第24話:模擬戦
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「…君がヴァル君か。エマから話は聞いた」
エマさんから呼び出しを受け、ギルドマスターのダリウスが階段から降りてきた。
ダリウスは、顔に大きな傷跡を持つ、いかにも歴戦の猛者といった雰囲気の壮年の男性だった
ダリウスは、俺の全身を値踏みするように眺めると、その鋭い眼光を少しだけ和らげた。
「ふむ。魔力量だけなら、S級の冒険者にも匹敵するかもしれん。だが、冒険者というのは、それだけで務まる仕事ではない。実戦での立ち回り、判断力、そして何より、その力を制御できるか。それを見させてもらうぞ。ついて来い」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
訓練場の隅では、ダリウスがリリアに小声で話しかけていた。
「おい、リリア。あの小僧、何者だ。ただ立っているだけなのに、まるで古龍の前にいるかのような圧を感じるぞ。儂の長年の勘が、関わってはいけない類いの化け物だと告げている…」
「…ええ。私も、同感です。ギルドマスター」
彼らのひそひそ話など知る由もない俺は、これから始まる試験に、別の意味で気を引き締めていた。
「さて、試験の内容だが…この中から、腕に覚えのある者に、君の相手をしてもらう。それでいいな?」
ダリウスさんの言葉に、見物していた冒険者たちの中から、一人の青年が自信満々に歩み出てきた。
軽装の革鎧に、腰には立派な長剣を差している。少し軽薄そうだが、その立ち姿には隙がない。
「ギルドマスター、俺にやらせてください。最近、腕がなまってたんでね。ちょうどいい運動になりそうだ」
青年は、俺に向かって挑発的に笑いかける。「俺はケイン。Cランクパーティ『紅蓮の牙』のリーダーだ。あんたがどれほどの魔力を持っていようが、実戦じゃ、俺の剣の方が強いぜ?」
俺は、ケインと名乗った青年に向き直った。
《コード・アナライザー》で、彼のステータスを解析する。
【個体名:ケイン】【レベル:22】
【HP】480 【MP】150 【攻撃力】350 【防御力】320…
(レベル22でこのステータスか…。俺が同じレベルだった頃より、かなり低いな。森で戦ったトレントの方がよっぽど上だ)
俺は一瞬、拍子抜けする。だが、すぐに思考を切り替えた。
(待てよ。だとしたら、なぜこの世界はこれほど平和で、文明が発達している? 魔界のように、常に強大な魔物の脅威に晒されていないのか? あの森だってそばにあるじゃないか…いや、違う。きっと、人間の強さの本質は、序盤のステータスじゃない)
俺は、目の前のケインと、彼を応援する他の冒険者たちを見渡す。
(もしかしたら、人間という種族は、序盤の成長は遅いが、レベルが上がるにつれて、ステータスが二次関数的に、爆発的に上昇するタイプなのかもしれない。Lv.20台でこの程度でも、Lv.50や60になる頃には、俺のような竜の因子を持つ種族すら、あっさりと追い抜いていく…。だから、この街の実力者であるケインも『まだCランク』に過ぎないんだ)
そう考えると、全ての辻褄が合う。
(だとしたら、なおさらヤバい。今の俺の実力に驕って、高レベルの人間を甘く見たら、一瞬で捻り潰されるぞ…!)
俺が勝手な分析で警戒レベルを最高に引き上げている頃。
訓練場の隅では、リリアの隣に立つミアが、自分の頭の上に乗っている小さなオートマタ――ギアに、心配そうに話しかけていた。
「ねえ、ギアちゃん。ヴァル様、なんだかすごく真剣な顔してる…。あの人、そんなに強いの?」
ギアは、水晶の単眼をヴァルに向けたまま、左半分の歯車をカチリと鳴らした。
「解析。マスターの心拍数、魔力の流れ、共に上昇中。対象『ケイン』を、極めて危険な存在と誤認している可能性、95%」
「ごにん?」
ミアが不思議そうに首を傾げると、ギアは続ける。
「マスターは、この世界の平均的な個体の戦闘能力に関するデータが著しく欠落しています。そのため、現在、過剰な警戒プロトコルが発動中。…要するに、盛大な勘違いをしています」
「か、かんちがい…」
「ええ。マスターの勝利確率は、現時点でも99.9%以上と算出されます。むしろ、懸念すべきは、マスターが力を制御できず、相手を再起不能にしないか、という点です」
その淡々とした分析を聞いていたリリアは、思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
(なるほど…彼は、自分の強さを全く理解していないのね)
(…ん?というか誰が話してるのかしら??)
そんな規格外の男の、これから始まる「本気の模擬戦」に、リリアは期待と少しの不安を抱きながら、声の出どころを探した。
その時、ギルドマスター、ダリウスの声が響いた。
「模擬戦だ。互いに、訓練用の武器を使え。殺しはなし、降参か、戦闘不能になった時点で終了だ。はじめ!」
ダリウスの合図で、俺とケインは、刃を潰した訓練用の剣を手に、距離を取る。
「いくぜ、新人!」
ケインが、雄叫びと共に、目にも留まらぬ速さで踏み込んできた。
速い。確かに、洗練された動きだ。
だが。
(――遅い)
今の俺の目には、彼の動きが、まるでスローモーションのように見えていた。
レベル50を超えた俺の身体能力は、彼の比ではない。
俺は、彼の剣を避けることすらせず、ただ一歩、横にずれた。
ケインの剣が、空を切る。
「なっ!?」
体勢を崩したケインの背後に、俺は音もなく回り込んでいた。
(手加減しないと、殺してしまうな…)
俺は、前世で培ったサラリーマン処世術を思い出す。
(そうだ、こういう時は、相手の顔を立てつつ、実力差を分からせるのが一番だ)
俺は、訓練用の剣の『峰』の部分を、ケインの首筋に、トン、と軽く当てた。
「――チェックメイト、かな?」
その瞬間、ケインの全身が、彫像のようにピタリと固まった。
彼の額から、滝のような汗が流れ落ちる。
何が起きたのか、理解できていないのだろう。彼からすれば、俺は一瞬で消え、気づいた時には、自分の命は完全に奪われていた、という状況なのだから。
訓練場が、静まり返る。
先ほどまでヤジを飛ばしていた冒険者たちも、目の前で起きた、あまりにも一方的な決着に、言葉を失っていた。
「…ま、参りました…」
ケインが、震える声で降参を告げ、その場にがっくりと膝をついた。
俺は、彼に手を差し伸べながら、しまった、と内心で頭を抱えた。
(やべえ、またやっちまった…! ちょっとだけ実力を見せるつもりが、これじゃ、ただのイキった新人じゃないか!)
「…今の動き、一体、何をしたのですか…?」
リリアが、信じられないものを見る目で、俺に問いかける。
ギルドマスターのダリウスも、その厳つい顔から表情を消し、ただ黙って俺を見つめていた。
俺は、彼らの視線から逃れるように、へらりと笑うことしかできない。
「いやー、運が良かっただけですよ。ははは…」
その乾いた笑い声だけが、静まり返った訓練場に、虚しく響き渡っていた。
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