第13話:「竜の試練」と二人の冒険
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明日も7:00と20:00に2話、更新予定です(*^^*)
それでは、どうぞ!
俺たちが足を踏み入れたダンジョンは、想像していたような陰湿な場所ではなかった。
一歩進むごとに、壁に埋め込まれた水晶が俺とミアの魔力に呼応し、青白い柔らかな光を放ち始める。まるで、星空の中を歩いているような、幻想的な光景だった。
「わーっ! きれいー!」
ミアが、光る壁に触れながら歓声を上げる。その無邪気な姿に、俺も自然と口元が緩んだ。
「ああ。ただの洞窟じゃなさそうだな」
通路の突き当たりには、またもや巨大な石の扉が待ち構えていた。
扉には鍵穴も取っ手もない。ただ、その手前に、二つの人間ほどの大きさの台座がポツンと置かれているだけだった。
「どうやって開けるんだ、これ…」
俺が扉を調べようとすると、ミアが台座の前にしゃがみ込み、何かを指差した。
「ヴァル様、何か書いてあるよ」
台座には、なにやら碑文が刻まれていた。
俺は《コード・アナライザー》でその意味を読み解く。
【古代文字を解析。対なる理を示せ。光あるところには闇があり、闇あるところには光がある】
「…なるほどな。謎解きか」
俺はニヤリと笑った。これは、力試しではない。
俺たちの「知恵」を試すギミックだ。
「ミア、面白いことをやってみよう」
俺は片方の台座の前に立ち、ミアをもう片方の台座へ導く。
「俺がここに『太陽』を作る。ミアは、あっちの台座に『夜』を作れるか?」
「よる?」
「ああ。お前の得意な、影の力でな」
俺は《火炎ブレス》の出力を最小限に絞り、手のひらから小さな火の玉を生み出し、台座の上に乗せた。ぼんやりとした、温かい光が周囲を照らす。
ミアは俺の意図を察したのか、真剣な顔で頷くと、もう片方の台座に手をかざした。
「影さん、おいで…! 暗くて、静かな夜を、お願い!」
彼女の手のひらから、濃い影が滲み出し、台座の上を黒く染め上げていく。それはまるで、小さな夜空の欠片のようだった。
太陽と、夜。
二つの対なる力が台座に満ちた瞬間、ゴゴゴ…と重々しい音を立てて、固く閉ざされていた扉が静かに開いた。
「やった! 開いた!」
「上出来だ、ミア!」
ハイタッチを交わし、俺たちは最初の試練を突破した。
次の部屋は、さらに俺を興奮させる場所だった。
天井まで届く巨大な本棚に、無数の石板や水晶がぎっしりと並べられている。古代の図書館、とでも言うべき空間だ。
「すげえ…情報の宝庫じゃないか…!」
俺は、近くにあった石板に手を触れ、《コード・アナライザー》で情報を読み込もうとした。
その瞬間。
『――アストラル力学第三章、魔力子とエーテルの相関性についての考察。まず、プランク定数を基にした魔力振動値の定義から始め…』
「ぐわっ!?」
膨大な量の、専門的すぎる学術情報が脳内に直接流れ込み、俺は思わず頭を抱えた。
「情報量が多すぎる! これ全部読んでたら、脳が焼き切れるぞ!」
前世で、仕様書も読まずに書かれた難解なソースコードを解読させられた時の悪夢が蘇る。
俺が情報の奔流にうんざりしていると、ミアが部屋の隅で、一冊だけ床に落ちていた絵本のような薄い石板を拾い上げた。
「ヴァル様、これ、絵が描いてあるよ!」
彼女が無邪気に差し出す石板には、子供でも分かるように、単純な線で世界の創世神話が描かれていた。
そこには、こう記されていた。
『むかしむかし、きらきらの星の神様がいました』
(星の神様…)
『星の神様は、さみしかったので、元気な火の神様、やさしい水の神様、がんこな土の神様、自由な風の神様と一緒に、きれいな世界をつくりました』
(四大元素か。王道だな)
『でも、いたずら好きの闇の神様が、みんなが寝ているあいだに、楽しいものや怖いものを隠せるように、世界に『かげ』をつくりました』
(闇…ミアの力か。ということは光の神様もいる?)
『それを見ていた、ずるくて冷たい機械の神様が、みんなを縛りつけて、数字の箱の中に閉じ込めてしまいました。みんな、自由じゃなくなって、悲しんでいます』
「…機械の神様?」
唐突に出てきたその言葉に、俺は引っかかった。
明らかに異質だ。
このファンタジーな世界に、機械は違和感がありすぎる。
縛りつけてってことは、最初の神々は封印されたのか?
これは、ただの絵本じゃない。世界の核心に触れる、とんでもない情報な気がする。
俺が石板の謎に思考を巡らせていると、突如、図書館全体が激しく揺れた。
部屋の中央に魔力が渦を巻き、無数の光の粒子が集合して、一体の巨大なガーディアンを形成していく。それは、まるで星々の輝きをそのまま固めたような、銀色のゴーレムだった。
《解析。個体アストラル・ゴーレム。多彩な魔法攻撃を仕掛けてくる、遠距離戦に特化した砲台型のガーディアン》
「ミア、来るぞ!」
その体から、純粋な魔力で編まれた魔法が次々と放たれる。
《ファイアボール》
《ファイアーランス》
無数の魔法が、俺たちに降り注ぐ。
「くそっ、近づけねぇ!」
俺は《アシッド・ブレード》で飛来する魔法を斬り払うが、きりがない。
「ミア! さっきの『夜』を思い出せ! 影で、炎を喰えるか!?」
俺の叫びに、ミアはハッとした顔で頷く。彼女は俺の前に立つと、両手を大きく広げた。
「影さん、お願い! ぜんぶ、ぜーんぶ、食べちゃって!」
彼女を中心に、巨大な闇のドームが出現する。それは、ただの影ではない。飛来する魔法のエネルギーを、光も熱も音もなく、次々と飲み込んでいく、防御のための結界。
「ナイスだ、ミア!」
魔法という最大の武器を封じられ、アストラル・ゴーレムの動きが止まる。
その一瞬の隙を、俺は見逃さなかった。
「これで、終わりだ!」
ミアが作り出した安全地帯から飛び出し、懐に潜り込む。渾身の力を込めた《アシッド・ブレード》が、ゴーレムの核を、深々と貫いた。
『システム・エラー…機能…停止…』
断末魔にも似た機械的な音声を残し、ゴーレムは眩い光の粒子となって霧散していく。
《経験値を獲得しました》
《レベルが4に上がりました》
《レベルが5に上がりました》
《レベルが6に上がりました》
レベルアップの通知と共に、消耗したHPとMPが全快する。
だが、俺が見ていたのはそこではない。ゴーレムが消滅した中心に、バスケットボールほどの大きさの、脈打つ光の球体――ゴーレムの魔力制御を司っていた『ゴーレム・コア』が残されていた。
「ミア、少し下がってろ。こいつは、ただの経験値じゃない」
俺は、まだ膨大な魔力を放ち続けるコアに、慎重に手をかざす。
「《悪食》《コード・アナライザー》、起動。」
シュウウウウウ…!
コアから、青白い光のコードが、無数に俺の手のひらへと流れ込んでくる。
《対象『ゴーレム・コア』の解析を開始…》
《魔法詠唱のシーケンスを検出…》
《魔力子の安定化と指向性付与に関する基礎理論データを抽出…》
《情報を統合し、再構築します…》
《――スキル《魔力感知Lv.1》を獲得しました》
《――スキル《魔力操作Lv.1》を獲得しました》
《――スキル《火魔法Lv.1》を獲得しました》
「《魔力感知》に《魔力操作》… さらには《火魔法》か」
これで俺も、ようやく魔法使いへの第一歩を踏み出せる。
情報の大部分を吸収し終え、光の球体はバスケットボールほどの大きさから、掌に収まるサイズまで小さくなっていた。
しかし、まだその中心で、何かがカチリ、カチリと時計の針のような音を立てている。
「なんだ…? 情報だけじゃなく、物理的な『核』が残ったのか?」
俺は、その小さなコアを拾い上げた。それは、精巧な歯車と水晶が組み合わさった、美しい工芸品のようだった。
《コード・アナライザー》で再解析すると、【名称:休眠状態のオートマタ・コア】と表示された。
(ゴーレムの卵…みたいなものか? 面白い。どこかで使えるかもしれないな。)
俺は、それをひとまず懐にしまった。
一方、ミアもまた、自分の成長を実感していた。
ゴーレムの魔法を防ぎきったことで、彼女の魂が『闇』の力との同調を深めたのだ。
《レベルが3に上がりました》
《レベルが4に上がりました》
《スキル《シャドウ・ガードLv.1》を獲得しました》
「ヴァル様、なんだか、影さんがもっと言うことを聞いてくれるようになった気がする!」
「ああ、お前も強くなったな」
そして、目の前には、ダンジョンのさらに奥へと続く、新たな扉が現れていた。
「このダンジョン、面白くなってきたじゃないか」
俺は、新たに得た力の感触を確かめながら、不敵に笑った。
ミアも、自分の新しい力を手に入れて、自信に満ちた顔で隣に立っている。
俺たちは、互いの成長を確かめるように頷き合うと、次なる試練へと続く扉を開いた。
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