第26話:お金は大事だよ
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規格外のCランク冒険者として登録されたはいいものの、俺たちは、いきなり現実的な問題に直面していた。
そう、金がない。
魔界では、必要なものは全て自給自足か、力で奪うかのどちらかだった。貨幣経済などという、高度な文明は少なくとも俺の居た場所には存在しなかったのだ。
「リリア、すまないが…少し、金を貸してくれないか。いや、すぐに返す。絶対に返すから!」
俺は、前世の新人時代のように、頭を下げてリリアに頼み込んだ。今の俺たちの全財産は、ポケットに入っていたよく分からない石ころだけだ。
リリアは、呆れたような、しかし面白そうな顔で微笑んだ。
「ふふ、構いませんよ。あなたたちには、色々と興味がありますから。先行投資、というところでしょうか」
彼女は、気前よく銀貨数枚を俺に手渡してくれた。
「この世界の通貨は、安い方から銅貨、銀貨、金貨、白金貨となっています。銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚が、おおよその相場ですね」
「なるほど…」
「ちなみに、この街の平均的な宿屋なら、一泊二食付きで銀貨1枚。銅貨1枚あれば、屋台で串焼きが一本買えるくらいでしょうか」
銀貨1枚で、ようやく一日の生活が保障される。リリアの善意に、いつまでも甘えているわけにはいかない。
俺たちは、彼女が手配してくれた宿屋『木漏れ日の宿』に荷物(と言っても、全てミアの《シャドウ・ポケット》の中だが)を置くと、早速、金策に乗り出すことにした。
「マスター。最も効率的な資金獲得方法は、高ランクの依頼を受注することです。推奨します」肩の上で、ギアが冷静に分析する。
「いや、いきなり高ランク依頼を受けて、また目立つのは避けたい。もっと、こう、地味で、確実で、儲かる方法はないのか…」
俺は、ギルドの依頼ボードを眺めながら、思考を巡らせる。
薬草採集、素材収集、魔物討伐…。どれも単価が安い。Cランクの俺たちが、これで宿代を稼ぎ続けるのは骨が折れそうだ。
その時、俺の目に、一枚の古びた依頼書が留まった。
「依頼内容:『迷いの森』南部の『銀粘鉱』の採掘。報酬:応相談。備考:鉱脈の発見が困難なため、長年達成者なし」
銀粘鉱。それは、武具のつなぎや、魔法道具の素材として、高値で取引される希少な鉱石だという。
普通の冒険者なら、見向きもしないだろう。だが、俺には、他の誰にもない切り札があった。
「――これだ」
俺は、その依頼書を剥がすと、カウンターのエマさんの元へ持っていった。
翌日。俺たちは、リリアに案内され、森の南部にあるという岩場に来ていた。
「本当に、この依頼を受けるのですか? 銀粘鉱の鉱脈は、地中深くに、しかも不規則に点在しているため、見つけるのは至難の業ですよ」
リリアが、心配そうに言う。
「まあ、見ててくれ」
俺は、目を閉じ、《魔力感知》と《コード・アナライザー》を同時に、最大範囲で発動させた。
俺の頭の中に、この一帯の地中構造が、3Dのワイヤーフレームとなって構築されていく。
土、岩、地下水脈、そして、通常の鉱石とは明らかに違う、特殊な魔力パターンを持つ物質の反応。
「…あった。ここから真下に15メートル。直径2メートルほどの鉱脈がある」
俺が、地面の一点を指差して言うと、リリアは信じられないといった顔で目を見開いた。
「なっ…!? まるで、地面の中を透視しているかのよう…それが、あなたの力なのですか?」
俺はミアに指示し、その地点の土を《シャドウ・ウィップ》で器用に掘り起こさせていく。
そして、数時間後。
俺たちが掘り進めた穴の底から、鈍い銀色に輝く、粘土状の鉱石が顔を出した。
銀粘鉱だ。
ギルドに持ち帰った銀粘鉱は、鑑定の結果、最高品質のものであることが判明し、俺たちは報酬として金貨5枚という大金を手に入れた。
長年誰も達成できなかった依頼を、半日で終わらせてしまった俺たちに、ダリウスさんは「君は、本当に面白い男だな…」と、呆れたように笑っていた。
「やったね、ヴァル様! これで宿代、いっぱい払える!」
「ああ。しばらくは、金の心配はしなくて済みそうだな」
俺たちは、ギルドの換金所で、金貨の一部を銀貨と銅貨に両替してもらった。
初めて自分の力で稼いだ、ずっしりと重い貨幣の感触。それは、俺に確かな達成感と、この世界で生きていくことへの、ささやかな自信を与えてくれた。
「さて、と」
俺は、ミアと、肩の上のギアに向き直る。
「まずは、腹ごしらえだ。それから、明日は少し、街を見て回ろうじゃないか」
金も手に入った。今夜は、宿屋の女将さん自慢のビーフシチューが待っている。
こうして、俺たちは目先の生活資金を確保した。
初めて自分の力で稼いだ金で泊まる宿のベッドは、いつもより少しだけ、暖かく感じられた。
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