が、数日後に訪れる街の危機に、俺を迷いなく立ち向かわせることになる。
だが、今の俺たちは、ただ、このかけがえのない時間の温かさに、浸っていた。
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