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【幕間②】深淵の魔女への二つの報告

いつも読んでくださりありがとうございます!


最新話をお届けします。

楽しんでいただけると嬉しいです。


明日も更新予定です(*^^*)


それでは、どうぞ!




(視点:第三者)


魔界の勢力図において、いまだどの陣営にも属さず、しかし誰もがその存在を無視できない中立地帯が存在する。


天を衝くほどの巨大な書架が、それ自体で一つの都市のように連なる場所――『識者の塔』。


その最上階は、壁一面が巨大なステンドグラスとなっており、二つの月の妖しい光が、床に敷き詰められた緻密な魔法陣を静かに照らし出していた。


広間の中央、無数の浮遊する書物に囲まれ、一人の魔女が静かに魔術の研究に没頭している。

艶やかな漆黒の長髪は、まるで夜そのものを編み込んだかのよう。全てを見通すかのような紫の瞳は、古代文字で綴られた書物の一節を、ゆっくりと追っていた。


彼女こそ、現魔界で最も賢明にして、最も謎多き魔王候補――『深淵の魔女』アスタロト。彼女の知識と魔術は、一国を滅ぼす軍勢にも匹敵すると噂されている。


その静寂を破ることなく、アスタロトの背後の影が、音もなく揺らめき、一つの人型を形作った。


身に纏った黒鋼の鎧は所々が破損し、その佇まいには確かな疲労の色が見える。しかし、その背筋は一本の槍のように真っ直ぐで、揺るぎない忠誠心だけが、彼の全身から滲み出ていた。


彼女の最も信頼する側近、ゼノンである。


「…戻ったか、ゼノン」

アスタロトは、書物から目を離さぬまま、静かに言った。その声は、まるで古楽器の調べのように、穏やかで深みがある。


「まずは、その傷を癒すがいい。お前の消耗は、私にとっても損失だ」


「お心遣い、感謝いたします、アスタロト様。ですが、その前に、ご報告を」

ゼノンは、片膝をつき、深く頭を垂れた。


彼はまず、第一の報告を始めた。


北部戦線において、敵対勢力である『死王』の軍勢と衝突し、敗走したこと。部隊は壊滅し、多くの同胞を失ったこと。そして、死王が用いる、兵士を思考停止の狂戦士へと変える術の危険性について。


その報告は、淡々と、しかし確かな悔しさを滲ませていた。


アスタロトは、冷静に報告を聞き終えると、読んでいた書物をぱたりと閉じた。

「死王…か。あの男のやり方は、力と思考停止の産物。恐怖で支配された軍勢は、短期的な破壊力こそあれ、応用が利かぬ。いずれ、その硬直した思考が自らの首を絞めるだろう」


彼女は立ち上がり、巨大なステンドグラスの前に立つ。

「だが、その前に、我らがその暴力に潰されるのは御免だな。奴の勢いは、もはや看過できぬレベルに達している」


その紫の瞳が、ゼノンを捉える。

「苦労をかけた。だが、お前が無事に戻ったことこそが、最大の戦果だ」

「…面目次第もございません」


「それで? 報告はそれだけか?」

アスタロトの問いに、ゼノンはわずかに顔を上げた。


「いえ。今回の敗走の道中、一つ、極めて興味深い『特異点』を発見いたしました」

ゼノンは、本題に入った。


辺境の荒野で、瀕死の状態で倒れていた自分を救った、奇妙な二人組について。


不思議なチカラを宿す、出自不明の男。そして、彼に絶対の信頼を寄せる、インプの少女。


彼は、彼らが築き上げていた『バグズ・ネスト』の存在を、見たままに、詳細に語り始めた。


「その男は、自らを『ヴァル』と名乗っておりました。彼が持つ力は、我らの知る魔術体系とは全く異なる、異質なものでした。まるで、世界のことわりそのものを読み解き、書き換えるかのような…」


ゼノンは、ヴァルがインプたちに適性を診断し、役割を与え、知恵と協力で不思議なコミュニティを形成していたことを説明する。


「彼は、弱者であるインプを力で支配するのではありません。それぞれの役割と、生きる誇りを与え、一つの強固な共同体として機能させておりました。あれは、我らが知る魔界の常識の外にある統治方法です」


ゼノンは、言葉を切ると、静かに、しかし確信を込めて続けた。


「彼は、この魔界の覇権争いという“ゲーム”の盤上にいない、全く別のルールで動くプレイヤーだと感じました。」


ゼノンの報告に、アスタロトは初めて、その表情に強い興味の色を浮かべた。

「世界のことわりそのものを読み解き、書き換えるかのような未知の力…。それに弱者に役割を与え、コミュニティを築く、か」


彼女は、ゼノンが見たという光景を、自らの思考の中で再構築する。それは、彼女が理想とする世界の、あまりにも未熟で、しかし、だからこそ眩しいほどの可能性を秘めた雛形のように思えた。


アスタロトは、再びステンドグラスの外、二つの月が浮かぶ夜空へと視線を移す。


彼女は、自身の膨大な知識と、星々の運行を読む魔術で、未来の可能性を手繰り寄せた。


そこに見えたのは、ヴァルという存在が、この魔界の運命だけでなく、いずれこの世界すべてをも揺るがす『嵐の目』となる、曖昧だが強烈なビジョンだった。


「…面白い」

アスタロトは、その唇に、妖艶な笑みを浮かべた。


「実に、面白い。死王など、所詮はこの盤上の駒の一つに過ぎぬ。だが、その『ヴァル』という男は…駒どころか、盤そのものをひっくり返すやもしれんな」


彼女は、玉座に戻ると、ゼノンに命令を下した。

「ゼノン。死王への備えは続ける。だが、それとは別に、その男『ヴァル』の動向を監視せよ。敵対はするな。接触も避けよ。ただ、彼が何者で、何を成そうとしているのか、その全てを見届けよ。彼は、我々の、いや、この世界の切り札になるやもしれぬ…」


「御意に」


ゼノンは深く頭を下げると、その姿を再び影の中へと溶かした。

後に残されたアスタロトは、再び書物に目を落とす。だが、その意識は、もはや古代の文字にはなかった。


「竜の因子を持つ、異世界の魂…か。ふふ、創造神も、なかなか面白い『バグ』を遺してくれたものだ」


魔界の覇権を巡る戦乱の、さらにその水面下で。

誰も知らない、もう一つの、大きな物語の歯車が、静かに、そして確かに回り始めていた。



今回もお読みいただき、

本当にありがとうございましたm(_ _)m


今後の展開に向けて、

皆さんの応援が、何よりの励みになります。


「面白かった!」

「続きが気になる!」と思っていただけたら、


ぜひ、

【ブックマーク】や【評価(★〜)】、

【リアクション】、そして【感想】

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誤字脱字報告も大歓迎です。


皆さんの声が、

私の創作活動の本当に大きな原動力になります。


次回更新も頑張りますので、

引き続きお付き合いいただけますと幸いです!

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