第1話:最弱のサバイバル術
2話目もお読みくださり、本当にありがとうございます。
この物語の根底にあるテーマは
「不完全で未完成こそ、可能性が溢れてる」です。
ミミズだけど、壮大です笑
完璧で完成されてるモノなんてつまんねーです。
不完全で未完成な主人公( やこの物語← )に、可能性を感じて頂ければ幸いです(^∇^)
最弱。
それは、今の俺――相馬 透の現状を表す言葉として、これ以上ないほどピッタリだった。
レベル1、攻撃力3、防御力5。
スキルはいくつかあるものの、この貧弱なミミズボディでは、そこらへんのトカゲモドキに「あっ、ミミズだ」と踏まれただけでゲームオーバーだろう。人生二度目の即死はごめんだ。
「……ん? MP? しかも減ってる?」
MPなんて項目、今まで意識していなかった。さっき《悪食》と《解析》を立て続けに使ったからか?
なるほど、スキルはタダじゃない、と。この世界のシステムも、きっちり利用料(MP)を徴収してくるらしい。世知辛いのはどこも同じか。
「……はぁ」
ため息は、スースーという情けない空気の漏れる音にしかならない。
絶望的なステータスとは裏腹に、腹は減る。いや、このミミズの身体が「飯!飯!」と本能的に蠢いている。
生きるためには、食わねばならんのだ。前世で味わい尽くした無力感に、ここで再び屈するわけにはいかない!
俺は決意を固め、ぬるり、ぬるりと前進を始めた。
目標はただ一つ、安全な食料の確保。武器は、前世で培った石橋を叩いて粉々にするレベルの慎重さと、この世界で与えられたポンコツステータスとスキル。
『……《解析》』
意識を集中すると、視界に入るもの全てに半透明のウィンドウが重なって見える。
これは便利だ。
まるで、他人の書いたスパゲッティコードの仕様書をカンニングしている感覚に近い。
《対象:粘菌『ルミネラ・モドキ』…栄養価皆無。非推奨》
《対象:石ころ…摂食不可》
《対象:キノコ『アシッド・キャップ』…危険度:高。触れたら98%の確率で溶解。即時離脱推奨》
「ダメなものばっかりじゃないか……」
まさにリジェクト・ゾーン。棄却された者たちのゴミ捨て場、いや、産業廃棄物処理場だ。俺もその一員だが。
数十分ほど、周囲のモンスターにビクビクしながら探索を続けた頃。一つの植物が目に留まった。黒紫色の、ねじねじした奇妙な草だ。
『《解析》』
《対象:植物『スパイラル・ウィード』》
《表示:微弱な麻痺毒を含むが、生命活動を維持するのに最低限の栄養素アリ。推奨アクション:注意して摂食》
「……毒、か。だが、初めて『摂食』の文字が!」
しかし、情報を100%信用してはいけない。それが元システムエンジニアの鉄則だ。「注意して摂食」なんて曖昧な指示、クライアントに言われたら「具体的にどう注意すればいいんですか!?」って1時間は問い詰めるレベルだぞ。
「ふっふっふ。だが、俺にだって知識はある。前世で見たサバイバル番組の受け売りだがな!」俺はニヤリと笑う(ミミズの身体なので表情筋一つ動かないが)。
その知識とは、こうだ。未知の植物を食べる際は、まず少量だけを口に含み、安全マージンを考慮して1時間ほど待つ。舌に痺れや異常を感じなければ、それは安全な食料である可能性が高い!
「よし、実践だ!」
俺は慎重に、本当に慎重に、『スパイラル・ウィード』の葉の先端に、おそるおそる口器を触れさせた。
「うん、まずはこの状態で様子見……」
――その瞬間だった。
シュンッ!
「へ?」
俺の口器に触れた葉の先端が、淡い光の粒子となって霧散し、ダイソンの掃除機に吸われるホコリのように、俺の身体へと吸い込まれていった。
「えっ? ちょっ、待っ……! テイスティングのつもりだったのに、ガッツリいってもうた!」
俺の意思とは無関係に、摂食が強制完了! そして直後、ミミズの全身を、ピリピリとした鈍い痺れが襲った!
「うわああああ! やっぱり毒じゃないか! 俺のサバイバル知識、開始3秒で論破された! ていうか、このスキル、お行儀悪すぎだろ!」
《スキル《悪食》が対象を分解します》
《警告:麻痺毒によるダメージを検知。HPが減少します》
視界の端でHPが【5/5】から【4/5】、【3/5】へとゴリゴリ減っていく。パニックに陥る俺の脳内に、しかし、《解析》スキルが「はいはい、お仕事お仕事」とばかりに起動する音が響いた。
《スキル《解析》が分解された情報を読み取ります》
《条件を満たしました。スキル《麻痺耐性》を獲得します》
「……え?」
途端に、痺れが嘘のようにスッと引いていく。HPの減少もストップ。俺はすぐさま、自分のステータスウィンドウを開いた。スキル欄に《麻痺耐性(Lv.1)》が追加されている。
「……なるほど?」
どういうことだ? 《悪食》は「どんなモノでもとりあえず吸い込んで分解する」お掃除スキル。
《悪食》で毒を分解して、分解された毒素を《解析》によって解毒方法を発見し、耐性スキルに組み込む……そういうシステムなのか!
「……まさかとは思うが」
俺の視線が、先ほど見つけた猛毒キノコ『アシッド・キャップ』に向かう。
《解析》の警告は「危険度:高」「接触により溶解」。
「いやいや、さすがにこれは無理だろ。酸で溶けるんだぞ。死ぬ死ぬ、確実に死ぬ」
だが、好奇心という名の悪魔が「でもワンチャン耐性スキルゲットできるかもよ?」と囁く。
もし、この猛毒すら喰らい、スキルに変えられるなら?
俺はゴクリと唾を飲む(ような感覚に陥り)、意を決して『アシッド・キャップ』にそろり、と近づいた。そして、本当に先端の、原子レベルの微粒子に触れるくらいのつもりで、チョン、と口器を触れさせてみた。
シュゥゥゥンッ!
「うわっ、やっぱり吸い込んだー!? この食いしん坊スキルめ!」
キノコの一部が光となり、即座に俺の身体へ!
《スキル《悪食》が対象を分解。》
《警告: 強酸による急激なダメージを検知。 HP急減。》
《スキル《解析》が分解情報を緊急スキャン。 》
《条件を満たしました。スキル《酸耐性》を獲得。》
ほぼ同時に表示される警告と吉報。俺のHPは一瞬で【1/5】まで激減し、ゲームならピコーンピコーンと警告音が鳴り響いている状態だ。なんとか耐性を得て持ちこたえたが……。
「マジかよ!? 便利だけど命懸けすぎるわ! スキルガチャ一回引くのに寿命ベットしてどうすんだ!」
俺は心の中で、全力でツッコミを入れた。どうやら、このスキルコンボはハイリスク・ハイリターンすぎるじゃじゃ馬らしい。
その時だった。
『ギシャアアアアアッ!』
鼓膜を裂くような絶叫が響き渡り、地面が揺れた。見れば、数十メートル先で、カマキリトカゲと巨大ムカデが、まるで怪獣映画のような死闘を繰り広げていた。
「やばいやばいやばい……!」
俺は慌てて近くの岩陰に身を隠し、息を殺す。ミミズの身体が恐怖にプルプル震える。今の俺など、奴らの戦闘の余波(突風)だけでミンチだ。
戦いは数分で決着。マンティスリザードが勝利し、満足げに去っていった。どうやら満腹だったらしい。グルメだな、お前。
静寂が戻る。俺の目の前には、無残に切り刻まれたギガセンチピードの死骸。
血の匂いが鼻をつく。俺は勘違いしていた。スキルを手に入れたくらいで浮かれていたが、俺はミミズ。奴らにとっては、地面のシミ程度の存在なのだ。
ーーだが…
これは、絶好のチャンス(おこぼれ)だ。
俺は周囲を警戒しながら、ゆっくりと死骸に近づく。
これだ。生きたモンスターを倒すのは無理ゲー。だが、この死骸は、ノーリスクでスキルをゲットできる、最高の「リソースの塊(お宝)」じゃないか!
戦わずして、強者のリソースを得る。
今の俺に最も合った戦法――『ハイエナ戦法』だ!
『《悪食》! そして《解析》!』
死骸に触れ、スキルを連続発動!
《対象『ギガセンチピード』の死骸を分解…》
《分解情報を解析…》
《条件を満たしました。スキル《酸液飛ばし》をコピーします》
《条件を満たしました。スキル《外殻強化》をコピーします》
《スキル《硬化》は《外殻強化》に統合されます。《外殻強化》はレベル2に上がりました》
《称号:地を這うハイエナを獲得しました》
情報の奔流が止み、俺のステータスウィンドウのスキル欄だけが、確かに充実していた。
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【種族】ワーム
【個体名】トオル ソウマ
【レベル】1
【HP】 5 / 5
【MP】 5 / 5
【攻撃力】3
【防御力】5
【素早さ】1
【魔力】0
スキル:解析(Lv.2)、悪食(Lv.1)、麻痺耐性(Lv.1)、酸耐性(Lv.1)、酸液飛ばし(Lv.1)、外殻強化(Lv.2)
固有スキル:
称号:地を這うハイエナ
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「……称号、ハイエナか。不名誉だが、否定はしない。むしろ誇らしいまである!」
俺は自嘲気味に呟く。(満腹になったおかげか、いつの間にかHP・MPも全快している。どうやら、食事で回復する仕様らしい。よし、これでHP・MP切れの心配も少しは減ったな)
それに《酸液飛ばし》――これで俺にも遠隔攻撃(チクチク嫌がらせ)の手段ができた。《外殻強化》――この貧弱な身体を一時的に硬化させられる。
今はまだ我慢の時。ハイエナと呼ばれようが、ゴミ漁りと言われようが、生き残った者の勝ちだ。
そう。
ここから俺の快進撃が始まるーーー。
お読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m
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次回更新も頑張りますので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです!