第18話:森の主への挑戦状
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明日は日曜なので7:00と12:00と20:00に3話、更新予定です(*^^*)
それでは、どうぞ!
「さあ、勝負の時間だ」
俺の言葉に、ミアはこくりと頷く。
その小さな体には、もはやかつての弱々しさはない。
一人の戦士としての覚悟が満ちていた。
俺たちは、森の最深部――淀んだ魔力が渦を巻く、巨大な湖畔へと向かっていた。
アビスル・サーペント。
レベル70。この森の生態系の頂点に君臨する、正真正銘の化け物。
以前は、その存在を感知しただけで逃げ出すしかなかった相手だ。
だが、今は違う。
「作戦の最終確認だ、ミア」
俺は、湖畔を見下ろす丘の上で、最後の作戦会議を始めた。
「奴の主な感知能力は『熱』と『匂い』。
まず、俺が大規模な魔法で戦場の環境そのものをハッキングし、奴の感覚を撹乱する」
作戦はシンプルかつ大胆だ。
俺は《火魔法》と《風魔法》を同時に発動。広範囲に熱風を巻き起こし、湖の周囲の温度を急上昇させる。
さらに、事前に集めておいた匂いの強い薬草を風に乗せて撒き散らし、嗅覚を麻痺させる。
「よし。これで奴は、俺たちの正確な位置を特定できないはずだ」
俺は大きく息を吸い込むと、湖に向かって火魔法で最大級の火球を放った。
「――お目覚めの時間だ、主さんよぉ!」
ザバアアアアアンッ!
俺の挑発に応えるかのように、湖の水面が爆ぜ、水柱が上がる。
その中から、巨大な影が姿を現した。
全長数十メートル。家屋ほどもある太い胴体。
そして、獲物を睨みつける、邪悪な輝きを放つ瞳。
アビスル・サーペントが、ついにその全身を晒した。
『シャアアアアアアアアアアアッ!』
怒りの咆哮と共に、サーペントは口から禍々しい紫色のブレスを吐き出した。
だが、その狙いは、俺たちが今いる場所から大きく逸れている。
「よし、作戦通りだ!」
感覚を狂わされたサーペントは、やみくもにブレスを乱射するしかない。
「ミア、行くぞ! 懐に潜り込んで、一気に叩く!」
「うん!」
俺たちは、乱れ飛ぶブレスの弾道を《魔力感知》で見極めながら、一気に距離を詰める。
「《アシッド・ブレード》!」
俺の強酸の刃が、サーペントの巨大な胴体に叩きつけられる。
ジュワッ!と音を立てて鱗が溶け、確かなダメージを与えた。
『グオオオッ!?』
痛みを感じたサーペントが、その巨体に似合わぬ速度で尾を薙ぎ払う。
「遅い!」
俺は《空中歩行》でそれを躱し、ミアは《シャドウ・ウィップ》で尾を打ち据え、動きを僅かに逸らす。
完璧な連携。
俺たちは、格上のはずのサーペントを、確実に押していた。
(いける…! このまま押し切れる!)
俺の心に、油断が生まれた、その時だった。
サーペントの動きが、ピタリと止まった。
その瞬間、サーペントの全身の鱗が、不気味な紫色の光を放ち始めた。
《コード・アナライザー》が、俺の知らないスキル名を弾き出す。
【警告:対象がスキル《ポイズン・フィールド》を発動。周囲一帯の魔素が、猛毒属性に強制変換されます】
「なっ…!?」
空気が、変わる。呼吸をするだけで、肺が焼けるようだ。
《毒耐性》のスキルが常に発動しているが、それでも全身が痺れてくる。
《《毒耐性》の熟練度が一定に達したため、スキルレベルがLv.5に上がりました》
《《毒耐性》の熟練度が一定に達したため、スキルレベルがLv.6に上がりました》
スキルレベルは上がる。
だが、それ以上に、フィールドから浴びる毒の侵食が速い!
俺の《火魔法》は、毒の魔素に阻まれて威力が激減。
《風魔法》は、猛毒の嵐を巻き起こすだけの自殺行為と化した。
俺が作り出した有利な戦場が、一瞬にして、相手の独壇場へと書き換えられたのだ。
「ミア! いったん引くぞ!」
俺は咄嗟に判断するが、もう遅い。
アビスル・サーペントは、もはや熱や匂い、振動にすら頼っていなかった。
この毒のフィールドそのものが、奴の感覚器官となっていたのだ。
紫色のブレスが、今度は寸分の狂いもなく、俺たちを襲う。
「ミア!」
「うん!」
ミアが《シャドウ・ガード》を展開するが、毒の魔素を吸ったミアの壁は、先ほどよりも遥かに脆く、すぐにひび割れていく。
「くそっ!」
俺はミアを突き飛ばし、ブレスの余波を浴びて吹き飛ばされる。
HPが危険領域まで削られる。
追い打ちをかけるように、サーペントの巨大な尾が迫る。
(もう、MPも残り少ない…この一撃を防がれたら、次はない…!)
俺は覚悟を決め、残った魔力の半分近くを注ぎ込み、右腕に最大出力の《アシッド・ブレード》を形成した。勝機は、カウンターでの一撃必殺しかない。
ミアが、俺の意図を汲んで《シャドウ・ウィップ》を放ち、サーペントの注意を引く。
その隙に、俺はサーペントの喉元を狙って跳躍した。
「おおおおおっ!」
渾身の一撃。だが――――
ガキンッ!!
甲高い音を立てて、俺の《アシッド・ブレード》は、サーペントの喉元を覆う、より一層硬質化した鱗に阻まれ、砕け散った。
「なっ…!?」
嘲笑うかのように、サーペントの目が細められる。
それは、圧倒的強者から、足元で虚しい抵抗をみせた虫けらに向けられるような、絶対的な侮蔑。
巨大な顎が、俺の頭上から迫る。
MPは残りわずか。体はボロボロ。
もう、避けられない。
その瞬間、俺とサーペントの間に、小さな黒い影が割り込んだ。
「ヴァル様に…手出しはさせない…!」
ミアが、最後の力を振り絞り、俺の盾になろうとしていた。
「ミア! やめろぉおおおおおおおっ!」
俺の絶叫も虚しく、アビスル・サーペントの牙が、小さなインプの少女を――――。
最新話までお付き合いいただき、ありがとうございます!
今回はこれまでで一番熱いバトルになるように、特に力を入れて書きました。
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